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4話目ーキャシーの場合

遅れて申し訳ありません。私情で書く時間があまり無くて…。


テスト怖い…怖い…。

私、キャシー・ミューズは元奴隷だった。


端的に言うと、親に奴隷として売られたのだ。私が10歳の誕生日を迎えたその日、博打と酒に溺れたお父さんが金欲しさに私を売った。お母さんは特に何も言う事なく売られていく私を見送りもしなかった。それほど私はどうでも良い存在だった。


私が住んでいるラティー王国では、奴隷という存在は認められていない。だが、多くの貴族達が奴隷を所持しているし、王国もそれを黙認している。流石に奴隷を殺せばとがめられるものの、公にバレなければどのような事をしてもさせても文句は言われない。長時間の労働に性的玩具扱い。ストレスを発散する為に奴隷を拷問の如く痛めつける事もあると言う。


まさしく、奴隷とは道具だった。奴隷は総じて短命だ。過酷な労働に仕打ち、出されるご飯は栄養が少ない。否、ご飯を与えられる事すら無く飢えて死ぬ奴隷もいる。所有者は奴隷が死んでも何も思わない。また買い直せば良いのだから。


私は奴隷として奴隷商に売られた。買い取った奴隷商人は私を他の貴族にまた売りさばく予定だったらしい。その前に奴隷商人のアジトが王国の騎士団に見つかり、拘束されてしまったらしいのだが。


その奴隷商人は奴隷だけでならず、危険な薬などにも手をつけていたらしい。それが公になり、運悪く捕まってしまったのだ。


奴隷商人が拘束され、檻に入れられた私はすぐさま助けられた。


その時私を助けてくださった人の事を、私は生涯忘れはしないだろう。


絶望の淵、暗い牢屋の隅っこで踞った私に手を差し伸べてくださったあの方を。


ウルセラ・フロート様の事を。


ーーーーーーーーーーーーーー


本来、助けられた元奴隷の子供は身元不明扱いとされ、国の教会の孤児院へ預けられる事になる。だが、私は強くウルセラ様の元で働かせて欲しいと頼んで、フロート家の下っ端のメイドとして働かせていただく事になった。


家族も財産も無い私にとって、私を救ってくださったウルセラ様は命の恩人であると同時に、命に代えてでも忠節を尽くしたいと思える唯一の方だった。私はウルセラ様に生きる意味と居場所を見出していたのだ。


ウルセラ様は私の事をすんなりと受け入れてくださった。


フロート家は代々騎士の家系で、誇り高い貴族だ。勿論私の様な元奴隷をメイドとして雇うなど、良い顔はされない。ウルセラ様のご兄弟からは何時も嫌われ、他の使用人達も汚れた出身の私を好ましく思う事は無かった。嫌がらせも大なり小なりあった。だが、ウルセラ様に助けられたくせにつけ込む様な事をして、あまつさえお側でお役に立ちたいなどと思う様な思い上がりの激しい私だ。私は全てを受け入れて、文句一つ言わずに働き続けた。


裏で勉強にも励んだ。少ない給金で本を買い、出来る限り勉強をした。魔法、算数、経済、歴史、出来そうなものは全て習得しようと努力した。特に魔法については私は少し才能があったらしく、独学でも充分応用できる程にまでは上達した。


メイドとしての職務にも勿論積極的に取り組んだ。メイド長からの教えを全力で覚えて、そしてそれを忠実に再現する様に努力した。


私の一日は、ほぼメイドとしての仕事と勉強と睡眠の繰り返しで埋め尽くされていた。どれだけ苦しくてもただウルセラ様の役に立ちたい一心で業務と勉学に従事し続けた。私にはもうウルセラ様しかいない。そう思うと、捨てられるのが怖くなって、一心不乱で頑張った。


