日曜日4
「利香子ちゃん、私……。えーと写真を、返しても。その」
「大丈夫。軽いモノならポルターガイスト的な事で何とかなるから。端から見ると私が見えていないんだから、やっぱりポルターガイスト的な感じで見えんのかな」
――もしくは、私が持った瞬間から写真も理解出来なくなる。と言う感じなのかも。月乃が差し出した写真を受け取ってまじまじと眺めた利香子ちゃんは、隣のテーブルの上においてあった実験用の鉄の皿の上に写真を載せる。
「写真、どうするの? 持って帰るって訳にも行かないだろうし、もしアレだったら俺達が預かって……」
「ようクン、気にしないで良いよ。言ったでしょ? 先輩に害が及ぶのが一番不味いって。実はさ、さっきつっきーのが言ったの、半分ホントなんだよ。工事の人が多分見つけるだろう。とは思ってた。あの机、捨てる時にね」
「え? じゃあやっぱり煽るつもりで……!」
「逆々。半分、って言ったでしょ? 工事の人が見つけたって古い写真、でお終い。家具とかパソとかコンクリートとかと一緒に工事用のでっかいゴミ箱に捨ててくれると思ってた」
大事な写真だったんじゃ……。
「だって、写ってるの今の県立の子じゃないし日付も昔。この部屋のモノは全て捨てて良い約束だし、だったら仕事の手を止めてわざわざ職員室に持って行くわけないもの。私以外の誰かにとっては大事な物では無いし、そうも見えないでしょ? だったらそのままポイ、ってするのは当然じゃない」
写真の隠滅こそが一番大事だった、って言うことか。
「それによしんば職員室に持ち込まれたところでそこは公立高校。しかも統廃合されてからもだいぶ時間がたっているし。既に先岡時代の先生、誰も残ってないからやっぱりわかんない写真として、ぽい。の可能性が高いと思ってね」
そう言うと改めて写真に目をやる。
「そして話はもう一つ。……私、二人には謝らなくちゃいけない事があるの」
そう言うと利香子ちゃんは写真をぐっと睨み付けるようにする。
「……なにを」
前触れ無しに突然、ぽっ。と音がすると写真の正面。
利香子ちゃんの顔の部分に穴が空き、青緑の火が穴を広げながら写真全体に広がっていく。
――なら、ファイアスタータは……!。
「利香子ちゃん、ちょっと!? 関与してないんじゃなかったの!!」
「信じて、と言っても信じてくれるとは思わない。けど、話だけは聞いて。ようクンのボールペンを燃やしたのは私。……だけど二人を怪我させようとか絶対に思ってなかった。ただこの部屋にもう来て欲しくなくてそれで。――――ごめん、やっぱり今の無し!」
利香子ちゃんは涙目で立ち上がる。
「話だけじゃなく信じて! もう会えなくて良い。友達で無くなっても良いから、だからお願い、それだけは信じてようクン、つっきーの! 怪我させようとは思ってない、本当なの!!」
「利香子ちゃん、大丈夫。私も陽太も、そんなことする人じゃ無いってわかってるから。――ね、利香子ちゃん。昔からこんな事出来たの?」
「……出来るのに気付いたのは“りかこさん”になってから。でも使い道、ないし。だからこないだまで使ったことなかった」
「俺からも一つ、この部屋に置いた観測装置を燃やしたのも利香子ちゃんだね? 取り換え出来る部品とか、電源装置とか。燃えたもの、俺には簡単に取り替えたり、直せるとこばっかりに見えるから。――科学部に本格的に探りを入れられるのは、ちょっと抵抗があった、みたいな感じ?」
「この部屋、今年からプログラムで使わなくなって……。あの、科学部の遊び場みたいになってるのがちょっと気にくわないというか、気になるというか。元々真面目な方じゃなかったし、今更部員でさえないのに。でも、建物の中で怪談を絡ませて人払いのためにわざと火を出すとか、そう言うのが許せなくて。……結局同じ事、しちゃったんだから、人のことは言えないんだけど。――あと、科学的に調べられるのはちょっとイヤかなって」
