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月曜日3

 放課後。部室の前に椅子と譜面台を引っ張り出して全員校庭を向く。

 一番前にはどこから持ってきたのか踏み台に上って白鷺先輩。


 向いた先の校庭に、いつもの緑と黄色の町営バスが居るのがちょっと違和感。

 行き先の部分にはオレンジの文字で【峰ヶ先中高 中女サッカー部】と表示されている。

 ……行き先以外にも変えられるんだ、あそこの文字。


 バスの前には三〇人弱の女子と教師が数名。

 そして向かい合って、いつもの体育教師の他、お腹の出っ張り具合から多分中等部の教頭先生と、禿げ具合から察して校長先生だと思しき人影が三名。


「中等部女子サッカー部、いってまいりますっ!」

「いってまいりますっ!」

 山田先輩らしき生徒の声が校庭に響き、さっ、と手を上げると全員が一糸乱れずに校長先生達に礼をする。


「よし、がんばれっ! 楽しんでこいよっ!」

 校長先生の声がここまで届く。相変わらずサバけた人だなぁ。

 なんでお堅い県立の校長なのか、毎回中高全校集会の度に不思議に思う


 そしてサッカー部が礼からなおったのを見て白鷺先輩が踏み台の上でこちらを振り向き右手が上がる。

 それを見て全員楽器を構える。バスの扉が前と中央、両方開いた。

「それじゃ、元気良く行こう! わん……、つー……、わん、つー、さん、しっ!」

 集会用の校歌。だから一番でお終い。但しさっきのミーティングでは基準をフォルテシモにするように言われた。

 単純にデカい音を出せ、と言う事だ。




 ――みんなも知っての通り、生徒会からはサッカー女子の壮行会は今週の試合で勝った後、来週の月曜日。と言う事で話が来ています。

 ――でも、出発する時はウチの部室の真っ正面にバスが止まるわけで、だから気持ちよく試合に挑んでもらえるように自主的にプチ壮行会と言う事で、三曲程やろうと思います。


 ――中総体で我々吹奏楽部、ほぼ出番が無かったのでその鬱憤晴らしもかねて、と言う事で。割り振りは各パートに任せますがここに居る全員、参加でお願いします。

 ――聞いた話では4時10分にバスが出るので4時までに表に出て準備を完了します。


 ――やる曲については校歌は外せないので……えと、こんな感じで実質二曲やります。譜面が無い人、居ますか? ……大丈夫、ですね?

 ――では、順次表に出て、準備でき次第チューニングから。




 ちらっと隣のトランペットチームを見る。

 一番端、籠ノ瀬が真っ赤になって楽器を吹いている。

 赤いのは、大きな音を出すことに対する抵抗感、なのかな。……三分程前。


「……でも、愛宕先輩」

「喋る場合はのどとか声の質とか自ずと限界があるだろうけどさ。楽器なら単純にデカい音って、出すだけならお前は出せるだろ? 肺活量結構あるし」

「それは、多分。……でも、大きな音で、も、もし、その、外れてしまったら」


「あとでごめんなさいで良いいじゃない、ふうちゃん。だってコンクールとかじゃ無いし。それに自分が吹いてるって、月乃先輩を応援してるってわかって貰いたいでしょ?  ならハズレたって良いじゃん。先ずは、ふうちゃんがここに居るよ! ってわかってもらわなきゃ」


