閑話 若き巫女の苦悩
シュウゴが片目しか見えなくなっても、私を気遣う視線は変わらない、でも私はシュウゴが戦って傷ついている時に何も出来ず倒れていた。
もし私がちゃんとシュウゴの側に居て、治癒の加護を降ろしていればきっと結果は違ったと思う。
ごめんなさい、私シュウゴを幸せにするって、村を出る前にクシーナに誓ったのに、やっぱりクシーナみたいに上手く出来なかった。
それだけじゃない、やっぱり私は、私は汚い女だった……。
皆の無事を喜ぶシュウゴの側で笑う人、私より綺麗で大人で誰かに守られないと戦えない私とは違う人、あんなにボロボロになってもシュウゴが救いたいと願った人……。
私はシュウゴの側に居たレーミクさんを羨ましくて妬ましいと、思ってしまったの。
シュウゴが命懸けで救いに行って、一緒に呪持ちと戦って、シュウゴを命懸けで支え続けた姿が恨めしかったわ。
皆が何とか生きて再会出来て、シュウゴがやっと目覚めたのに、そんな憎しみとも怒りとも言えない、暗くて汚い感情がゆっくりと私の中に満ちて行くの感じたの……。
それはまるで、村でクシーナにシュウゴを取られるって、シュウゴを振りきって、クシーナの家に飛びこんだ時と一緒だと思う。
ううん……、きっとそれ以上に醜い感情だと思う。
何も出来なかった私には、彼の笑顔すら真っ直ぐに見ることが許されないような気がしたわ。
なぜなら、傷だらけで動けない姿を見てしまえば、堪え性のない馬鹿な私は我慢できなくなって、レーミクさんに大声で、言ってはいけないこと言ってしまうから。
そう、彼女のせいでシュウゴはこんなにボロボロになったんだと。
だからずっと二人の笑顔を見ないように下を見て、言ってはいけないとスカートの裾を握りしめながら、一生懸命心を精一杯押さえつけてシュウゴの話を聞いた。
「多くの被害を出しても皆が城で頑張ってくれたから、俺はどうにか間に合う事ができた」
その言葉の後に、包帯が巻かれたシュウゴの手が静かに私の頬を撫でていく。
「ロリーエが巫女の力を使って皆を助けてくれたお陰だって聞いたよ、本当にありがとう」
シュウゴのために頑張って覚えた巫女の加護、その事をシュウゴが褒めてくれたのに嬉しくないと思っている、そんな自分の心に驚いたわ。
「ううん……、だって、私は……。」
それどころか苦味ばかりの感情が冬の雨雲みたいに、私の心を覆っていって、言ってはいけない言葉が胸の底から出口を求めて私の口から出ていこうとする。
『だめよっ!言っちゃいけないわ!』
心が言いたいって暴れて胸が痛くなる中、必死で心とは違う言葉を口から吐き出した。
「私だって、シュウゴの巫女だもん……、そうじゃないと一緒に居られないわ……」
私が合わせる事のできない視線を宙に漂わせ、なんとか紡いだ言葉で部屋の空気が重くなったみたいに感じた。
「ロリーエさん、私のせいで貴方を危険な目に合わせてしまいました、本当にごめんなさい……」
レーミクさんは何も悪くないのに、暗く淀んだ私の心を感じて謝ってきた。
「レーミクさんは、レーミクさんは何も悪くないじゃないっ!だったら謝らないでよっ!」
シュウゴの役に立てない自分は置いて行かれて、レーミクさんはシュウゴの側に居た。
その事実は変わらないし、変えられないの。
『酷い怪我が治らなかったのは、大きな治癒の加護を降ろせないレーミクさんのせいよ!シュウゴが私を選んでくれてたら、シュウゴをそんな姿にはしなかったわ!』
私の心が、醜い心が叫べ叫べと蹴りあげる様に、鼓動を掻き乱す。
「ロリーエ……、どう、したんだ?何か俺の言った事や態度が気に触ったのか?それなら……」
シュウゴがいつもと同じ、頼りなくて、でも優しくて少し困ったような声で私に問いかけてくるのが辛くて、惨めに感じて叫んでしまう。
「違うっ!違うのっ、誰も、誰も悪くないっ!悪いのは……、悪いのは私よ!」
ずっとシュウゴの視線から眼を背けて居た私の目に、シュウゴのどこか神秘的な深さをもった黒い瞳が映った時、私は、自分の醜い心が見透かされた様な気になってしまう。
『もうダメよ……、きっとこんな醜い女は捨てられちゃうに決まってるわ……』
「ごめんなさい……、違う、違うの……、私……」
さっきまで燃え上がっていた嫉妬は、水を掛けたみたいに消えてしまって、私の心に残ったのは、シュウゴに呆れられて、捨てられてしまうかもしれないという恐怖だけだった。
なんとか役に立たないといけないって、怯えた心がなんとか出した答えが口から零れた。
「わっ、私、大神官様の所に行って、シュウゴの目を治す方法が無いか聞いてくる!」
これ以上はもう駄目、これ以上一緒に居たら、視線にシュウゴ自身に捨てないでと、縋り付きたくなる心と、泣き叫びそうな口に蓋をして、シュウゴの傷を治せば役に立てるって言えるから、まだ側に置いててくれるはずだと、自分に言い聞かせて私は逃げるように部屋を飛び出した。
そうやって理由を何とか作って、シュウゴを一緒に支えようと誓った相手にすら嫉妬するとっても醜い女は、レーミクさんと一度も視線を合わせず惨めに逃げ出したの。
覚悟をしたつもりになってただけで、私の中身はなんにも変わってなんて居なかったわ、私は村に居た時と何も変わってなんてなくて、シュウゴから答を聞かずにシュウゴの前から逃げ出したの。
そんな惨めな気持ちは、すぐに涙に変わって視界が滲んでいった。
「うああああっっっ!」
涙と一緒に嗚咽が漏れて、走り続けていると息が苦しくなって足が止まりそうになる。
だけど、もう戻れない私は逃げたい一心で走り続けて、誰に謝れば良いのか分からないのに、だけど謝らずには居られなくて、嗚咽と一緒に口から溢れてく。
「ごめんなさいっ!ごめんなさい、ごめんなさい、誰か私を許して………」
ごめんなさい……、私、クシーナと誓ったのに、ちっとも立派な女になれなかった、シュウゴを支えられなかった、一緒に支える相手を憎んでしまった。
なんで私は……、こんなに醜い女なんだろう……。
そうやって私はあてもなく走り、自分をひたすら責めることしか出来ずに、シュウゴの視線と言葉から逃げ出してしまった。




