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七つの滞在 〜オタク男子の平穏な日常を破壊する、最強の美少女悪魔たち〜  作者: ほさ
ドッキドキのクリスマスライブ

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30/30

『悪魔と過ごす初めてのホワイトクリスマス』

「早く! 拓巳!」

ここは秋葉原駅を出た、電気街側の出口。

イルミネーションに彩られた街並みの中を、ルシファーは急ぎ足でどんどん前に進んでいく。

「久しぶりのアキバの風を感じてるのに……。分かりましたよ、待ってください」

僕は彼女の背中を追いかけながら、とぼとぼと歩いていく。

時刻は18時。神代拓巳、20歳。まさかクリスマス当日に、女の子と2人きりで街を歩くことになるとは……。いや、相手は悪魔なんだけど。

(お父さん……お母さん。僕は立派な大人になりました……! いや、あくまで『悪魔』と一緒になんだけど!)

そんなわけのわからない実感を胸に抱きながら、ルシファーについていく。

「すごいわね、これ。イルミネーションっていうの? こんなきらきらしい光の演出を、魔法も使わずに人間の技術だけで……。やっぱり人間っておかしいわね」

ルシファーが足を止め、街を彩る光の洪水に感心したように呟いた。

「……」

僕は何も言わず、ただその光景を眺める。

「ねえ? 聞いてるの、拓巳?」

「……え? あ、ああ、はい! クリスマスっていいですねぇ」

僕は自分の置かれた状況に、ついデレデレとニヤケながら返事をしてしまった。

「は? 何言ってるのよ、気持ち悪いわね」

そんな他愛もない会話をしながら歩いていると、やがて目的のクリスマスライブが開催される劇場に到着した。

「よし……」

ルシファーが小さく気合を入れるように呟く。

「ん?」

僕が何気なく彼女を見ると、ルシファーは着ていた黒いダウンジャケットのジッパーに手をかけ、ゆっくりと下ろし始めた。

(え? え? えええっ!?)

僕は思わず乙女のように両手を顔に当て、指の隙間からひっそりとルシファーを凝視した。

ジィィ……と、彼女は鼻歌混じりにジッパーを降ろしていく。そのジッパーの先から、ボヨンと飛び出るルシファーの――。

「あれ?」

思っていた展開と、目の前の光景が全く違っていた。

ダウンジャケットの下から現れたのは、色気も何もない、いつものド派手な「ピンク色の法被はっぴ」だった。

「あ……ああ……」

僕が分かりやすく肩を落として落胆する。

「え? どうかしたかしら、拓巳?」

「あ、いや……。下にその格好を仕込んでたんだな、と思っただけです……はい」

「当然でしょ! これは私の戦闘服よ! これからステージに立つ推しの『ゆめのん』のパーソナルカラーなんだから!」

「ああ、はいはい、そうでしたね」

その後、僕たちは『くりいむsoだ』のプレミアムクリスマスライブを心ゆくまで堪能した。

ライブ中のルシファーは、周りの屈強なオタクたちと一糸乱れぬ動きで息を合わせ、凄まじい熱量で盛り上がっていた。僕はそんな彼女の姿を後ろから優しく(?)見守り、大きなトラブルもなく無事にライブは終了した。

「私、これから物販に行って、ゆめのんとチェキ撮ってくるから!」

ライブ終了後、興奮冷めやらぬ様子でそう言い残したルシファーを待つため、僕は劇場の外で待機することにした。

外に出ると、昼間よりも一段と冷え込んだ肌寒い夜風が吹き抜けた。

「うう、寒いっ……!」

思わず身震いしながら、ポケットに手を突っ込んで1人ごちる。

「あれ……?」

何気なく夜空を見上げた。秋葉原の夜空には、パラパラと白い結晶が舞い落ちており、アスファルトの上にもうすーく雪が積もり始めていた。

「今夜、雪の予報なんてあったかな……。ホワイトクリスマスか……」

その時だった。

「拓巳ィィィィィィ!!!!」

遠くから、僕の名前を叫ぶやたらと大きな声が響き渡った。

「え?」

声のした方へ目を向けると、道路を挟んだ向こう側に、何やら白い人影が猛スピードでこちらへ向かって走ってくるのが見えた。

「雪の……妖精……!?」

眼鏡のブリッジを少し指で上げながら、目を凝らす。その白い人影は、次の瞬間、一瞬で僕の視界から消え去った。

「あれ?」

ボゴォッ!!!

