第72話 怖い……死にたくない……
「んじゃ次。リカルド、キアリカ、サイラスだけど、この三人はオーケルフェルトの騎士からそのままディノークスの騎士へ移行してる。班長って立場も変わらずだ。リカルドには隊長への昇進話があったみたいだが、断ったらしい。ディノークス騎士隊の隊長は、今もシェスカルがやってる」
「リックバルドって奴は、ディノークスの騎士にはならずに辞めたらしい。ランディスの街から出て行ったって話だが、どこに行ったかまでは調べられなかった」
「それより先に、ひとつ言っておかなきゃいけない事がある。俺はこれらを調べてるうちに、騎士の一人に不審がられて捕まっちまった」
「まぁな。安心してくれ、この場所は一切教えちゃいないからさ。正直俺も囚われた時は焦ったけど、その男は……セヴェリ、あんたの味方だったってわけだ」
シェルトは一枚の封筒を取り出した。
「あんたに渡してくれって頼まれたんだ。中身は俺も見てないから分からねぇ」
それは、リカルドからの手紙だった。
リカルドの考えとしては、セヴェリと共に謀反を起こす覚悟があったようだ。しかし皇帝に密告されてはどうしようもなかったと、シェスカルを引き入れる為にもっと積極的に動くべきであったとの後悔が書かれていた。
リカルドは、マウリッツが連行されている時点でセヴェリを逃亡させる計画を立てていた。そしてデニスに持ち金を渡して、宝石に換えるよう言い付けたのだ。
しかしその宝石を受け取る暇がなく、デニスにその役目を押し付けるような形になってしまった事。そのせいでデニスは表立ってシェスカルと対立してしまった事。デニスはシェスカルに取り押さえられ、自分の所為で二年間も牢獄に幽閉される事になってしまったと書かれていた。
そして、手紙の二枚目には、こう書かれていたのである。
〝サビーナはレイスリーフェ様とクラメルの騎士を二名殺した罪により、一級殺人犯として手配されております。彼女と一緒にいるとセヴェリ様まで巻き込まれる可能性がありますので、別行動を取る事をお勧め致します〟
三人も死んでいた事実に愕然とした。
一級殺人犯。
それは処刑が確定していて、一切の温情を受ける事が出来ないという事だ。
「セヴェリの婚約者だったらしいな。レイスリーフェはサビーナに斬られて落馬して、一週間後に亡くなったらしい。それと同時期にリックバルドってのが姿を消してる。これが何を意味するのか、俺には分かんねぇけどな」
シェルトの言葉に、復讐という文字が頭を過る。
リックバルドはきっと、サビーナを捜すために騎士を辞めて国を出たのだ。愛する者を殺された恨みを、晴らす目的で。
サビーナはガクガクと震えながら恐る恐るセヴェリを盗み見た。
「クラメルの騎士に足止めを食らいそうになり……仕方なく、レイスリーフェ様を人質に……」
あんなに深く刺す必要があったかなど、今となっては分からない。
セヴェリは己の前髪をグシャリと強く掴み、懊悩するようにそう言った。
彼の言葉を受けて、シェルトとプリシラはさっと立ち上がり、サビーナも戸惑いながら席を立つ。
前髪を強く握ってテーブルを見つめ続けるセヴェリを残して、三人は家を出た。