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たとえ貴方が地に落ちようと【簡易版】  作者: 長岡更紗


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第71話 『悪』以外の何物でもありません!!

 彼はアンゼルード帝国に入った時の事を話し始めた。


挿絵(By みてみん)「街の人にさ、オーケルフェルトに仕える知り合いに会いに来たから、場所を教えてくれっつったらさ、オーケルフェルトはもうないって言われた」


 セヴェリは覚悟していたのか、表情は変わらなかった。


挿絵(By みてみん)「あったのは……シェスカル・ディノークスの屋敷。シェスカルがオーケルフェルトの土地と家を全て買い取って、そこに仕えてた召使いや騎士達もそのまま引き継ぐ形になってた」

挿絵(By みてみん)「そうですか。シェスカルが」

挿絵(By みてみん)「シェスカル・ディノークスって……ディノークスは彼の曽祖父の名前で、今では社名として使われているだけよ。そんな、貴族のように……」

挿絵(By みてみん)「貴族になってた。シェスカルってやつは」


シェスカルが、貴族に。サビーナの理解が追いつかぬうちに、シェルトは続ける。


挿絵(By みてみん)「シェスカルって野郎は、オーケルフェルトの謀反を未然に防いだとして、その恩賞で授爵したらしい。ディノークスって性は、本人の希望だってさ」

挿絵(By みてみん)「っぷ、クスクスクス……彼らしいですね」

挿絵(By みてみん)「何がそんなに可笑しいのですか?」

挿絵(By みてみん)「可笑しいというか……嬉しいのですよ」

挿絵(By みてみん)「何がですか」

挿絵(By みてみん)「オーケルフェルトに仕える者が、誰も路頭に迷わずに済んだ事です。流石シェスカルと言いますか。貴族になっている事といい、全て彼の思惑通りに進んだと言った所でしょうね」


それでもセヴェリを裏切ったことに変わりはなく、憤慨するサビーナにセヴェリは言った。


挿絵(By みてみん)「サビーナにとっては悪でも、シェスカルにとっては正義だったんですよ。それに彼はとても責任感の強い人です。のんびりと貴族生活を満喫出来るような男ではないのです。きっと寝る間も惜しんで奔走している事でしょう。前にも言ったでしょう? シェスカルは本当の本当は真面目な人なんです。きっと貴族となったシェスカルならば、アンゼルード帝国を良い方に導いてくれるとね」


サビーナの気持ちが落ち着いたところで、シェルトが続きを話し始める。

それによると、セヴェリの父親のマウリッツは牢獄に幽閉。シェスカルの嘆願で処刑は免れたが、一生牢から出られる事はない。


挿絵(By みてみん)「それと、あんたにも追手が掛かってる。謀反を企てた危険因子として放っておけないって。多分、逃げちまった分、温情は受けられねぇと思うよ。捕まったら……処刑だ」

挿絵(By みてみん)「そうですか」

挿絵(By みてみん)「ビビんないの?」

挿絵(By みてみん)「まぁ、覚悟はしていますから」


これで良かったのだろうかと、手が震え始めた。

逃げなければ、彼は牢獄と言えど生きられたのだと思うと。


挿絵(By みてみん)「じゃあ次に、デニスって奴の事だ」

挿絵(By みてみん)「……っ!」

挿絵(By みてみん)「……デニスって奴は、あんたらを逃がすためにシェスカルと対立。セヴェリを逃した罪とシェスカルに刃を向けた罪で、二年の懲役刑が課せられた」

挿絵(By みてみん)「懲役刑……ということは、デニスは生きているんですね?」

挿絵(By みてみん)「ああ、シェスカルに数カ所斬られたって話だが、大事に至る事なく取り押さえられたらしいぜ」

挿絵(By みてみん)「そうですか。良かった……」


 デニスが、生きている。

 それだけで安堵した。


挿絵(By みてみん)「……サビーナ」


 ふと気付くと、セヴェリがハンカチを差し出してくれている。いつの間にかサビーナの瞳から大粒の涙がボロボロと零れ落ちていた。


挿絵(By みてみん)「あ……す、すみませんっ」

挿絵(By みてみん)「いえ。……良かったですね、デニスが無事で」

挿絵(By みてみん)「はい……っ」


二年もの間、刑に服さなければならないのは胸が痛むが、彼がこの世にいてくれるだけでこの上ない幸せだった。

 もう二度と会える事がなくても、それでも。

 デニスの事を考えるだけで、胸は苦しくなれども幸せな気持ちになれる。

 サビーナは無意識に胸に手をやった。胸のポケットにしまってある二つの懐中時計のうちのひとつが、カチコチと優しく秒針を刻んでいた。

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