「おぶっっ!!?」

強烈なタックルをかまされ、凄まじい勢いで抱きつかれながら後方へ吹っ飛ぶ。

「よかったぁぁぁ! 拓巳! 生きてたのねぇ!」

僕の胸に顔を埋めて歓喜しているのはサタンだった。

「いや、死ぬような危険なことしてませんから! ていうか、重いのでどいてください!」

そこへ、一歩一歩フラフラとした足取りで、こちらへ近づいてくる影があった。

「ごめん……拓巳。そいつを、止められなかった……」

ボロボロの状態で、精神的にも物質的にも疲れ果てた様子のエヴァだった。

「ええっ、エヴァさん!? どうしたんですかその格好!?」

「どうしても今すぐ拓巳のところに行くって言って聞かないサタンを、力ずくで止めようとしたら……このザマよ……」

エヴァさんはガクリと項垂れる。

「ああ……。うちの居候が本当にごめんなさい……」

僕は平謝りするしかなかった。

「続けて質問なんですけど、なんでここが分かったんですか、サタン?」

僕が腕の中の白い悪魔に尋ねると、彼女は当然のように胸を張った。

「え? 拓巳の匂いなら、この世界のどこにいたってすぐに分かるわよ❤」

「いや、怖っ!! ストーカーの才能が限界突破してるじゃないですか。……ていうか、一緒に仕事に行っていたベルフェゴールはどこに?」

「ベルフェゴールなら、『仕事終わった、眠い』とか言って、さっさと1人で家に帰っちゃったわよ。『サタンをこれ以上連れて歩くのは体力が持たない、無理』とか言って、私に押し付けてね……」

エヴァが遠い目で溜め息をつく。

「ああ、エヴァさん……色々と本当にすみません……」

「別にいいわよ。それで、今日は楽しめたの?」

「ええ。付き添いでしたけど、すごく楽しかったです」

「いいなぁぁぁ! 私だって拓巳とデートしたい! あのバカルシファーなんか今すぐ殺してあげるから、今から私と朝までデートしよ!?」

「しませんよ。というか、物騒だから絶対に殺さないでくださいよ」

その時、僕たちの背後から冷ややかな声が聞こえてきた。

「あれ? なんであんたらがここにいるのよ」

「ルシファー? 物販とかチェキ会はもう終わったんですか?」

振り返ると、法被の上にダウンを羽織ったルシファーが立っていた。彼女は少し気まずそうに、ふいっと顔をそらす。

「……あんまり寒い中で、あんたを待たせるのも悪いと思ったから……適当に切り上げてきたのよ」

少し恥ずかしそうにツンとするルシファー。

「ちょっと! 拓巳に変な色目使ってんじゃないわよ、このドロボウ猫!」

それを見たサタンが、僕とルシファーの間に強引に割って入った。

「変な色目なんか使ってないわよ! というか、なんでアンタがここにいるのよ、このストーカー!」

「え? だって私は拓巳の『妻』だもの。夫のところに駆けつけるのは当然でしょ?」

サタンがさも当たり前のように言い放つ。

「はあ!?」「何を言ってるんですか、この白いバカ悪魔は!?」

ルシファーと僕の声が綺麗にハモった。

「はあ……もういいわ。寒くなってきたし、さっさと帰りましょ、拓巳」

ルシファーが腕を組んで歩き出す。

「そうですね。今夜はアスモデウスが、クリスマスケーキとチキンを用意して待ってくれてるみたいですから」

僕が言うと、さっきまでボロボロで死にそうだったはずのエヴァが、もの凄い勢いで食いついてきた。

「えっ!? アスモデウスお姉様の、手作りクリスマスディナー!?!?」

「食べたいなら、アンタもウチに来なさいよ。今日はこいつ(サタン)の重荷を背負ってくれたんでしょ?」

ルシファーのツンデレな誘いに、エヴァは「行く!」と即答した。

「私だってちゃんと今日はお仕事してきたのよ! ルシファーなんか置いて、さっさと2人でマイホームに帰りましょ? 拓巳❤︎」

サタンはそう言いながら、僕の右腕に自分の両腕をぎゅっと絡ませて、胸を押し付けてくる。

「えっ、ちょ、サタン! 密着しすぎ!」

「あー! ちょっとあんた、そこを離れなさいよ!!」

ルシファーが怒髪天を突く勢いで怒鳴り散らす。

頭上で静かに降り積もるホワイトクリスマスの中、僕たちの「2人きりのクリスマスデート」は、やっぱりいつも通りの大騒ぎで、賑やかに幕を閉じるのだった。

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