月曜日2
『もう良いか? やるぞ、レベル2まで一気にあげる! アンタが直接力使うわけでも無いからすぐにやめれば大丈夫だろ?』
今まで黙っていた月乃からトランスミッタがガンガン飛んでくる。
当初の段取りより早いけど、タイミングとしてはむしろちょうど良いか。
――上手くやれよ?
イエス。
『……お願い』
唐突に頭の中に女性の声が響く。
科学部の三人は周りをきょろきょろと見回す。
月乃の色がついていなければ誰だかわかんないところだ。
意外と器用にいろいろやるなぁ。
『遊んだって良いの。私だって正直、真面目な方じゃ無かったし』
かつて科学部に在籍した体の弱い少女はプログラムの天才で、二年生にしてロボット制作のメインチームに抜擢された。
しかし、制作半ばでその短い生涯を閉じてしまった為、直接その活躍を見ることは無かった。
高等部なら誰でも知ってる学校の怪談、理科室のりかこさんのお話。
『でもロボットは。それだけは。お願い、真面目に作って……』
そしてりかこさんは今でも理科準備室で一人机に座り。
時折悲しげな声で、サボる科学部員を諭すのだ。
――お願い、真面目にやって、と。
昨日の夜、俺の部屋での作成会議の時。俺はヤリ過ぎだと言ったが、
――利香子ちゃんはきっと出来るけどやらない、だから私が代わりにやる!
月乃はそう言って譲らなかった。
しかも微妙に利香子ちゃんの物まねになってるし。
……俺以外、誰も気が付かねぇよ! しかも結構。無駄に似てるし。
『終了! ……鼻血吹いてないか?』
イエス。
――吹いてねぇよ!
「あれ、たかみちゃん……? えーと。月乃さん。何かあったの、かな?」
「……なんの、ことですか? 可憐先輩」
科学部の三人が一様に顔色を悪くする中、我が天使長様だけがきょとんとしている。
……無差別では無く受信者を科学部の三人に絞ったんだな。そういう事まで出来るのか。 何処まで使いこなしてるんだよ、トランスミッタ。
「い、今の、聞こえたか? ……川崎さん、支倉ちゃん」
村田先輩の問いかけに科学部の二人は無言で頷く。
川崎先輩が胸に手を当て目を閉じて、何度か大きく深呼吸をしてからゆっくり目を開けて。
それから俺に声をかける。
「あ、愛宕クン。……あの、りかこさんには、会った。のかな。……なにか言ってたり」
「あ、俺達の変なあだ名だったら気にしないで下さい。最初から言ってるんですけど、勘違いされてるだけで二人共霊感なんか無くて零感なんで」
「……です」
ぼそっと月乃が俺に続く。当初の約束通り声がばれると不味いのであまり喋らない。
たださっきのだったら誰も気が付かないと思うけどな。
「……川崎さん。うちの部でエアガンに凝ってるヤツ、わかるか?」
「多分2年の……」
「名前は後で良いけど、大先輩に真面目にやれと怒られたんだ。ちょっとお仕置きが必要だろうな。――ちなみに愛宕君」
「はい」
「今使ってるロボット動作の基本プログラムはかつての先輩方が作ったものを改良しながらずっと使っているんだけど、名前がリカコフォーマットって言ってさ、改良していると言いながら基本部分は今でもほぼそのままなんだよ……。りかこさんが作ったプログラム。そうなんだろうな。名前は俺は冗談なんだと思っていたけど、常禅寺先輩。彼女から頂いたんだろうね。本当にいたんだな、天才少女。本人の声を聞いて初めて納得出来た」
「声……? あの、村田先輩。なんの、話。ですか?」
自分では得意。としか言わなかったが、プログラムの天才少女。
利香子ちゃんは多分そう言う人だったんだろう。
倒れた時に完全には出来上がってはいなかったはずのプログラム。
それは先岡から峰ヶ先になった今でも科学部を支えていたんだ。
「霊感無しで解決しちゃったね。スゴいよ二人共。先輩として私も鼻が高いわ!」
科学部が何か急ぐように――ありがとう。とだけ言い残して準備室を出て行って数分後。
中等部校舎へ向け大回りの最中、カギを受け取りながらそう言って我が天使長様は俺達を褒めてくれた。
優しくて人当たりは良い人ではあるけれど、一方で実は他人を褒めることがあまりない人だから。
ここは素直に喜んで良いんだろうな。
その我が天使長様とも別れ、中等部校舎入り口まで戻ってきた。
昼休みあと7分。重くて分厚いドアを開く。
「何処行っちゃったんだろうね、利香子ちゃん。それともさっきも理科室の方にいたのかな。……余計な事しやがって、みたいに怒ってないかどうか一応聞きたかったんだけど」
「怒っちゃ居ないと思うけど。――昨日の話だと俺達に限ればいたらわかると思うんだけど。拘りが無くなって地縛霊じゃ無くなったからその辺フラフラしてんじゃないの?」
――若しくは心残りが無くなって成仏しちゃったとか。その辺、昨日聞かなかったけどそれだとちょっと寂しいかな。なんとなく学校の何処かにそれこそフラフラしててくれたら、それで良いんだけどな。
「あ、居た!」
利香子ちゃんが?
……では無くて、見つけられたのはどうやら俺と月乃だな。女子二人がこちらを指さす。 同じクラスのブラスと女子サッカーの部員だ。
「居た。……って、私ら? ――どうしたの?」
「どうしたのじゃない!」
「兄妹揃って何処行ってたの! ドンだけ校舎の中グルグル探したと思ってんのよ!」
……高等部の、しかも旧校舎にいたら。そりゃ気が付かないよな。
「怒られる義理は無い。なんの用事だよお前ら。どういうコンビなのかよくわからないし」
仲が悪いわけでは無いにしても、この二人が一緒に何かしてるの初めて見るな。
「偶々目的が一緒だったのよ。伝える相手も同じ顔だし、一緒にどっか行ったって言うし。
――ブラスと女子サッカー全部員に臨時連絡。……では女子サッカーから」
「放課後、当番、掃除は全てキャンセル。制服で大至急部室に集合。――はいブラス」
「吹奏楽部全部員は臨時集会と全体練習をするので当番掃除等終了後、直ちに全員音楽室へ集合するように」
「今日はすぐに出るんだ」
「そうみたい、練習場確保できたみたいで、着いたら簡単に基礎連ぐらいするって。――あと、今回は全部員帯同だからバスをチャーターしたらしいよ。町営バスだけど」
前回は出発は駅まで歩き、帰りは顧問が知り合いから運転手込みで借りたマイクロバスが駅まで迎えに行った。観光バスとかでは無いにしろ、県立にしては優遇されてる。
「で、ブラス(ウチ)はなんだ? 今日は顧問、会議で休みだったろ?」
「サボるための情報収集は怠らないんだな、愛宕 (男)は。鹿又さんが嘆くわけだ。……知らないけど。部長から昼休みに連絡があって、全員に大至急伝えてくれって。――なんで連絡回すのに二年筆頭が居ないのよ」
「それこそ俺が知るか! そんな急な話!」
予鈴が鳴る。お昼休み、あと5分。
「わ、あと五分だ! 教室帰る前にトイレ行かなきゃ」
「あ、ちょっと待って。私も行くよ」
「置いてかないでよ、一緒に行くぅ」
……どうして女子はまとまってトイレに行くんだろう、謎だ。
だからやたらに込むんだろうな女子トイレ。
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