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閑話 聖なる戒め

「フヒヒヒっ!ホラホラ避けろ避けろ!雑魚らしくアタシを楽しませろぉ!」


 呪持ちが有り余る力で私をなぶり殺しにしようとしてる中、私は自分に掛けられる狂ったような笑い声に奇妙な事を考えてしまう。


 こうして目の前の呪持ちを見ていると、まるで去年のお祭りで見た初めてお酒飲んだ徴兵前の男の子みたいに、呪いの力を持つとなんでも出来るって万能感に酔うのかもしれないと思った。


「ほらほらロリビッチ!あんだけエラソーなこと言ったんだ、精々私を楽しませろ!」


 わざと私が避けれるくらいの攻撃をしている、この人はきっとそんなに頭が良くないんだと思う、自分の感情だけで人を攻撃して、後の事なんてなんにも考えていない、お城でこれだけ大騒ぎをすれば騎士様や兵士の人だって可怪しいって気が付いて当然なのに、それすら気にしていない。


「何考えてるかしんないけど私に偉そうに説教しやがったんだ!じっくり時間を掛けてイジメてやるから後悔して死ねっ!」 


 身勝手な叫び声と一緒に、手の持った剣が当たればただでは済まないって分かる、恐ろしい音を鳴らしながら私に襲ってくる。


 何とか大きく横に飛んで避けたけど、足を着いた時に廊下の段差で躓いて硬い石で出来た廊下に膝を打ちつけながら倒れこむ。


 痛みに涙が滲んてくるけど私はもう子供じゃない、だから涙を堪えて立ち上がるけど痲れるような痛みのせいで、両足は言う事を聞いてくれずに普通に立っているだけで震えてしまう。


「おいおい、もう終わりぃ?あんだけ偉そうに言ってたんだからさぁ、なんか必殺技とか隠された力的なモンはないの?一応異世界モノなんだからさぁ!ってアンタはMOBだし無理かぁ!ウヒャヒャッ!」


 メルデの時や前の朝の時と同じで、良く分からない事を言いながら笑う呪持ちが喋る言葉の中に、神社の大神官様が私に教えてくれた言葉を思い出した。


『良いですか巫女ロリーエ……、貴方には常人では真似の出来ない特別な加護を下ろす才能があります、それは言わば命を代償にした加護なのです、いざという時のみ使うようにしなければ貴方の人生はとても短く儚い物になるでしょう、ですからこの加護は無闇に使うのはおよしなさい……』


 あの日、大神官様のおっしゃった、いざという時。


 それは多分ここなんだと思う、このままなぶり殺しにされるなら私は少しでも可能性のある方を選びたい あの加護だったら無力な私でも時間を稼ぐぐらいは出来るはずだもの。


「そっか……、貴方、見たいんだね……」


「あ?なんかあんの?へぇ、待ってやるからやってみな!どうせ私のチートの前じゃゴミクズみたいなもんだろうけどね!フヒ、フヒヒッ」


 今まで一度も降ろした事の無い加護だから今の私が完全に制御できるか判らないし、呪の力に敵わないかも知れないけど……。


 クシーナ、貴方みたいな勇気を私に下さい、自分以外の誰かを守る力を……。


「見せてあげる、私のとっておきを!」


 呪の前で怯える心を落ち着かせて、意識を集中させる、自らが求める力を顕したい奇跡の力を、心のなかに思い描いて、祈りの言葉を紡いでいく。


「我は求める、そは不浄なるものを閉じ込める聖なる戒め、聖なる鎖を持って呪が全ての抵抗を徒となせ、聖鎖せいさの加護よ、今顕現けんげんせよ!!」


 言葉に願いを込めて私が聖鎖の加護を初めて降ろした。


 その瞬間に身体から物凄い勢いで力が抜けて、目一杯走った後みたいな、もう何もしたくないって思うような、自分の中の大事なモノが減っていくの感覚を覚えていると、白い光で出来た鎖が目の前に現れた、これは私の命の一部を使って作られた鎖だって見た瞬間に理解できた。


 良かった、私はちゃんと加護を下ろす事が出来た、そう感じていると白い鎖は素早く呪持ちの身体に巻き付いて、抵抗する隙も与えずにその身を廊下に縛り付けた。


「クソっ!なんだよ!なんなんだこれ!」


 縛り付けられた呪持ちは、必死に藻掻いて廊下に顔をぶつけながら叫び声を上げて驚いている、ああ、やっぱりこの人は本当に自分がどうにかなるって考えて無かったんだって、その姿を見て思った。


「貴方が言ったんじゃないとっておきを見せろって……、これが私のとっておき聖鎖の加護よ」


「はぁ?なんで神様の祝福を受けた私が聖属性で縛られる訳?可怪しいでしょ!とっとと離せ!ロリビッチ!」


「ダメよ、私は絶対に貴方を自由になんてしてあげないわ!」


 何とか捕まえたけど凄く辛い、熱がある時みたいに頭がフラフラするし、お腹の中からどんどん身体が冷えていくような恐ろしさを感じる、もしかして死んじゃう時ってこんな感じなのかな?なんて、酷くハッキリしない頭でぼんやりと考える。


「放せよー!私をこんな目に合わせやがって!アンタだけは絶対にぶっ殺してやるっ!」


 呪持ちが暴れる度に私の身体が痛む、きっと呪が私を殺そうとしているんだと思う、体の表面を何か悍ましいものが這い回る不快感を手を握りしめて何とか耐える。


 視線をエレレファさんの方に向けると、呪に操られた沢山の女の騎士様を精霊を使ってなんとか戦っている。


 なにか手助けが出来るならあっちも何とかしたいけど、私にはこの呪持ちを抑えるので精一杯なのが悔しい。


 それに気が付いた呪持ちが私の心を抉ろうと、喧しく騒ぎ立ててくる。


「お前がここで頑張ったってあのフィギュア女は死ぬんだよ!その後はお前だ、覚悟しろ絶対に許さねぇからな!」


 その不快な声が頭に響いて凄く痛いせいで涙で滲んだ視線の先に、私が時間を稼ごうって思ってた理由が、ずっと待っていた騎士様の集団が見える、やっぱり騎士様達もお城に戻ってて、ちゃんと来てくれたんだ。


「ここまでコケにしてくれたんだ、お前だけはタダで殺さない!絶望させて壊れるまでいたぶってやるから覚悟しとけよ!!」


「そう……、だけどね貴方はもう時間切れだと思うよ……」


 揺れる頭で呪持ちの叫んだ声になんとか言い返してやった、騎士様の先頭には立派な鎧に身を包んだ赤いお髭の騎士様、その横に居るシュウゴと同じ黒い髪のメイドさんが連れてきてくれたんだと思う。


 でもシュウゴの姿はなかった、やっぱりあの森に取り残されているんだと思う。


「ロリーエ様、呪持ちの猛威にお一人で良く頑張られましたな、後はこのガルムンズと我が中隊にお任せあれ……」


 ガルムンズ様が低くて安心する声で語りかけてくれたけど、でも私は必死に戦って助けようとしてくれたエレレファさんが無事なのか気になって彼女を探した。


「ロリーエ!大丈夫?生きてる?」


 そう思っていたら女騎士の方々から開放されたのか彼女の元気な声が聞こえた、彼女が無事で良かったって思った瞬間、私はそのまま眠りに落ちるように意識が遠くなった。

 

 加護を降ろして疲れ果てた身体をエレレファさんが優しく受け止めてくれたのを感じて、その甘い花のような香りを吸い込んで、私はちゃんと出来たって安心して、眠りの海に沈んでいった。

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