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日曜日3

「怒らせちゃってごめんね、つっきーの」

「別に私は……」



「ぶっちゃけ、なりたいも何も。私が、そのりかこさんなの。――って言っても、信じてもらえるモノか非常に疑問なんだけど」

「あのさ……。なに? どう言うこと? 具体的に何をどう信じろっつーの?」

 多少言い方がぶっきらぼうでランちゃん風になった。

 ――利香子ちゃんが、りかこさん?


「意味わかんないっ!」

「そうだよね。そうだと思うけど、聞いて? ――あの日。ちょうどこの机、ここに座ってた。それで、なんか邪魔になる気がしてペンダントを外した直後に、突然苦しくなって床に倒れ込んじゃった……」



 確かに俺もそう聞いた。

 けれど、それは理科室のりかこさんの話のマクラ。

 利香子ちゃんには直接の関係は、……ないはず。



「ホントはね、“私は”誰にも見えるわけ無かったんだよ。自分で見せようとしなければ仮に見えても理解出来ない。誰かに聞いたわけでは無いけど、そういう理屈みたいだし」


 利香子ちゃんの存在感、と言うか、なんていうか“影”がすぅ、と薄くなった気がする。

 ……体の後ろが透けて見える気が……。


「月乃もそうだけど、利香子ちゃんも落ち着いて……。何言ってるかわかんないよ!」

 ――大丈夫、落ち着いてるよ。利香子ちゃんはそう言うと俺の方を見る。再度目が合う。

「ようクンに見つけられたのが最初なんだよ。なんで見えるの? って思った」

 俺が、見つけた? 


「だから一緒に来てた可愛い娘、彼女の制服に見えるように意識して取りあえず人影を見せようと、二人のうち片方だけが見えてるのはおかしいから両方に。そう思ったら」


 ――この辺もさ、あり得ないと思うんだよ。今までそんな事なかったし。そう言って利香子ちゃんはため息を一つ。

「私が意識して“作る”前につっきーのに、その作ってもない名札を“読まれ”ちゃった」


「私が、無い名札を、読んだ……?」

 ちょっと背景が透けて見えるような気がする以外、目の前に居るのは女子高生。

 まだ朝と言って良い時間帯、外からは相変わらず野球のかけ声と金属バットの音が響いている。

「制服に見えるようにって、えーと」


「私は、そうだな。もし見えても、いること自体が理解出来ないというか、どこにでも居るしどこにも居ない。って言うような中二病的表現が一番しっくりくるのかな。……あ。ごめん、二人共今、中二だったね。もとい。――えーとね、うん。いつ、誰に見られるかによって私の見かけは違って見えるかも、みたいな事なんだけど。……例えばね」