「……くらちゃん。……うん、がんばるっ……!」

「鹿又。お前、たまに良い事言うのな」 

 と言う、端から聞いたらどうでも良いやりとりがあった。




 だけどそのどうでも良い会話に後押しされて初めて聴くようなデカい音で、――私はここに居ます! と自己主張しながら籠ノ瀬が楽器を吹く。

 しかも音も濁らないし割れたりもしない。

 本物の天才かも知れないなこいつ。

 バスに乗り込もうとした女子サッカー部の足が止まる。


 曲の一番最後、 リタルダンドし (ゆっくりになっ)て校歌が終わる。

 白鷺先輩は踏み台の上でバスの方に向き直り右手を挙げる。

 全員が立った後に先輩が深々と頭を下げるとバスの前からは拍手が来る。

 頭を上げると向き直り手で合図。

 それを見て全員が座り、白鷺先輩の向こう側ではぞろぞろとサッカー部員達がバスへと向かう。


「次、譜面用意して? ……練習して結局使わなかったからここ、本番だよ!」

 中総体であまりにも惨敗してしまったために、練習だけして使ってない曲が2,3ある。中でも難しくて練習も大変で、でもみんなやりたがっていたのが次の曲。


 そして、アニメだって銀河の彼方までなんか取りに行くんだから。

 だったら隣の県に行って、勝利してこようという現状は曲とあってるだろう。

 と無理矢理理由を付けてこの曲が選ばれた。


「じゃ、やまとぉ! 行くよぉ! 金管、パーカッション。前奏かっこよくね、宜しくっ!」

 ちらっと隣を見る。珍しく緊張の面持ちの鹿又。

 全体ミーティングの後で始まったトロンボーンパートミーティング終了直後。




「わ、私が1stって、あの前奏、私で良いんですか。さっきの話、先輩達何処までマジなんでしょう……。虐められるようなことは、私。ホントにしてないと思うんですけど」

「そう言う意味じゃ無いだろ、経験値、経験値。だからお前にやらせるってさ。ま、今日は俺も1stだし。やってたろ、1stの練習も」


「ホントに嫌みとかじゃ無いんですね? 虐めでも無いんですね? 愛宕先輩も一緒なんですね?」

「くどい! ギャグに聞こえなくなってるぞ?」

 ――冗談事ではないです、もちろん本気で言ってます! 

 目が大真面目だ。元々基本的には真面目なヤツだしな。


「なら尚のこと、思い切ってやれ! 毎日なんのために練習してる、お前ならいける!」

「ホントに良いんですね? ……なら、全身全霊、力の限りがんばります!」 




 余り上手くは無いと自分でも自覚しているし、なので全員参加の演奏でも目立つようなパートに廻ることは無い、と自分である程度割切っている鹿又だから。

 再び指揮棒は持たない右手が上がると、隣から思い切って息を吸い込むのが聞こえた。


 練習では聞いた事の無いような大音量で前奏が始まり、バスの入り口に足をかけたサッカー部が再度こちらを振り向く。

 全楽器、音が割れるギリギリで音を出してるな、これ。

 って言うかもう一部割れて外れてるけど、でもこう言うのはわりと好きだ。


 演奏の間、どうやらサッカー部なんだろうか、男子が校庭に集まってきた。

 そして何故か、中総体が終わって解散したはずの応援委員会のTシャツに鉢巻きの男女10名前後、


 そしてウチの学校には居ないはずのチアリーダーがポンポンを持って集まってくる。

 緑のポロシャツの背中には

【峰ヶ先中高 中等部  Minegasaki J.H.S. Tennis Club】

 ……って、おい!

 テニス部の女子じゃないか、あれ! そりゃ格好は似てるけど……。


 明らかに誰かが何か仕込んだくさい。

 そして仕込んだ張本人は、たぶん今、目の前で大ぶりで指揮をする白鷺先輩以外あり得ない。まだ何かするつもりなんだろうか。

 今だって、顧問や風紀委員会、部活動監査委員会から事情聴取を受ける可能性が高いというのに。


 時間が無いからループはしないで一週で終わり。

 事前の打ち合わせの通り、超大音量のまま演奏は終わる。

 右手の合図に合わせて全員立ち上がると、白鷺先輩が再度バスに向かってお辞儀をする。


「がんばってこいよ!」

「全力でいけぇ!」

「勝てば実質、東北最強だぞぉ!」


 バスに向かって声をかけるのは多分男子のサッカー部、フィルの顔も見える。

 バスに乗り込んだ女子サッカー部員達が窓を開け、手を振って答える。

 仕込みでは無い、校庭にいた運動部や帰り足の生徒達もぞろぞろ集まり始める。


 何かの能力なんじゃ無いの? この先輩の仕切……。


 さておき。次で最後、気合い入れていこう!

もしよろしければ、感想欄でも活動報告のコメントでも構いません。

ほんの数行で構わないので感想を頂けたら、とても嬉しいです。

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