第65話 頑張らなきゃ
サビーナがシェルトを送り出したのは、ブロッカというクスタビ村から馬で二時間半ほど離れた街だった。
ランディスと同等に栄えていて、ここなら仕事も見つかりそうだ。選り好みさえしなければ。
クスタビ村に帰ると、プリシラが作ってくれたという食事を取りながら、アンゼルードへと旅立ったシェルトを思い浮かべた。
彼はどんな情報を手に入れて戻ってくるだろうか。マウリッツはおそらく拘束されているはずだ。彼にはどんな判決が下されているのか。もし死刑などになっていた場合、どうやってセヴェリを慰めていいか分からない。
それにデニスの方も気になる。シェスカルに殺されてしまったのか、それとも捕らわれただけなのか。生きていたとしても、何らかの罪は科せられるだろうが、どうか生きていて欲しい。
「そんなに心配しなくても、シェルトは私を売ったりはしませんよ。売る意味もないでしょう」
セヴェリから見当違いの発言がなされて、サビーナは曖昧に頷いた。
その件に関しては、実はあまり心配していない。プリシラが同行していたなら気が気じゃなかっただろうが、シェルトがセヴェリの居場所を告げる事はないだろう。
察しの良いシェルトの事だ。プリシラへの恋心をサビーナに気付かれたと思った時点で、プリシラを人質代わりにされたと理解していただろう。
そう、サビーナのあれはシェルトが言った通り、脅しだった。もしもセヴェリを売るような事があれば、シェルトの愛するプリシラを人質にしてでも逃げるという。
今後の関係も考えて明らさまに言う事はしなかったが、あの表情は理解していた者のそれだった。だからシェルトも『殺す』という過激な表現を使ったのだ。きっと、プリシラに手を出したらただじゃおかない、の意味として。
互いに大切な者がいる立場で、この契約を不履行にするはずがない。その点ではサビーナはシェルトを信用している。
しかし彼は、一体どこまで詳しく調べられるだろうか。
マウリッツとデニスの情報は欲しいが、レイスリーフェの情報は手に入れて欲しくなかった。
確かに、レイスリーフェがどうなったのかは気になる。気にはなるが、セヴェリに情報が伝わってしまう事が、どうしても怖い。
サビーナは、セヴェリに追いつくためにレイスリーフェを刺した事を、伝えてはいなかった。いや、伝えられなかった。
セヴェリの最も愛する人物を、もしかしたら殺してしまっているかもしれない。セヴェリがそれを知ったら、どう思うだろうか。それでも傍に居させて貰えるだろうか。
セヴェリに向けられるであろう嫌忌の顔を想像して、サビーナは身震いした。
彼に嫌われてしまったら、どう生きれば良いのだろうか。ランディスにも帰れない、この村にもいられない。生きる意味を見失ってしまう。
「サビーナ、あなたは先の事を心配し過ぎではないですか? あまり悩み過ぎない事ですよ」
シェルトから報告を受けるより先に、レイスリーフェの事を話してしまうべきだろうか。
第三者から伝えられるより、誠意を持って説明をした方が、まだ印象は良いのではないだろうか。そう思ったが、結局サビーナが口を開くことはなかった。
セヴェリに明日から街で働くことを伝え、翌朝早くに家を出る。仕事仲介所で皿洗いの仕事を紹介してもらい、夜まで働いて六千ジェイアを手に入れる。
そのお金で必要な食料を買うと、サビーナはまた二時間半掛けてクスタビ村へ帰ったのだった。




