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プロローグ:Noctivagant Oath

みなさん、はじめまして。アッシュと申します。まずは、本作をご覧いただき誠にありがとうございます。

これまで他プラットフォームでいくつか小説を執筆してまいりましたが、日本語で小説を書くのは今回が初めての挑戦となります。

拙い文章ではございますが、独自の世界観とキャラクターたちの物語を楽しんでいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

 暗闇。


 しかし、それは安らぎを与えるような闇ではなかった。まるで世界そのものが、一筋の光すら存在することを拒むような、息の詰まる虚無だった。


 地図にない、石壁と鉄格子に隠されたどこかの片隅。鎖の擦れ合う音と、生温かい血の臭いの中に、小さな悲鳴がゆっくりと沈んでいく。冷たい金属製の台の上に、一人の子供が硬直したまま横たわっていた。その身体は、刻まれるすべての傷を受け止めるにはあまりにも脆かった。小さな腕には無数の切り傷があり、何本もの金属の針が静脈の奥深くに突き刺さっている。その胸は、かすかにしか聞こえない震える呼吸とともに、上下に波打っていた。


 子供はもう泣かなかった。涙など、とっくの昔に枯れ果てていたからだ。残されたのは、うつろな瞳と、意識を無理やり繋ぎ止めようとする痛みの拍動だけだった。


 彼らにとって、この子は「被験体」にすぎなかった。子供でもなければ、人間でもない。ただの器、あるいは、その小さな身体がどこまで苦痛に耐えられるかを試し、見極めるためだけに、幾度となく壊されても構わない道具だった。


 しかし、吹き荒れる苦悶の中で、いつも他とは違う気配が一つだけあった。静かな足音、細心の注意が払われた優しい触れ方、そして、世界が残酷すぎる時にいつも囁きかけてくれる柔らかな声。


 一人の若い女性が、台の傍らに膝をついた。彼女は濡れた布で、子供の口元にこびりついた血を拭い取る。その瞳は細かく震えていたが、それでもこの小さな子の前では強くあろうと、無理に微笑みを浮かべた。


「ねえ」彼女は静かに囁いた。「私を見て」


 子供の瞳がゆっくりと動き、この拷問に満ちた部屋で、これまで唯一の光だったその顔を探し求めた。


「今日も生き延びられたね」女性は優しく言った。「いつも通りに」


 青白い小さな唇が激しく震える。「……痛い」


 女性は小さく頷き、自分の額を子供の額にそっと重ねた。「分かっているよ」


 痛いほど、分かっていた。


 なぜなら、あの悲鳴を耳にするたび、それは彼女の心を蝕んでいたからだ。流れる血の一滴一滴が、すべて彼女の目の前で零れ落ちていた。そのたびに、彼女は子供を救うために何一つできない自分を激しく憎んだ。


「私の話をよく聞いて、ノクト」


 その名は祈りのように紡ぎ出された。この子が単なる数字や被験体ではなく、一人の「人間」であることを、生きる権利を持つ小さな「世界」であることを思い出させるように。


「自分がどこから来たのか、決して忘れないで」彼女は掠れた声で言った。「自分が誰なのか、そして彼らに刻まれたその痛みを、絶対に忘れないで」


 子供は当惑したように彼女を見つめた。


 どこから来たのか? 自分が誰なのか? それらの言葉は、暗闇と苦痛しか知らなかった小さな頭脳には、あまりにも大きすぎた。


 女性は、その脆い身体の傷を押さえてしまわないよう注意しながら、ノクトの手を少し強く握りしめた。子供の手首に巻かれた包帯の隙間から、その年齢の子供には決してあるはずのない、微かな刻印が覗いていた。


 一瞬、女性の瞳に激しい怒りと恐怖が宿った。「いつか……あなたにも分かる時が来る」


 彼女は深く息を吸い、長い間胸に秘めていた決意を固めた。「ノクト、よく聞いて」


「行きなさい」


 小さな瞳が見開かれた。


「行くのよ」彼女は繰り返した。「できる限り遠くへ走りなさい」


「でも――!」


 詰まりそうな小さな声が抗議しようとしたが、女性はすぐにそれを遮った。


「その人を探して。あなたの心の拠り所になってくれる人を。世界があなたを壊そうとする時、あなたを繋ぎ止めてくれる人を」


 彼女はうつむき、包帯で覆われた子供の手の甲に自分の額を寄せた。「そして」空気の中に消え入りそうな声で囁いた。「戻ってきて」


 子供の身体が震えた。


「私を、救い出して」


 その夜、彼らを縛り付けていた鎖が解き放たれた。警報が静寂を破って鳴り響き、鉄の通路を激しい炎が飲み込み始めた。その混沌の中で、一人の子供が走り続けた。足から血を流し、肺が焼けるように熱くても、止まらなかった。


 周囲の世界がぐにゃりと歪んでいくようだったが、それでも彼は足を止めなかった。暗闇の奥底から、決して置き去りにできない一つの声が、自分の名前を呼び続けていたからだ。


「ノクト」


 彼は身体が力尽きるまで走り続け、ついに完全な闇が、息の詰まるような静寂の中に彼を呑み込んだ。そして、意識が薄れゆく中で、たった一つのことだけが脳裏に残っていた。たった一つの、名前。


 ノクト。


 たとえいつかすべてを忘れてしまったとしても、守り続ける名前。

最後までお読みいただき、誠ilyにありがとうございました。初投稿ということもあり、至らない点も多々あるかと思います。もしよろしければ、ご感想や評価、ブックマークなどをいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります。


次回の更新もどうぞよろしくお願いいたします。


【注釈】

作中のキャラクター「ノクト」の名前について、日本語表記では「ノクト(Nokuto)」となりますが、英語表記および本来の綴りは「Nocht」となります。


もしこの小説の表紙カバーアートやキャラクターのデザインが気になった方は、ぜひ私のTikTokやWattpad(ユーザー名:ashquixote_)を覗いてみてください!

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