不思議な少年を助けてみたものの……
――ラ・トビアが、とある騎士団に保護されてから……。
じつに二十日は経とうとしていた。
その間、ラ・トビアはほとんど意識を失ったまま。
保護されたとき、まだ少年の身体にはいくつもの傷があった。
それは他者から酷い暴力を受けた蓄積の痕というよりは、何か大きな禍に巻き込まれ、それで傷を負ったのだろうと思える、そんな擦り傷や打撲だ。
ただ――。
その怪我だけを見れば、ラ・トビアが酷く眠りつづける理由には繋がらない。
でも……。
――保護した少年は、いまも目を覚ますには至らない。
助けた手前、何があったのかを尋ねたくても、ラ・トビアがこのような状態では知るのも困難。
本来は、ひょっとすると溌溂かもしれない。
年ごろも一見して、十五かそこら。
少年らしい、ちょっとやんちゃな癖がある黒髪を撫でながら、騎士は「無事に目を覚ましてほしい」と祈り、手を合わせる。
「――よほどのことがあったのでしょうね」
ラ・トビアを助けた騎士たちの心配と同情は、深い。
――ラ・トビアを発見したとき……。
少年は異国の騎士団の一団にいたが、――その扱いは目に見えて酷かった。
その身は両手足を呪術的な拘束器具でがんじがらめにされており、これは保護した彼ら騎士が叩き割るのも容易ではなかった。
何より!
身動きが取れない状態で、異国の騎士団たちは道中、ドラゴンに襲われ、全滅している。
たまたま遭遇した彼らは、息絶えた一段の受けた傷跡からそう判断し、手厚く葬る最中に息があるラ・トビアを発見。
これは想像だが、ドラゴン襲撃時、護送されていた馬車から放り出されてしまったが、それで運よく助かったのかもしれない。
「ほんとう、よく無事でいられたものだ」
騎士たちは心底安堵し、すぐに保護を決めたが……。
――それから二十日。
この状態は好転していない。
「ですが、解せないこともいくつかあります」
ラ・トビアを拘束した状態で護送していたのだろう騎士団は、その紋章から他国ではあるが、正規の騎士団であることは判明している。
悪い噂は聞かない。
むしろ、人道に篤く、慕われていると聞く。
だが……。
その騎士団はラ・トビアを拘束から解放しようとはしなかった。
「これは、この子がそれに値する人物である確率が高い」
「つまり?」
「ただの少年ではない、かと」
言って、ちらりと見やるが、とても危険な存在だとは思えない。
「例えば、人買いに攫われ、全滅した騎士団が一時的に保護しましたが、最初から呪術的な拘束がされていたため、安易に解放できず、やむを得ず拘束の状態のまま連れていた可能性」
「それは助けたくとも、一度、彼らの本国に戻り、しかるべき魔導士の助けがないと拘束器具を破壊できないから?」
「人道的な騎士団のなかにいたのであれば、そう考えたいです」
だが……。
もし……。
もし、ラ・トビアが、仕方なしに拘束するに値する人物だったとしたら?
「万が一、この子が目を覚まし、それで災厄が起こるのであれば――」
「保護不可能と見なして……」
「それは避けたい事態ですね」
騎士たちはラ・トビアの今後をどう扱うのかを議論し合う。
できれば、いまも眠る少年の本性が危険人物であってほしくない。
いまはきちんと療養させたい。
――しかし……。
「いちばんの問題は、あの子の傍から離れない紅いトカゲです」
トカゲは小さく、長い尾を含めて三十センチあるかどうか。
宝玉のような鱗を持ち、どこか愛嬌のある顔つきをしている。
一見して、すぐにどこかウロチョロしていきそうだが、いまは意識の戻らぬラ・トビアの指や手首に絡みついて、
「きゅう、きゅう」
心底心細そうに鳴いて、トカゲなりに必死に少年の身を案じている。
そのこと自体は、何ら不思議ではない。
きっと、よほどの絆を持つペットか何かなのだろう。
何とも主思いなのだと思えるが、その小さなトカゲの背には特徴的な翼がある。
それは――。
「ただのトカゲが、翼を持つことはありません。身体は小さいですが、あれは間違いなくドラゴン。――しかも、幼竜です」
「ドラゴンが人間に懐くなんて、まずあり得ない。ただ変異のトカゲでは?」
「そう思いたいのですが……」
――ドラゴンは、敵!
――人々に被害を与える前に、退治せねば!
それが彼ら騎士団の意識であり、忠誠を誓う国の意識であり。
この世界共通の意識であった。
だから、この紅いトカゲは本来、即刻処分に値する。
なのに、どこかで意識が曖昧にされて、ドラゴンだとわかっていても、これはトカゲだという意識を強制的に植えつけられたような気分になって、彼らは眠るラ・トビアのペットとしての意識で、いまは見ている。
うっかりすると、「かわいそうに」と、トカゲを憐れんで撫でたくなってしまう。
「よくわかりませんが……、誰かがこのトカゲを護るために、強力な術を施しているのでしょうね」
「それは目くらまし的な?」
「ええ」
「でも、いったい、誰が――」
言って、彼らはいまも「きゅう、きゅう」と鳴く幼竜が離れない少年――ラ・トビアを見やった。
――まさか、な。