 そう言うと利香子ちゃんは立ち上がってクルン、と左に一回転。

 アクティブなイメージでは無い彼女のスカートがふわりと膨らむ。

 時間にしてほんの一瞬。そして正面に戻ると濃紺のセーラー服姿になっていた。

 胸元のタイに“百”をデザインした校章、これは間違いなく南町と同じ、百ヶ日中学校女子の冬服だ。


 少し髪が長くなり見た目も少し幼い感じになって、華奢な体が更に細く、背は俺と同じくらい。

 そして胸が……。一番の特徴だったはずの胸がしぼんだ。

 中学生とするなら。

 それでもかなりの大きさで、俺の知る中学最大ボリューム、白鷺先輩を明らかに凌駕してはいるけれど。

 目つきが悪いところはそこだけ変わらず利香子ちゃん。



「友達がこんな服着てないかな。お家がこの辺ならきっと二人共、学区的には私の後輩なんでしょ? 百中には行かなかったんだから直接の後輩ではないだろうけど」


 と言い終わると、一瞬黄色いチョッキとチェックのスカートを経由して、県立高等部の青緑のジャンパースカート姿、中身も大人びた高校生に戻っていた。

 但し若干体の後ろの景色が透けて見えるのは、今のところ戻す気が無いらしい。




「納得してくれた、かな。……でも、これ納得されちゃうと今度は友達ではなくなるわけで、そこはちょっと寂しいんだけど」


『話はわかったけど納得出来ない! ……そんなの無いよ! こんなのって!』

 イエス。

 を返す。そう言う意味で納得出来るわけが無い。


「だからね、本当は移動、全く問題ないの。歩く必要ないし、――二人を騙したみたいで悪いけど。扉もカギも、実は私には全く意味がないから」

 足音がしなかったり、物が持てなかったり、友達が居なかったり、あり得ない程細い隙間から出入りしていると言い張ったり。

 そう言えば初めて会った時に自分で言っていた。


“妖怪”ではなく“幽霊部員”なのだと。


 そのままの意味だったわけだ。


 今の話を納得するのであれば、確かに足はあっても足音はしないだろうし。

 体が無い以上、物が持てるわけも無く。


 そして高等部に友人が居なくてもそれは当然。

 利香子ちゃんは県立峰ヶ先中高高等部ではなく、県立先岡高校の生徒で。

 しかも既に七年前には亡くなっているのだから。



 試験の成績を聞いた時、彼女の順位のベースである生徒数がおかしいことに気が付くべきだった。

 男女合わせて中高とも一学年200人前後。

 男女別の結果集計でなら、県立は女子比率が高いから、順位の母数が100人居なかった時点でもう足りないのだ。


 それに、男女別で順位が発表されたことは、県立中等部に限って言えば。今までに一度も無い。

 これに照らせば先岡高校は、利香子ちゃんが通っていた時点で生徒数は一学年100人弱しか居なかったことになる。



 ……数年後。結局。先岡高校は、生徒数が減少に歯止めがかからず、同じく生徒の減った峰田中学校に統廃合されて。

 今の、県立峰ヶ先中高に衣替えをすることになる。


「前に霊感強い人達が来たって……」

「波長の合わせやすい人って、まぁ居るんだけどさ。でも何処で何してようと、他の誰かに見とがめられるようなことは一切ないよ。私が“見せよう”と思わない限り、ね。……“私みたいな立場”だとさ、基本的にずうっとぼっちで居るもんだから自己顕示欲が強くなるのかも。――あ、私は違うけどね」


 当然、全くおどろおどろしく無い、むしろ魅力的と言って良い美人のお姉さんな見た目もあるのだけど、それを差し引いても。

 彼女が幽霊だとわかっても全く恐怖は感じない。


「もっともキミら二人に関して言えば、なんて言うか完璧に波長が合っちゃったから、だから完全に身を隠すのはもう不可能でね。取りあえず見通しにいれば、普通の人達と同じく私のことは見えちゃうはずだよ」

「あの……」


「せっかくだから昔話させて。これまで誰とも話し、出来なかったから」




 ――私が二年になった時、その先輩は部長になったの。

 ――私、当時プログラム大得意でさ。

 ――まぁ、なんつうか大好きな人に頼られるのが嬉しくてちょっと無理してたのは事実でね、だからひっくり返っちゃったんだけど。


 ――暫く後でその、……私を“見つけてくれた”のが、その彼だったと聞いて。

 ――それはもうショックでショックで。



「余計な事しなきゃ良かった、あの日、素直に帰ってれば良かった、って。そりゃあもう今でも後悔しきりってヤツなの、本当に」



 ――いくら私でも気になる男子に死に顔みられたく無いよ。

 ――息が出来なくて胸掻きむしってたわけだし。

 ――シャツのボタン一個飛んだの覚えてるし、スカートだってまくれちゃってるだろうし。

 ――どう考えてもひっそり静かに冷たくなってるパターンではないのよね。


「多分、かなりアレだったんじゃないかなぁ、って自分じゃ見ていないけど、顔が紫に腫れ上がって舌を出して目をむいて。みたいな」


 と。ここまで話すと、はぁ。ため息を一つ。




「それじゃ服が乱れてたって全然そそらないでしょ? 下着とかおっぱい見えちゃってても、その方ががかえって怖いとかさぁ。女子高生なのよ? 私。どんな罰ゲーム? て話でしょ。……彼が見つけてくれるなら、せめて可愛く死にたかったな。って」


 死んじゃったら可愛いも何も無いと思うんだけど……。

 利香子ちゃんは椅子に座り直すと、手を組んでその上に額を乗せる。

 顔が見えなくなる。


「先輩、その後一ヶ月くらい不眠症になっちゃったみたいでね。……当たり前だよね、普通に生活していたら高校生が後輩のグロ死体を発見したりはしないもの。――その後志望校に受かったって私の同級生達が話をしてるのを聞いた時は、だから、涙が出るくらい嬉しかった……。っていうか、コレは本気で嬉しくてね。暫くは思い出す度に涙出たよ」



 この話も、とっても利香子ちゃんな感じだよなぁ。

 自分が死んじゃったことより、その死体を発見した人を心配してるとか。

 口元には笑みが浮かんでいるが、でも顔を伏せてしまったから。

 実際にどんな顔をしてるのかはわからない。本当は悲しい顔なのか、悔しい顔なのか。



「ちなみにりかこさんの話の、えーと学校の怪談的な……」

 ぱっと顔を上げる。

 無理やり笑顔を作ってくれたようだ、と。それは俺にもわかった。

「学校の怪談成立については全く関与しておりません。……この部屋で事切れたこと以外」


「ここ暫くで誰かに姿を見られたり、話しかけたことは?」

「7年ちょっとでようクンとつっきーの、二人だけ」


 ……やっぱりそうか。そうなると誰かが意図的に噂を拡大してることになるけれど。

 そんなことして、なんの得がある?

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