第85話 私にはまだ早すぎる勉強ですからっ
ブロッカの街でいつものように働いていると、遅番の同僚が話しながら入ってくる。
どうやら外に、かっこいい人が立っているらしい。
仕事を終えてリタと外に出ると、そこには確かに人影があった。
「初めまして、サビーナの兄のセヴェリです。いつも妹がお世話になっています」
「リタよ。サビーナにお兄さんがいたなんて初めて聞いたわ。どうして教えてくれなかったの?」
「いや、別に言う必要もないと思って……それよりその、お兄ちゃん……どうしたの?」
どうやら、わざわざクスタビ村からキクレーに借りた馬を飛ばして祝いに来てくれたらしい。
サビーナは寮に案内すると、セヴェリを部屋に招いた。
「ケーキのひとつでもあれば良かったのですが……十七歳の誕生日、おめでとうサビーナ」
「何が良いのか分からなかったので、このシリーズでまとめてみました。あなたは自分のためにお金を使っている様子がなかったので」
「ありがとうございます! うわー、最新刊もある……嬉しいっ」
「あなたのそんな顔を見られただけで、来た甲斐があったというものです」
「もしかして、買いたいものがあるって言ってたのは、私へのプレゼントを……?」
「ええ、もちろん。来年は、もっとちゃんと祝いましょう。この国では十八歳が成人のようです。お酒も飲めるようになりますしね」
「いえ、私は……それよりセヴェリ様の誕生日は八月ですよね。何か欲しい物はありますか?」
真っ直ぐに伝えられ、言葉を詰まらせた。
いつものクスクス笑いや意地悪顔ならからかっているのだと判断出来るが、今の彼は何を考えているか分からない。
首を傾げながら頷くと、セヴェリはいつものように微笑んでから立ち上がった。
「あなたを今日中に祝う事が出来て良かった。ゆっくり休んでください」
「え? セヴェリ様、泊まって行かれないのですか? 今から村に帰るのは、夜も遅いし危険です」
「ここに泊まるとなると、またあなたはベッドを私に譲り、床で寝ようとするでしょう? 今日はキクレー卿の所に泊まるので大丈夫ですよ」
「ええ。サビーナの事を言うと、キクレー邸で祝おうとクリスタは言ってくれたのですが、お断りしたのです。貴族のパーティーなど、あなたが嫌がると思いまして」
確かに、たかが一般庶民の誕生日で貴族に祝われるなど気が引ける。きっと断るにも神経を使ったに違いないだろうが、その配慮にサビーナは感謝した。
セヴェリはがそっとサビーナに歩んできて、その胸にギュッと抱き寄せられた。
いつまでもこの鼓動を聞いていたい……そんな思いに駆られてしまう。
サビーナからは離れられなくなってしまった時、セヴェリがゆっくりとサビーナの肩を掴んで距離を取った。
「このままずっとこうしていたいですが……あまり遅くなっては、泊まる場所を提供してくれた卿に失礼です。そろそろ……行きますね」
離れていく体が、手が、寂しいと思ってしまうのは何故だろうか。
行って欲しくない。行かないで。傍にいて。……そんな言葉は、兄のリックバルドになら言えた我儘だっただろう。
おやすみを言い合うと、クリスタを呼び捨ていたセヴェリは、部屋を出て行った。




