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49話

幾つのコーナーを抜けただろうか?目の前のことで一杯一杯で、過ぎたことに気をやる余裕もない。

コーナーを抜けた僅かな直線。ふと、アクティビティーの排気音が遠くなった気がするので後方を確認したら、少なくともカメラに映る範囲には居ないようだった。


(『よし。』)


と、小さく呟いて、また次のコーナーに差し掛かる。

なだらかに曲がる高速コーナでは、少しオーバーステア気味に侵入して、クリッピングからは強引に重たい後方を引っ張っていく。

フロントタイヤはインにベタベタ。慣性で流れた牽引車はアウト側の崖ギリギリを保っている。


(『これなら行ける…』)


イメージー通りに走れている確かな手応えに少し気が緩んでしまったのか、次のシケインの一発目で僅かにラインを外してしまった。

こういう詰めの甘さは、今も昔も変わりない。

シケインの二発目のクリッピングに焦点を合わせ、一発目をフルに使って減速するつもりだったのが、ハンドルを切るのが僅かに遅れ、このままでは一発目を曲がりきれなくなってしまったのだ。


『!!!!!!』


声にならない叫び。

全身に悪寒が走る。

セーフティーゾーンなんてある筈もなく、ラインを外せば崖下に真っ逆さまだ。

サイドブレーキを使って強引にライン修正を試みるが、どれだけ贔屓目に見ても、明らかに道幅が足りていない。

フルブレーキをかけた所で、この路面と道幅じゃこの乱れた挙動を修正するのはもっと可能性が低かった。


(『みんなごめ…』)

       ガンッ!!


諦めかけたその瞬間、牽引車は飛び出ていた岩に弾かれて、なんとか崖下コースは免れた。


助かった…


なんて考えている暇はない。

すぐさまシケインの二発目がやってくる。

一度目の窮地は脱したが、接触したことで俺の挙動は乱れに乱れ、もはや制御できる範疇にない。


左に流れていた牽引車は、接触の衝撃で右に流れさる。 

形としてはシケインの出口に向き直せたことになるんだけども、如何せん全く速度が落とせてない。

せめてもと、ハンドルを出口に向けてアクセルを踏み込むが、タイヤは噛み込む気配なく空転し、そのままシケイン二発目の入り口にたどり着いてしまった。


『くそぉぉぉっぉぉぉぉ!!!!』


アクセルはベタ踏みのまま、もはや叫ぶことしか出来ない。


叫ぶと同時に、ここに来て景色がゆっくりと流れ始めた。

滑るタイヤに弾かれる、砂の一つ一つが鮮明に認識できる。

そこから視線を上げると、突き抜けた空がジリジリと迫ってくる。

抗い様の無い絶望をスローモーションで見せるなんて、マジ趣味がわりぃ…

これが野球やサッカーだったら奇跡を起こせたのかもしれないが、車はタイヤがグリップしなければ軌跡も起こせず、いくらスローになった所でスリップは止まらない。

迫る崖下。

一瞬の出来事なら、思わず眼をつぶってしまうシチュエーションだが、なまじスロー流れる景色のせいで目をつぶることも出来ず、空に吸い込まれる様から目が離せない。


その時だ、横滑りするしか無かった俺の車体が、突如シケイン出口に向かって進み出した。

同時に時間も通常通りに動き出す。


(『今度は何…』)

     ドガッ!


言い切る間もなく、左フロントに感じる強い衝撃。

俺のボディは軽く空を舞い、そして奇跡的に道路上に着地する。

着地の衝撃で再び挙動が乱れるが、この程度ならまだ許容範囲だ。

暴れる牽引車をブレーキで制御しながら、何事もなかったかのように再び走り出す。


一体何が起きたのか?走りながら後方に目をやると、どうやら左フロントが脱輪していたらしい。

脱輪したフロントタイヤが杭となって横滑りを受け止めて、すぐさま小さな突起に引っかかってジャンプした感じだろうか?

空に目を奪われながらも、出口に向かってハンドルを合わせて置いてよかった。少しでもハンドルの角度が違っていれば、内側の崖に落ちたり、ジャンプしすぎて反対の崖に落ちかねない所だった。


(『ははは……まさか豆腐屋の技に助けられるとはな………』)


ありえねぇから! と笑っていた技に助けられて、命拾いしたもののなんだかとても複雑な心境だ。






その後は、大した問題もなく順調に走り続けることが出来た。流石に一度死にかけただけあって、恐ろしいほどの集中力だ。

あまりに集中しすぎたせいか、道中のことはあまり記憶に残ってない。

1つ覚えていることといえば、左前のハブベアリングが死んでいた。

ブレーキの踏み代が数ミリ深くなってて、その前のことがあったから、普段以上にヒヤッとしてしまった。

まぁ、車体の向きをかけるだけの荷重をかけたんだ、ハブベアリングが壊れるのも当然だろう。


峠を下り切ると、廃村のような少し開けた場所に出た。

アクティビティとの距離は、30~40秒と言った所だろうか?

俺は一度止まると、サリューとルーフェンをキャンプキャリーに詰め込んで牽引車を収納することにした。


『急げ急げ急げ!!!』


飛び降りたルーフェンが、着地する間もなく牽引車を収納する。

キラキラと牽引車を包む光を突っ切って、サリューとルーフェンがキャンプキャリーに取り付いた。


『行くぞ!!』


ルーフェンが手すりを掴んだことを確認しすると、ドアが閉まるのも待たずに走り出す。

普通の人なら、その勢いで手すりから手が離れかねないが、コイツラだったら大丈夫だろう。


「ちょっ!!あぶね!!あぶねーってビーちゃん!!!殺す気か!!!!」


案の定ルーフェンが何やら騒いでるが、まぁ声が聞こえるってことは落ちてないんだろう。

予定通りだと、俺はフル加速していく。


クアァァァァン とアクティビティが迫ってきた。

その姿を見るのもなんだか久しぶりだ。


「どーーーしたポンコツぅ!!!いよいよ壊れたかぁ?!!!」


視界に入るやいなや、アクティビティがよく喋る。


『お前が迷子居ならないように待っててやったんだよ。』


お返しの言葉と同時に、


パパパ(アホガ)パーパー(ミールー) パパパ(ブタノ)パーパー(ケーツー)


眠れない夜の暇つぶしに作ったオリジナルの4連ホーン。

今使わずしていつ使う?!と、ここぞとばかりに鳴らしてやった。


「★△※□○◎凸〠Σ※□○◎○◎凸〠Σ★△※□Σ※□○◎□○◎★△※□○◎凸〠!!!」


アクティビティが怒り狂って、既になんて言ってるかわかんない。

打てば響くその反応に、色々溜まりに溜まった苛立ちを全部仕返し出来たと満悦する。

とは言えまだ逃げ切れてたわけじゃない。


『さぁ…クックック…これで……クックック……ハンデなしだ……かかって…アーハッハッハ』


気を取り直そうとするがどうにも笑いが止まらない。

俺が笑えばアクティビティが怒り狂って…

アクティビティが怒れば俺が笑えて、

俺が笑えばアクティビティが怒り狂って………。

永遠に終わりそうのない堂々巡りが、スピーカー越しの大音量で、静かな山間部に木霊し続けた。


ブクマ及び評価有難うございます。

次回更新、1/5日に予定です。


まだまだ手探りで書き進めていますので、忌憚のないご意見ご感想、お寄せいただければ幸いです。

稚拙な文章で読みにくいとは思いますが、生暖かく見守って頂けますようお願いします。


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