メイドになって約5年。気付けば、私はウルセラ様の従属のメイドとして、身の回りのお世話をさせていただく程にまでなっていた。


ウルセラ様は気高くて美しく、誰よりもお優しく、何よりも強かな方だった。元奴隷である私を側に置いてくださるそのご慈悲に、私は深く感謝した。


ウルセラ様は騎士団長だったが、その所為か今まで婚約者が出来ず、婚期を逃していた。


普通の貴族なら早ければ10歳前後で婚約を結び、20歳になれば結婚をするのだが、ウルセラ様はその時既に24歳。そろそろ騎士団団長の地位をウルセラ様と同じ程剣の腕の立つ弟様に譲り、結婚しなければならない時期だった。


ウルセラ様の結婚の話はトントン拍子で進んでいった。


相手はかの有名な有力貴族、『フォーゼ家』の現当主グランドル・フォーゼ様に決定した。


グランドル様はウルセラ様と同様に20歳を過ぎても未だ結婚をしていない、独身だった。誠実で潔癖な男であると名高いグランドル様には、ウルセラ様も文句は言えなかった。


ただ、本当はずっと独身のままでいたかったそうだ。ウルセラ様は私に何度かそう愚痴を言った事があった。その度に貴族同士の結婚の話題になんと返せば良いか困惑する私を見て、ウルセラ様は楽しそうに笑った。笑ってくださるのは大変嬉しかったのだが、少し恥ずかしかった。


そうして、ウルセラ・フロート様はウルセラ・フォーゼ様となった。ウルセラ様はフロート家からフォーゼ家の屋敷へと引っ越しをする事となり、その際、勿論専属メイドだった私はウルセラ様についていく為にフォーゼ家に改めて雇われたのだった。


ウルセラ様とグランドル様は年も近いということでとても仲の良いご夫婦となった。気高く美しいウルセラ様に、誠実で何事にも真面目に取り組むグランドル様。誰がどう見たってお二人は相性が良かった。


お二人は仲睦まじく新婚生活を送り、2年目にウルセラ様が子供をご懐妊。家族がまた一人増える事になった。


お腹がどんどんと大きくなっていくのを、とても幸せそうに見守るウルセラ様。私がそんなウルセラ様に呼び出されたのは、雪がしんしんと降り積もるとある夜のことだった。


「キャシー。あなたは私の専属の侍女として、本当に良くやってくれたわ。この7年、あなたの事をよく見てきたけれど、あなた程勤勉で努力を怠らない人を私は見た事が無い。私はあなたの事を、本当に信頼しているわ」

「あ、ありがとうございます…。もったいないお言葉です」


ウルセラ様はお優しい方ではあったが、面と向かって相手の事を褒めるというのは余りなさらない筈だった。何時もとは様子の可笑しいウルセラ様に、私は緊張しながら頭を下げた。


そんな私に、ウルセラ様は嬉しそうに微笑むと、こう言った。


「あなたのその真面目な所を見込んで、頼みがあるの」

「…頼み、ですか?」


初めてウルセラ様から頼まれた。私は目をぱちくりさせて、次の瞬間に破顔しそうになる顔を必死に堪えた。


私がウルセラ様の直属のメイドになってからその時まで、ウルセラ様は私に命令する事も何かを頼む事もなさらなかった。それなのに、この時にして初めて頼まれた。頼りにされたということだ。私は不覚にも、嬉しさで崩れそうになった。


