第64話 セヴェリ様を売らない限り、だけどね
「まさかあなたがこんな所にいるとは思ってもいませんでしたよ。シェスカルとは連絡を取っていないようでしたが?」
それからセヴェリは、プリシラにこれまでのことを詳細に告げた。
「申し訳ありません、セヴェリ様!! シェスカルがとんでもない事を!!」
「何故あなたが謝るのです、プリシラ。彼とはもう関係ないと言ったのは、あなたでしょう?」
「そ、そう……ですが……シェスカルが……まさか、セヴェリ様を裏切るなんて……」
「彼にも思う所があったんでしょう。考えなしで行動を起こす人物ではありませんからね。今、アンゼルード帝国はどうなっているのか情報を仕入れたいのですが、プリシラは何か知りませんか?」
「いえ、この国では遠く離れたアンゼルード帝国の事は新聞にも載りませんし」
「いいえ、そんな事はさせられません。この村には医師が必要でしょうし」
「別に、先生の元ダンナを見てみたいとかじゃないからな。何か困ってるみたいだしさ」
その弁明している姿を見て、サビーナは苦笑いした。これはとても分かりやすい。
「シェルト……無償で何かをしようという気持ちを、持てるようになったのね……!」
どうやらプリシラは、シェルトの気持ちにこれっぽっちも気付いていないようである。
シェルトは普通なら往復何ヶ月か掛かる道程を、お金を駆使して一ヶ月半で帰ってくると言った。
セヴェリは調べて欲しい人物の名前を書き出し、シェルトに渡している。しかし彼はそれを見た瞬間、ビリッと紙を破いた。
「マウリッツ、デニス、リカルド、シェスカル、リックバルド、キアリカ、サイラス、レイスリーフェだろ? 余計な文書は持ち歩かない方が良い。どっから足が付くか分かんないからな」
シェルトは早い方がいいだろうと、旅の準備をしに出て行った。
そう言って玄関に向かおうとするプリシラの手を、サビーナは掴む。
「申し訳ないですが、彼が村を出て行くまであなたにはここでいてもらいます」
「セヴェリ様の居所を、シェスカル隊長に伝えるよう指示されては困りますから」
「申し訳ありません、セヴェリ様。セヴェリ様はプリシラ先生を信用してらっしゃるようですが、私には判断出来かねます。私にはセヴェリ様を守る……いえ、生かす義務があるんです。失礼を承知でこうしています」
「ええ、当然ですね。シェルトもそれが分かっていたからこそ、すぐに旅の準備に戻ったんでしょう。あの子が村を出て行くまで、ここにいさせて下さいね」
準備ができたシェルトを、プリシラに会わすことはせずにサビーナが見送った。
馬は町ごとに買い替えて御者も雇い、昼夜問わず走り続けるつもりらしい。
「シェルトが何の報酬もなくアンゼルードに調査に行ってくれるのって……プリシラ先生と関係ある?」
「シェルトにはお金があるから買収される危険はないと思うけど、一応口止めにね」
「言わないよ。シェルトがセヴェリ様を売らない限り、だけどね」
「今日会ったばかりの人間を信用出来ねぇのは分かる。けど、心配し過ぎんな! あんたらのまともに食ってねぇ顔見てたら、どんな状況だかは察しが付くんだよ」
同い年の男に睨まれるように言われて、サビーナは萎縮した。彼は助手とはいえ、医者の卵という存在である。
「これ以上ストレス溜め込むな。倒れてからじゃ遅いんだからな。今はとにかく俺を信用しとけ。絶対悪いようにはしねぇから」
シェルトはサビーナの頭を叩はたくようにペチと風を切った後、馬に飛び乗った。
彼は照れからか、もうサビーナには目を向けないで馬を走らせた。
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『隻腕騎士は長髪騎士に惚れられる』
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