遊びに来る人を追い出そうとして科学部の調査班を呼び込み、更には俺達を含む外部の霊能者部隊まで引っぱり込んでしまったんだけど。
それこそ不審火では無く。学校の怪談、りかこさんとして一度騒ぎを起こせば、それで半分以上解決出来たんじゃないかな……。
……でも利香子ちゃんには出来ないだろうなぁ。
そう言うの。自分が嫌われるより相手が怖がるのが耐えられない、みたいな。
優しんだが面倒くさいんだか、良くわかんない性格みたいだし。
「ごめんなさい。結果的に私が二人をこの部屋に呼んじゃったんだね……」
「気にしない! 私も陽太も、そうでなきゃ利香子ちゃんに会えなかったじゃん! な?」
そう、月乃のテンションが急に上がった理由、それは容易に想像がつく。
父さんや母さんが利香子ちゃんのような状態で存在している可能性が出てきた、と言う事だ。
もっとも父さんや母さんが、死んで七年以上も執着するようなコラ写真を持ち歩いていたかどうか。そこは定かでないけれど。
「利香子ちゃん。ちょっとこのメモ、みてもらえるかな。……自分で火を付けたモノ。覚えてる?――あ、違う違う。責めようとかそう言う事で無く、確認しておきたいんだ」
嫌々ながらもメモを指さしてもらった結果。
当初言われたアルコールランプは当然利香子ちゃんの仕業だったわけだが、それでも半分は彼女では無い。
ならば残りに火を付けたのは……。
考え始めたところで遠くから、からーん、かんからかんかん……。と言う甲高い音。
「陽太、聞こえた? さっきアンタの立てかけた棒、倒れたよ!」
コンクリートがむき出しになった外からの廊下。狙撃者への備えを捨てられなかった俺は、誰かが入って来たらわかるように校舎入り口の扉に鉄の棒を立てかけてきた。
当然、外の扉はダイヤルロックがある。
工事の無い今日。それを開けてきたならそれは。
「例の狙撃者!? 陽太、どうする!?」
「月乃、利香子ちゃんと理科室に行け、――あとレベル2やる、トランスミッタも貸せ!」
――いったい何を。と月乃が言いかけた時、廊下に向いた仮設扉がきしみながら開き始める音がする。
「スタンピード? しかもなんでレベル2! また鼻血吹いてぶっ倒れる気? それに内緒にするんじゃなかったのか!?」
「私は別に隠れなくても誰からも……」
「短時間ならいける。それに利香子ちゃんには内緒にする意味が無い。良いからやるんだ、頼むっ! ――あと、利香子ちゃん。それでも俺達に見えてるだろ、なら絶対じゃない!」
利香子ちゃんが学校の怪談としての地位を確立したいわけでは無い以上、こんなタイミングで誰かに姿を見られるのは不味いだろう。
さっきの説明通りだったら、相手によっては先岡の制服姿で見える可能性だってあるんだから。
俺は利香子ちゃんと月乃が理科室に引っ込んだのを確認してから、ディバックをつかんで教卓の下に潜り込む。
教卓の正面に隙間があるのは初めからわかってる。隙間に目を押しつける。
準備室前側、引き戸の真ん中。
かけておいたカギがあっさりと開く音。
やはり合い鍵。
入ってきた人物は、胸より上は見えないので性別はわからない。
今、俺達の着る学校指定ジャージ、“ミネジャー”では無いジャージを着てディバックを背負ったその小柄な人物。
「大人、じゃないよなアレ。……高等部の人、なんだろうか」
ジャージはそのまま部屋の奥まで進むと、使えなくなったバカでかいパソコンの前にしゃがみ込む。
背中のバックを降ろす時に半分開いたチャックの奥に中身が見えた。
見えたのは銃身の長い拳銃。ランちゃんや南町なら種類までわかるんだろうけど、そこは今重要ではない。こいつが狙撃者だ……!