私が生きる意味。ウルセラ様のお役に立てるのなら、私は何の迷いも無く命すら捨てる覚悟があった。


そのウルセラ様からの初めての『頼み事』を、私は絶対に遂行させようと思ったのだった。


「はいっ。どんな事でも、お申し付けください!」

「ありがとう、キャシー。頼みというのはね、この子に関する事なの」


そう言ってお腹を優しくさするウルセラ様。


「この子の直属の侍女として、この子を側で見守っていてくれないかしら」

「はいっ!喜んで!…って、はい?」


私は食い込み気味で元気よく頷いて、そして一拍おいて首を傾げた。


「この子。まだ名前は決まって無いけれど、私の大切な天使さんなの」


この子、というのは勿論ウルセラ様のお腹に宿る、とても大切なウルセラ様とグランドル様のお子様のことだろう。


そんな大切なお方の大切なお子様の、直属の侍女として、ということは。


私に、自分の子供のお世話をしてほしい、とウルセラ様は仰っているのだ。


私は遅まきながらにその事に気付いて、口を開いたまま固まった。


「フォーゼ家に嫁いだ妻だから、色々と仕事で忙しいの。あなたになら安心して任せられるのよ。任せていいのよね?ね?」

「あ…は、いや、その…」


正直、自信が無かった。


確かに私は今まで勉強を続けてきたし、メイドとしての心得も熟知していた。


だけど、子育てなど、私には経験の無い事だった。


それもウルセラ様のお子様となれば尚更、どう手をつけて良いか分からなくなってしまう。


私は子供が苦手だった。幼い頃の虐待の記憶が原因なのかよく分からないが、私はどうしても感情が表情に出にくい節があった。笑おうと思えば笑えるし、泣く時もたまにだがあったが、それでも私の表情筋は普通の人とは比べようにもならない程衰えているだろう。そんな笑う事も泣く事もあまりない私は、常に子供から避けられていた。


赤ん坊に近づけば泣かれ、パーティーに来ていた他の貴族のお坊ちゃん方に話しかければ逃げられ、常にそのような感じだから、私も自然と子供が苦手だと思う様になってしまっていたのだ。


そんな私が、ウルセラ様のお子様をちゃんと預かれるのかどうか。私には到底自信が無かった。


「わ、私よりも、適任がいるかと…」

「いいえ。あなた以外に私の可愛いこの子を預ける事は絶対出来ないわ」

「で、でも…私には自信が…」

「あら、でもさっきどんな事でもお申し付け下さいって言ったわよね?」

「うっ」


既に言質を取られていた。


「大丈夫。あなたになら出来るわ。だって、あなたは勤勉ですもの。努力の天才だわ。私もずっとこの子を放っておく訳ではないのだし、一緒に頑張ってくれるわよね?」

「…は、はい!が、頑張ります!」


ウルセラ様の口から飛び出る私への過大評価に、私は絶望しながらそう返事をせざるを得なかった。


ご期待に応えたい。失望させたく無い。私はその後、必死になって子育てに関する勉強を始めた。普段やっていた算数なんかの勉強を打ち止めして、全ての空き時間を子育ての勉強に充てた。


それから1ヶ月も立たないうちに、ウルセラ様は元気なご子女様を生んだ。


その娘はカタリナ・フォーゼと名付けられ、グランドル様、ウルセラ様から絶え間ない愛を受け続けた。


しかし、フォーゼ家は有力な貴族だけあって多忙である。領地は広く、その分問題も山積みの様だった。食料問題、病疫、治安の悪化、他の貴族達との政戦。グランドル様は殆ど家を開けていて、さらに元騎士団団長であるウルセラ様は人望も厚く、その分仕事が多い。ウルセラ様でさえ2日に一回は家を出なければならなかった。


必然的に、私はカタリナお嬢様と多くの時間を過ごす事になった。


カタリナお嬢様は良くお泣きになった。何か気に入らない事があればすぐに泣いて、ものを掴める様になれば投げて他人を攻撃した。少しお転婆な女の子だった。


私はそんなお嬢様の我が儘を全て受け入れて、叶えられる様に取りはからった。あれが欲しいと言われればとってきて、何が食べたいと言われればそれを持ってきた。私はお嬢様のお願いを全て聞き入れた。ウルセラ様の大事なお子様の願いを、私が断れる筈が無かったのだ。


カタリナお嬢様はすくすくと成長し、5、6歳になった頃にはすでに立派な我が儘お嬢様になっていた。


原因は不明だが、自尊心が強く、権力主義的思考を持っていた。貴族とは、というか自分とは選ばれた存在であり、その他の民は全て等しからずゴミに等しいとお考えになっていたのを、私は7歳だったカタリナ様の口から直接聞いた。私は目を点にして、どこで教育を間違えたのか探ったが、幾ら探っても出てこなかった。


