第31話 犬ですか、私はっ
馬鹿だ、と自分でも思った。
目の前に黒い影が迫り、もう駄目だとギュッと目を瞑ったその時。
サビーナの体はグンと歩道に引き戻された。
お礼を言おうと振り返ると、助けてくれたのはデニスだった。
足が震えて立てないのを、支えてくれている。
シェスカルが向こう側から男の子を肩に乗せて走ってくる。
「はあ、血の気引いたぜ。お前に何かあったら、リックの奴に殺されかねねぇからな。まぁ、無事で良かった」
シェスカルは、サビーナからデニスに視線を移す。
「悪かったな、デニス。でもこっちもお前の弟を救ってやったんだから、おあいこだぜ?」
デニスにポイッと放り投げられ、今度はシェスカルに支えてもらう。
「今日はたまたまだ! いつでも隊長が助けてくれると思うなよ! あんたもだ、サビーナ! フラフラと道路に出て、いい年して何考えてんだっ!? あっ?!」
「おいデニス。もうそのくらいにしといてやれ。ラルフもサビーナも反省してるよ。見りゃ分かんだろ?」
ヒートアップしすぎたデニスは、隊長であるシェスカルをも睨んでいる。
「ちょっと頭を冷やせよ? 先に無事を喜んでやるのが家族ってもんだろうが。怖い目に遭った後にそんなに怒鳴られて、トラウマになったらどうすんだ」
シェスカルはデニスに、サビーナを屋敷まで送ってやれと言って、自分はラルフのケアをしている。
シェスカルがラルフを家まで送るつもりのようだ。
「じゃ、サビーナを頼むぜ、デニス。ちゃんと屋敷まで送り届けろ。いいな」
「サビーナは子供じゃねーんだし、一人で帰れんじゃないですか?」
「お前、昨日もそんな感覚で一人で帰らせたのか? エスコートは最後までちゃんとしろ。その間に何かあったら、全部お前の責任になるんだぜ?」
その言葉に納得したのか、デニスはサビーナを送ってくれるようだ。
帰ろうとしたそのとき、デニスにガッチリと手を繋がれた。
「フラフラと車道に出られたりしたら困るからな。首輪代わりだ」
そう吠えると、デニスはいつものようにカカカと笑っていてホッとする。
サビーナは少し嬉しくなって、デニスの手を握り返していた。
ほんの少し、胸を高鳴らせて。