第30話 私に奥さんを重ねるのはやめてください
屋敷への帰り道、少し遠回りをして送ってくれたシェスカルは、途中で家を指さした。
「まぁ元嫁が出て行ってからは、ディノークス商会の支部を兼ねてんだけどな」
高位貴族の家とみまごうほどの大きな家。
ディノークス商会とは、このアンゼルード帝国全土に支店がある大きな会社組織だ。豪商の息子だとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。
「嘘じゃねーって。俺はディノークス商会の本部がある、センザム出身でな。そこで親の金を使って散々遊びまわってたら、出て行けって親父に街を追い出された」
どうやらシェスカルは幼少時代、ものすごい数の習い事をさせられていたそうだ。
そのせいで、思春期に唐突にグレてしまったらしい。
「商人になんかなってやるもんかって気持ちがデカかったからだな。小せぇ頃から剣は習ってたし、身を立てるにはこれしかないと思った。どうせ身を立てるならデカイ騎士隊が良いと思ってランディスに来たんだ。元嫁は当時オーケルフェルトのメイドでさ。出会った時は、ちょうどサビーナくらいの年だったな」
シェスカルは懐かしそうに目を細め、サビーナの頭をポンポンと撫で叩く。
「ああ、離婚すると同時にこの街を出て行ってな。ちょっと抜けてるとこがあるから心配だったんだが……今頃どこにいるんだろうな」
ふっと吐き出す息と共に遠くを見るシェスカル。しかし一転、ニカッと嬉しそうに笑った。
そんな話をしていると、向かいの路地から一人の男の子が現れた。
少年はシェスカルを見つけると、こちらを目指して駆け始める。
車道に飛び出した少年に向かって、馬車が走ってくる。シェスカルが突進し、少年を抱きしめる。
シェスカルと少年は、向こう側の歩道へと転げ込んだ。
急いで二人の元へ行かなければと思ったサビーナは、左右の確認もせず、車道へと飛び出してしまった。