カタリナ様の行動は全て攻撃的で刺々しかった。言葉に何時も毒を混ぜて、どんな相手でも見下して喋った。グランドル様はカタリナ様が8歳の頃から、その真面目な性格も相まってカタリナ様にキツく当たる様になったが、カタリナ様はそれでも揺るがなかった。


お買い物をするときは何時も数百万の単位の金を浪費した。その浪費はフォーゼ家にとってははした金同然だったが、民から集めた税金をそのように扱うとは何事かとグランドル様は何時もお怒りになっていた。


きっと、カタリナお嬢様は満足されていないのだ。もっと我が儘を聞いてあげれば、何時か満足してお淑やかになって下さる筈だ。私はずっとそう確信していた。ウルセラ様のお子様が、心の底から我が儘を言っている訳ではないと考えていたからだ。だからこそカタリナお嬢様の言う事は全て聞いた。


なのに、カタリナお嬢様は何時までたっても我が儘を止めなかった。


カタリナお嬢様の我が儘で、コック長のリュー・スヴェータさんは自信を喪失してしまい、笑顔が減ってしまった。庭師のロビックさんは、庭を弄っている所を罵倒されて、とても悲しんでいた。カタリナお嬢様が5、6歳になった頃から使用人達はカタリナお嬢様に近づかなくなっていき、7歳頃になると私しかお側にいないという事が多かった。カタリナお嬢様は悲しい事に、殆どの使用人達から嫌われていた。


だが、それも当たり前だろう。カタリナお嬢様は使用人達を道具かなにかだと、それこそ奴隷かなにかだと勘違いしている様に扱った。私が幾ら苦言をしようと、カタリナお嬢様は世界が自分を中心に回っているのだと思っている様で、何も効果は無かった。


一体何が原因でそうなってしまわれたのかは未だ分からない。だが、私の接し方が原因でそうなったとしか思えない。


やっぱり私には子育てのお手伝いなど不可能だったのだ。私はウルセラ様のご期待に沿えなかった。そんな弱い自分を激しく叱咤し責め、ウルセラ様に謝罪した。


しかし、ウルセラ様はそんな私を責める事は無かった。逆に、余り会いにいけなかった私が悪いのだと言って慰めてくださった。


「私は、きっとあなたに甘え過ぎていたのね。それで今になって罰が当たってしまったんだわ…勘違いしないで、キャシーは悪くない。子供に冷たくしすぎた私が悪かったのよ」


そんな事無いと幾ら言ってもウルセラ様は聞き入れてくださらなかった。ウルセラ様はお仕事の数を出来るだけ減らして、空いた時間をカタリナお嬢様の為に使うつもりだった。


だが、そうウルセラ様が決意をなされた数週間後、突如としてウルセラ様は病にかかって床に伏せってしまった。


最近フォーゼ家の領地のみならず、王国全土で流行っている疫病だった。薬や治癒魔法の一切合切の効き目が無く、直す手だては今の所見つかっていない。発症してしまってはもう終わり、絶対に病死してしまうのだという。回復の見込みは無かった。


症状は風邪の症状に良く似ており、体力が急激に衰えていくのが特徴だ。最後は衰弱死してしまうのだという。空気感染はしない。どのような径路で感染するのかも謎だ。何年間も家の中に閉じこもっていた人が急になったり、逆に家族全員がかかったのに一人だけかからずにぴんぴんしていたりするケースもあった。感染率は完全にランダムで、普通の疫病の様に集まった所から爆発的に増えるのではなく、ぽつぽつと広範囲で、無関係の所でも感染してしまう。ウルセラ様もその1人だった。


