058.街道を南下します
「それじゃ、気を付けてね。……忘れ物は無い? 携帯食は足りてる? 回復薬は持った? ……って、期待の新人薬師殿に余計なお世話だったね」
持ち場を離れられないジョンさんの代わりに、休憩に入っていたノエルさんが見送り出て来て、色々心配してくれる。
さっきジョンさんにぐちゃぐちゃにされた髪も、さりげなく直してくれるし、やっぱりいい人だ。
「大丈夫。旅の準備はしたし、食料も持ったし、回復薬も持った。……行ってきます」
ノエルさんにも自分は子供に見えるんだろうかと思って、苦笑が漏れる。
力も有るし、身体も丈夫だし、妖精達もユースタスも一緒なのだ。
それに、王都に来た時は旅の準備らしい準備も出来ずに出発したのから、そこから比べれば天と地程も違う。
「行ってらっしゃい。戻って来たら、顔を出してね。ジョンさんも僕も心配してるからね」
そう言って手を振るノエルさんに手を振り返して、南へと向かう街道を進む。
永の別れではないのだから、そんなに名残を惜しまなくても良いだろうと、振り返りはしなかった。
「あ……、そう言えばヒース君のその布、ジョンさんから借りたままだったね」
返し忘れてしまったと、ふと思い出す。
一応ちゃんと洗ったんですよ。それで、門までは顔を隠す必要が有るから、そのままヒース君の顔に巻き付けて、巻き付けたまま忘れてしまっていた様です。まあ良いか。お土産で相殺して貰おう。
ヒース君も今気が付いたみたいな顔をしているし、朝から買い物をしたりとかでバタバタと忙しかったし仕方が無いか。
空は青く、風も穏やかで、絶好の旅立ち日和だ。
とは言えこの辺りは薬草等を採取しに何度も通った場所だから、然程目新しい風景も目に映らない。
担いだ荷物は、それなりの重量と嵩が有るけれど、動きにくいぐらいで重さは気にならない。
のんびりと草笛でも吹きながら歩きたい所。
まあ、無理なんだけどね。
現在隣を歩くヒース君、目を吊り上げて前のめりに早足です。
いやまあ、お父さんが死にかけているんだから、一刻も早くと思ってるのは仕方が無いんだけど。
この調子で一日持つんだろうかと心配に思ってしまう。
ヒース君の住むダークエルフの隠れ里(殆ど他の種族と交流を持たずに、森の奥に住んで居るんだから隠れ里で良いだろう)は、王都から街道沿いに南下して、徒歩で大体三日ぐらい掛けた所にある地方都市のアフロスートから、更に南に向かって二日歩いた先に在る大森林を、更に二日ぐらい歩いた所に在るらしい。
二日も森に分け入った場所に在るというのに、まだまだ大森林の中ほどにも届かない場所なんだそうだ。
奥に入れば入る程魔物が強くなるし、浅い場所だと他の種族がやって来るかもしれないから、歩いて二日というのは魔物の強さ的に、ダークエルフ達が暮らしていけるギリギリなんだろう。
「そろそろお昼ご飯食べようか?」
ヒース君にそう声を掛けて、街道から少し逸れる。
防水加工をしてある布を敷いて、その上に腰を下ろす。
「出発したばかりだし、まだ大丈夫」
先を急ぎたいんだろうヒース君が、そう言って困った様に座っている俺を見下ろす。
「うん。でも俺は、お昼にはお昼ご飯を食べたいんだよね。それに、今お昼ご飯を食べておかないと、夜まで持たないんじゃないかな?」
ほら座って。と自分の横の敷布を叩いて、ヒース君を呼ぶ。
荷物から片手鍋を取り外して、ゾーイに頼んで水を入れて貰う。
そうしたらオスカーが俺の肩から手を伝って降りて、片手鍋に触れてお湯を沸かしてくれる。
その間に鞄の中から、お弁当として持って来た爆弾お握りを取り出す。
暫く家を空けるのに、消費期限が来てしまいそうな食材を、頑張って使ってみたのですよ。
一人一個ずつだけど、中身は色々入っていますよ。
まあ、野菜関係は冷やして置けばそれなりに持つから、後は肉とか魚とか卵とかそんな奴です。
時雨煮にしたり、そのまま焼いたり、卵焼きにしたり。忙しかったからそれ程凝った事は出来なかったんだけどね。
取り出したお握りを各自一個ずつ……妖精達はそれぞれ半分ずつ配って、沸いたお湯で淹れたお茶も渡す。
この丸いお握りって、上手く作るの結構難しいんだよね。
力を込めて握れば良いってもんじゃ無いから、崩れない様に尚且つ口に入れたらお米がパラパラっと解ける様に。そして具材を色々ちゃんとはみ出さない様に入れないといけないし、そのくせ両手に余るぐらいの大きさなのだ。
まあね、理想はそうなんだけど、食べられれば良いんですよぐらいで良いと思うよ。
仕上げに大きな海苔で包んで、冷めて蒸気が出なくなったら竹みたいな植物の皮で包んで出来上がり。
卵焼きをちょっと甘めで固めにしたから、お肉とか魚系がしょっぱいから丁度良い。
「ごちそうさまでした」
飲む頃には丁度適温になったお茶を、ごくごくと飲み干す。
お握り半分は多くて食べ切れないララとか、食べるのに飽きたゾーイはエドワードの口の中に残りを押し込んでいる。最初から調整しても良いんだけど、差を付けるのは余り宜しく無いからね。
ヒース君も手に持ったお握りを一生懸命食べているけど、気が焦るのか喉に詰まらせては咽ている。
「あのね、急ぐ気持ちも分かるんだけど、ヒース君が王都に着くまでに一週間と一日掛かったんでしょ? 今日だけ無茶をして距離を稼いでも、倒れて寝込んじゃったらもっと到着が遅くなるんだよ」
急がば回れって言うんだよ。体調管理をちゃんとして、コンスタントに進むのが一番良いから、ご飯と睡眠はしっかり取ってね。そう念押しすれば、ヒース君は黙ったままこくりと頷いた。
四章開始です。暫くは旅の空。
ちなみに都市間を繋ぐ馬車は朝一番に出発なので、本日分はもう出た後でした。(まあ、デイライト君達に馬車を使うという考えは無かったんですけどね。ヒース君はデイライト君とユースタスさん分の馬車賃を負担する程手持ちが無いから諦めようとか考えて居た筈です)
四章も特に盛り上がる訳ではありませんが、どこに行っても妖精さん達とご飯を食べたりしながらのんびり観光したりする筈なので、よろしければお付き合いお願いいたします。
評価ブクマなどもぽちぽちありがとうございます。