『陽太、始めるけど一分でやめるからな? あと、出ても良くなったら合図くれ』
いきなりコントローラが“持ち上がる”。
向こうも慣れた、と言う事なんだろうけれどコレはコレで中々に不快な感じだ。
『何するんだかわかんないけど、アンタとの会話用以外のトランスミッタ、全部持ってけ! レベル2、こっから1分だかんな!』
『……イエス』
ディバックの中を探って音がしないように、そっと樹脂で出来た黒いケースを開ける。
昨日南町から借りたレーザーサイト。本当はどう見えるか実験したかっただけ、だったんだけど。
鉄の棒が転がる音を聞いてそのレーザーサイトの使い方を思い出した。
――威嚇にも使えるでしょうけどね。わざと見えないところから照準してるのを見せつけた上で、お前はもうこの時点でお終いだ、諦めろ。って。
だから俺は教壇の隙間から、わざと狙撃者の右手の甲に赤い光の点を照準する。
相手はエアガンを使う、しかも銃を改造し、かなりの腕前。
だったらこの行為の意味はわかるはず。
『警告だ、今すぐ出て行け。撃ち出すのがBB弾とは限らないぞ。こいつの銃身を改造していないと良いな』
俺が第三者に声を聞かせるならレベル1では足りない、そう言うことだ。
あえてトランスミッタを使ったのは声色と位置の特定が出来なくするため。
聞き慣れていない人間には位置の特定どころかどんな声だったかなんて、判別出来るわけが無い。
レーザーサイト自体が教壇から照射されているのはほこりっぽい部屋のこと、すぐ気が付くだろうが一方、警告の声の出元がわからない場合。潜んでいるのが本当に教壇なのか、一人なのか複数なのかさえわからなくなる。
好都合なことに潜む場所だけは豊富にある。
ジャージがリュックから何かを取り出そうとしたところで。
準備室の中、からーん、くわんくわん、と金属質の音が響く。
出来る限りゆっくり、低く聞こえるように言葉をジャージの背中に“投げる”。
『今のは一応警告、な。次は予告通り、右手の甲に穴を開ける』
ジャージはリュックをつかむと、身を低くしたまま駆けだしてそのまま部屋の扉をくぐり、ギー、バシャーン。
工事用の仮設ドアに飛び込んだ。
ふぅ、一旦終了。握っていたBB弾数発を床に落とす。
実際に飛ばさないで済んだ……。
コレも昨日、使い道は考えて無かったが南町からもらってきたモノだ。
『一分だ、スタンピードやめるぞ?』
『おーけー、もう出てきて良いぞ。どうせ月乃は“視てた”んだろ?』
「使い方雑だよ。言葉と実況中継がごっちゃになってる。……なんつーか、頭が疲れたろ?」
イエス。
のゼスチャをしながら月乃が利香子ちゃんと準備室に戻ってくる。
「俺の力じゃ無いからな。お前の分丸ごと借りると映像実況も込みになるのかも」
「テレキネシスまで使うなんて無茶しすぎだってば。本当に大丈夫か?」
さっきの鉄の皿を落としただけだけ、たいした事はしていない。
「……あいおうふ。――あえ?」
他には問題が無かったが鼻が垂れて……。あ。やっちゃった、鼻血だ。
「きゃあっ!! ようクン、大変っ! 血、鼻血! 鼻血が出てるから……! ど、ど、どうしよう、どうしよう。ほこりだらけのカーテンとか、謎の薬品を拭き取ったウェスぐらいしか無いよ、この部屋……。あっ、そもそも私じゃ拭けないじゃないっ! ――ねぇ、つっきーのってば、なんでへーきな顔してんのっ! 双子でしょっ、兄妹でしょっ!? 家族でしょっ!!」
幽霊が他人の鼻血に慌てる。
これはもう、なにがどうなってるんだか本格的に判らない。
「利香子ちゃん、落ち着いて? レベル2って言われた時点でこの辺までは想定の範囲内だから慌てなくて良いんだってば。――ホントに頭痛とか大丈夫? だいたいなんでハンカチもテッシュも持ち歩いてないんだよ、にーちゃんにだらしない! って怒られるぞ」
「鼻血を想定してる、って。何、それ! レベル2ってどういう……」
――あとで説明するっす、いろいろ面倒くさい話なんで。……ほれ。とおざなりに利香子ちゃんをあしらいつつ、月乃がポケットテッシュを放ってよこす。
「あいがお」
……テッシュを一枚取って、軽く鼻をかむと行儀が悪いと思いつつ開いてみる。うわ、ダブルかよ。
もう一枚取り出して破くと、丸めて両方の鼻の穴に詰める
「ファイアスタータ、狙撃者、学校の怪談まで綺麗に全部解決。後はどう話すかだけ。もう明日カギを返してもなにも問題がなくなった。……私ら、やれば出来る子じゃん!」
にーちゃんにもランちゃんにも頼らず、ファイヤスタータ、狙撃者双方がなんで人が来ると困るのか、そこまでわかったしな。上出来だ。
「あぁ、いかひつのいかこひゃんはひょうでおひまいあ」
鼻が両側ともふさがっているので思ったよりも言葉が変だ……。
当然二人に異口同音で突っ込まれる。
「……何言ってるか、わかんない」
いつもの双子ユニゾンって、やられた方は不快なのかも知れないな……。
もしよろしければ、感想欄でも活動報告のコメントでも構いません。
ほんの数行で構わないので感想を頂けたら、とても嬉しいです。
評価やブクマを頂けると言うなら、もちろんすごく嬉しいです。