私はすぐにでもウルセラ様のお世話をしたかったが、ウルセラ様はそれを許してはくれなかった。


「キャシーはカタリナの唯一の繋がりなの…あなたまでかかってしまっては、カタリナはひとりぼっちになってしまうわ…」


普段とは比べ物にならない弱々しい口調で、ウルセラ様は私にそういったのだった。


それから数年後。ウルセラ様はご健闘空しく、眠る様に息をお引き取りになった。


この名も無い病にかかって、数年も持ったのは今までに無い例だ、ウルセラ様はとてもお強かった、とお医者様は励ます様にグランドル様に告げた。グランドル様は、愛する妻の手をいつまでも握って泣き続けた。


葬儀は、ウルセラ様やグランドル様の親戚など、必要最低限の人だけを呼んで粛々に行われた。カタリナお嬢様も、その日は目を伏せて、一言も発さずに葬儀に望んだ。隣で涙を流しつづける私にも一言も文句を言わず、ただ黙ってウルセラ様の棺桶を見つめ続けていた。


ウルセラ様は人望に厚い方だった。葬儀に出れなかった使用人達も、全員がウルセラ様との別れを惜しんで涙を流した。全員に愛されるカリスマを持っていた、とてもお優しい方だった。


グランドル様は普段の真面目で静かな態度からは予想もつかない程声をからして泣いた。グランドル様はウルセラ様の事を愛していた。グランドル様にとってかけがえの無い愛する人との別れに、普段の貴族としての振る舞いなどすべてを忘れ、その死を悲しんでいた。


私は、何も考える事も出来ずに泣いた。


ウルセラ様に助けられたあの時から、私は常にあの方のお役に立ちたいが為に努力を続けてきた。ウルセラ様が私の生きる理由で、そしてウルセラ様のお側が私の生きる事の出来る居場所だった。


そんなウルセラ様は、もういない。気高く美しく、力強いあの方は天に召されてしまった。


涙と後悔しか溢れてこなかった。私があの時ああしていれば、私があの時もっとちゃんと出きていれば。もっと恩に報いる事が出来た筈なのに。もっと頑張れていたかもしれないのに。私はただただ呆然と涙を流し続けた。


カタリナお嬢様が急に意識を失い倒れてしまったのは、葬儀が始まって中盤に入った頃だった。


突然、カタリナお嬢様が私の肩に寄りかかってきたかと思うと、力なく倒れてしまわれた。


私は頭が真っ白になった。ウルセラ様だけでなくカタリナお嬢様まで失ってしまっては、私はこの先どう生きていけば良いのか分からなくなってしまう。生きる理由がなくなってしまう。そう言う考えが頭の中をよぎった。


それからカタリナお嬢様は自室へと送られて、葬儀に来ていたお医者様に容態を診られた。ただの気絶だったらしく命に別状は無い。おそらく、ウルセラ様を失った事による精神的なショックが原因なのだろうと推測された。


私はその知らせを聞いてほっとしたと同時に、激しく自分を恥じていた。


私は一体何を考えた?カタリナお嬢様が亡くなってしまう。その恐ろしさに、私は一体何を考えたのだ。ウルセラ様の愛した、大切なカタリナお嬢様が倒れたというのに、私は私の心配しか出来なかった。カタリナお嬢様に、生きる理由と意味を勝手に見出そうとしていたのだ。


いや、これはウルセラ様にも言える事だった。私は生き方を知らなかった。幼い頃から虐待され働かされて、教育を全く受けていなかった。奴隷になってウルセラ様に助けられた時、私はウルセラ様に甘えてしまったのだ。助けていただいて、あまつさえ生きる意味を、理由をウルセラ様に押し付けてしまった。ウルセラ様のお役に立ちたい。その心に偽りは無い。だが、それ以上に私は私を守る為にウルセラ様の為に努力していたのだと、その時初めて気が付いたのだ。


カタリナお嬢様はウルセラ様を、お母様を失って悲しんでいたというのに。私はそんなカタリナお嬢様に甘えようとしていたのだ。まだ12歳だと言うのに、1人で懸命に涙をこらえ、そして最後に気を失ってしまわれる程追いつめられていたカタリナお嬢様に、私は勝手に自分の生きる理由と意味を押し付けようとしていたのだ。


