落ちこぼれの剣士
「私のパートナーにならないか?」
学園で最強の魔術師からの魅力的な誘いに俺は素直に頷けなかった。なぜなら俺は・・・俺は、落ちこぼれだから。
「また最低評価のDか・・・。どうすれば魔法をうまく使えるんだろうか」
俺の名前は神無 集。アトリビュート学園に通う1年生だ。・・・と恋愛ゲームのような自己紹介は置いておき、俺は窮地に立たされていた。
魔法という概念が発見され、世界は大きく変わった。魔法が身近なものとなり、学生の内から魔法を教えるように教育も大きく変化することを余儀なくされた。
4つの学園都市を国は設立し、それぞれを競わせることで魔法の向上ひいては国家のためとなる人材の育成を行う。それぞれの学園都市には魔法の属性にちなんだ特性が色濃く出ている。
火の学園都市フレア。水の学園都市ダイヤモンドダスト。地の学園都市グラウンドゼロ。風の学園都市テンペスト。この4つの学園都市が国が作った魔法育成機関である。
そして、俺が通うアトリビュート学園はフレアに所属する学校の一つである。数あるフレアの学校の中でもトップに位置し、学園都市対抗試合でも常に代表として出場するほどの魔法精鋭育成の学校である。それだけに評価基準も厳しいものとなっており、特殊技能試験において最低評価のDを3回連続で取ってしまうと留年もしくは退学といった形になってしまう。
俺は、2連続で最低評価をもらってしまいリーチとなっている。何とかしなければと寮にある中庭で人目がなくなる夜の時間帯に練習しているが思ったような成果を得ることは出来ずにいる。
少し休憩がてら芝生の上で寝転がりながら魔法を生み出した偉人の言葉を思い出す。
「魔法は便利だが万能ではない・・・。それ単体では特に意味を成さないことの方が多く個人の努力によって何でもなれる・・・か」
「いい言葉だね」
突然話しかけれたことでビックリして起き上がる。声は中庭のベンチから聞こえた。その方を向くと漆黒の夜空に溶け込むような女の子がそこにいる。
夜空と同化しそうなほどの美しい黒髪をなびかせ夜空の星々のような輝きを持つほどの美貌に俺は見惚れて言葉を失う。あまりにも美しすぎる女の子がこの学園にいたのかと一瞬考えを巡らせて一人だけ思い当たる人物がいた。学園で最強の魔術師と呼ばれ、1年生で生徒会長になった不知火 楓。
あまりにも規格外な魔力と魔法の緻密な行使をすることが出来るためフレアの中でもトップに存在する。
「不知火さん・・・。どうしてこんなところに?」
「私がここにいては不思議かな? 夜空があまりにも綺麗だったから散歩をしていたら君が見えたから様子を伺っていたんだ」
不知火 楓は学園での実力でトップに君臨しているため待遇も違う。個人のためだけに部屋が用意され無制限で使えるカードまでも存在するほどだ。それほどまでに魔法という物に評価が置かれていることが分かる。
「そうでしたか・・・。見苦しいところをお見せしました」
「そう畏まらないでくれ。生徒会長などという肩書はあるがもっと気楽に話しかけてくれた方が私もありがたい」
「そう言ってもらえると息苦しくなくてこっちもありがたい」
「その方がいい。さて、私が君に話しかけたのは雑談以外にももう一つ用事があったんだ」
「用事?」
「そう、君は魔法の評価があまりにも悪い。いや、これは異常とも言えるレベルでの魔法の評価が悪い。なぜ君は特殊技能試験で魔法以外の項目を選ばないんだ?
特殊技能試験の内容は魔法だけではない。確かに魔法の方が遥かに評価はされるもののそれ以外で一定以上の評価を得られれば留年などは無くなる。どうしてそこまで魔法にこだわる?」
「憧れ、かな。ファンタジー小説だとかゲームの世界だと魔法って結構当たり前に使えたりするだろ。そういった風に自分もなれたらなって思うんだ。まぁ、才能はないみたいだけど。
けど、努力で何でもなれるって言葉を信じてみたいんだ」
「なるほど。確かに何を学ぼうが君の自由だそれに口出しする私が間違っているのだろう。だが、あえて言わせてもらえばそれは時間の無駄だ。
努力でどうにかできるほど魔法の世界は誰にでも優しくはない。今からでも遅くはないから諦める方が賢明だ」
「・・・」
「魔法の世界は残酷だ。魔法を使うための魔力というのが生まれた瞬間に決定づけられ、努力では上げることが出来ない。魔力無くして魔法は無い。
才能が全ての世界とはそういうことだ」
そう言うと不知火は椅子代わりに座っていた銅像から飛び降りて俺に近付いてくる。思わずたじろぐが次の瞬間に俺は元の位置から吹き飛ばされる。
「・・・一体何を」
「なるほど。あの油断した状態から私の魔法を受けてほぼ無傷とは」
生徒会長は次々と魔法を打ち込んでくる。一撃一撃が速く重い。さっきは何とか意識を保てたが、次にまともに受ければ気絶するだろう。
「回避能力も高い。それほどの身体能力を持っていながらなぜ魔法以外の道を進もうとしない。私には分からないよ。
教えてくれ。どうしたら君は魔法を諦めてくれる?」
「逆に聞くが、どうしてそこまで俺を魔法から遠ざけようとするんだ? 何もしなくても俺が次に最低評価を取れば留年か退学という道になって魔法という道から外れることになる。
放っておいても魔法を諦めることになるのにどうしてだ?」
「そうだな・・・君が次の一撃を耐えることが出来たら教えてあげよう」
そう言うと不知火は呪文を唱え始める。大きな隙だ。ここを叩けば勝負は決する。しかし、この一撃を受けきれないようでは俺の目的には近付けない。あの人に近付くことは出来ない。
俺は近くに落ちている木の枝を拾うと構える。刀でないため不格好だが俺には関係がない。そして、木の枝を刀だと意識して集中する。
「さぁ、君はどうやってこの一撃を耐える? クリムゾンフレア!」
その一撃は真紅の炎であり打ち出した瞬間から周りの物を灰にしていく。触れれば死ということが分かる一撃だ。
たかが力試しにそこまでするのか・・・。と嘆きたくなりそうになるが、生徒会長はそれほど本気なのだろう。まぁ、これぐらいだったらいけるか。
俺は、その真紅の炎へと走り出す。そして、手にした木の枝で真紅の炎を斬る!
「なるほど・・・。君は恐ろしいな。物理干渉が不可能とされている魔法をその何の変哲もない木の枝で斬るのか。さすがは学園都市最強の剣士 神無 集ということか。鬼神の名は伊達ではないな」
魔法を斬った後に佇むその姿はまさに鬼神。そこから放たれる殺気だけで一般人なら動くことすら出来なくなるだろう。
最強でありながら魔法が使えないため最弱という烙印を押された剣士がそこにいる。




