073.遺跡の秘密
村の中を一通り案内して貰ったら、今度は森の中へ。
まあ村の中といっても、村長さんの家と集会場と家畜小屋以外は各自の家ぐらいというか、後は鍛冶小屋と共同の畑があるだけなんだとか。
鍛冶もこの辺りで鉱石が採れる訳でも無いから、街で買って来た農機具とか包丁とか鍋とかの金物を研ぎ直しや修繕したり、壊れたら鋳潰して作り直したりとかその程度らしい。
村の外に出るのに俺とヒース君だけで心配されなかったのかといえば、ウィルウルマイヨールを捕獲して倒しちゃうような相手じゃ、誰も護衛にならないからだって。
確かにユースタスが吠えればこの辺りの魔物は逃げる訳だし、妖精達も何か有れば守ってくれるから安全なんだけど。
ヒース君に案内して貰って森の中を歩いているんだけど、ヒース君も一人で歩いた事は無いらしい。
まあ、危険な魔物が居る訳だし、狩りをするにしろ採取するにしろ何人かで行動するよね。
王都周辺の森に行くのだって、小鬼程度しか出ないといっても駆け出しの冒険者は集団行動が推奨されているしね。
最初に連れて行って貰った所は、ちょっと変わった滝だった。
地面を流れている川から、地下に流れ落ちている奴。
ウィルウルマイヨールが塒にしていた洞窟も鍾乳洞だったし、この辺り浸食されやすい岩盤が多いのかもしれないね。
あんまり近くに寄ると足元の岩盤も崩れるかもしれないから、滝がどれぐらい落ちているのか分からなかったんだけど、流れ落ちる水の音からかなり深いんじゃないかなって感じだった。
次に連れて行って貰ったのがルルーナ草の群生地だった。
薄い黄色の花が沢山咲いていて、とても綺麗だった。この花暗闇の中で光るらしいんだけど、夜に森に入るのは危険だからヒース君も見た事は無いらしい。
ルルーナ草って葉っぱは下級魔力回復薬の素材になるんだよね。
この草季節はあんまり関係なくて、魔力の濃い所で育つから、群生だと常にどれかの花が咲いている感じになるらしい。
「ずっと咲いてるなら、蜂蜜とか採取出来ないのかな?」
花を一つ摘んで口に入れて吸ってみれば、ほんのり甘い蜜の味がする。
「どうだろう? 巣箱を置いておくと蜜を狙って来る魔物とかが居そうだけど」
魔よけの香を焚いても蜂が嫌がったら意味が無いし。とヒース君は考え込んでしまう。
その後何とか試行錯誤してルルーナ草の蜜を集めるのに成功したとか、その蜜が魔力回復の効果が有って密かな人気商品になったとかは、偶に送られてくるヒース君からの手紙で知る事になるのだった。
そんなこんなで遺跡に到着です。
「お礼のお供えをしなきゃ」
とヒース君は途中で摘んで来たルルーナ草の花を祭壇に供えた。
報告の時は花を供えるのが普通なんだって。
ヒース君が花を供えてご先祖様に向かってお礼を言っている横で、俺も一応祈りを捧げる。
軽く黙祷した後、まだ色々と報告をしているのか祭壇の前で跪いたままのヒース君を残して、遺跡の中をぶらぶらと見て回る事にする。
この遺跡、本当は壁とか屋根が有ったのかもしれないなあ。
奥に祭壇、手前に石柱が有って、それよりも更に外縁部分に、石の壁みたいな物が所々に残っている。
風雨で崩れ去ったのか、植物の浸食で壊れたのか。何れにせよ石造りの建物が壊れるぐらい遥か昔に建てられて、長い間放置されていたって事なんだろう。
そう思いながら壁際だった場所をぐるりと歩いて回る。
とはいえこんな森の中にある建物(の跡地)だからそれ程大きくは無くて、直ぐに一周が終わってしまう。
祈りを終えたらしく顔を上げたヒース君の下に戻って、遺跡の説明をして貰うことにする。
「えっとね、これは祭壇です」
説明を求めたんだけど、ヒース君の言葉はそれだけで止まった。
「祈りを捧げる遺跡で、大事な時しか近寄ったら駄目って言われてて、連れて来て貰った時も詳しい事を聞ける雰囲気じゃなかったから、これ以上分からないの!」
それだけ? って思ってるのが顔に出ていたのか、ヒース君はそう言ってむくれてしまった。
祭壇(多分)の左右には石柱が有って、祭壇の方を向く様にして竜が彫られている。
「遺跡の彫刻の図案の意味とかは、聞いた事無いの?」
許可を得て祭壇の苔をそっと剥がしながら、ヒース君に聞いてみる。
「どうだったかなあ……。あんまり聞いた事無いんだけど、祭壇のだけは聞いた事有ったかも」
一緒になって祭壇の別の面の苔を剥がしながら、ヒース君は記憶を辿る様にして答えてくれる。
「確か、この前面のは翼を広げる人で、人が俺達で翼が祈りを表しているとか何かだった筈」
その上に供物を載せる事で、神様に捧げてる格好になってるらしいよ。年月に削られて角の丸くなった彫刻を指先で辿りながら、ヒース君はそう教えてくれた。
ヒース君は頑張って観光案内しろというデイライト君をもてなします。
地元の事って聞かれると割と困る様な気がします。知っている様でいて割と詳しい事は知らない事が多いというか。