何という事だ!私は私に失望した。


カタリナお嬢様の心の闇に気付けなかったことも、私が本当はこんなに弱かった事も。


どうして気付けなかった。どうしてこんなに弱いんだ。今までの努力だって、ウルセラ様のためだったんじゃないんだ。私自身のために、私は努力をしていたのだ。なんて浅ましく、なんていやらしい人間なんだろう。


私に一体何が出来るのだろうか。私の為ではない、ウルセラ様のお役に立つために、私はどうするべきだったのだろうか。


ウルセラ様はカタリナお嬢様の事を愛していた。そして、愛するカタリナお嬢様を、私に託してくれたのだ。


私はカタリナお嬢様の唯一の絆だと、ウルセラ様は仰った。


ウルセラ様は私に頼んだ。カタリナお嬢様の事を。専属の侍女としてだが、それでも私に頼んでくださった。


だったら、私は何があってもそのご期待に沿えなければならない。今まで自分勝手に生きてきた罪滅ぼしと、これから自分の足だけで立っていく強さを手に入れる為に、そして何よりも、ウルセラ様の為にも。


私、キャシー・ミューズは、カタリナ・フォーゼお嬢様に一生ついていく事を、ここに誓ったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



葬式が終わってからの次の日の朝。


私は早速カタリナお嬢様の部屋へと向かった。


お医者様は気絶しているだけだから、明日になれば普通に元気になってくださるだろうと言ってはいたが、少し心配だ。もしかしたら倒れた際に頭を打ってしまっているかもしれないのだ。私はカタリナお嬢様の部屋の扉の前まで来て、静かにノックをした。


「カタリナお嬢様。おはようございます。起きていらっしゃいますか?」


声をかけてみるも、無言が返ってくる。


まだ眠っていらっしゃるのかもしれない。何時もなら『黙れこの出来損ないの駄目イド!!』と厳しい叱咤が飛んでくる筈なのだ。いや、もしかしたら何か容態に変化があって、大変な事になっている可能性もある。私は「失礼します」と一言告げて、ドアを開けた。


カタリナお嬢様は起きていた。


ただ、一心不乱に鏡に映ったご自身のお姿を眺めて、何やらぶつぶつと呟いている様だった。


「カタリナお嬢様…?」


私は恐る恐るベッドに腰掛けるカタリナお嬢様に近づいて、声をかけようとした。


その時。


「やってやるぞ!」


突然何かを決心したかの様な表情を作ったかと思うと、腕を振り上げて天井へと突き出したのだ。私はあまりの事態にびくっと身体を震わせて硬直した。


「…可愛いな、おい…」


最後にやっぱり一言なにかを呟いて、可愛らしく頬を染めるカタリナお嬢様。


私は、その時確信した。


やっぱり、倒れた時に頭を強く打ってしまわれたんだわ…!


それと同時に、カタリナお嬢様が驚愕する私が鏡に映っていたのにやっと気付いたらしく、身体を硬直させてゆっくりと私に向き直った。


「…お、おはよう」

「…おはよう、ございます」


やっぱり可笑しい。普段のカタリナお嬢様なら、勝手に部屋に入ってきたと分かった時点で怒鳴ってくる筈なのに!そもそもカタリナお嬢様はこんな風に、頬を可愛らしく染めて恥ずかしそうにするなんて事しないわ!


戦慄する私に、カタリナお嬢様は恥ずかしそうにはにかんだのだ。それはそれは、普段のカタリナお嬢様からは想像もつかない程可憐で可愛らしい微笑みで。


その日から、カタリナお嬢様の奇行の数々が始まったのだった。



かなり長くなったから二分割。多分次の話もキャシーちゃんのお話です。


シリアスが苦手な事が見事に露呈してしまっている、そんな稚拙な文章です。急ピッチで仕上げたから仕方無いね。どうか皆様お許しください。


ご指摘ご感想、心よりお待ちしております。


私情により来年まで更新停止します。申し訳ございません。

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