夢現#4
細く開いた目に真っ先に入って来た天井、薄暗く微かに木目が見える程度の明かりだ。
首を左に向けると窓がありそこから雲に隠れた月と星空が見える、窓枠の下には黄色の小さな花弁を開かせた花が三輪、その脇には水が注がれた透明な大きめのコップ、月明かりでコップに入った水は神秘的な影を差していた。
寝惚けた表情で毛布を取り払おうとするが重く圧し掛かっている何かに阻まれる、顔を足元へ向けると白い塊が微かだが上下に動いている、更に良く見渡すとベッドに突っ伏し寝息を立てている子供の影。
雲に隠れていた月が顔を出し柔らかな光が差し込みより一層室内が明るくなる、照らし出されたのはスティンクとフェオだ、二人を起こさない様に細心の注意を払いながら上体を起こすが毛布の擦れる音でフェオが目を開く。
視線が合いフィンはにこやかな表情を浮かべ。
「ごめんねフェオ、起こしちゃったね」
「――お姉ちゃん」
ベッドに乗り上がりフィンに抱き着く。
眠りに就く二日前――。
「夢、ですか」
苔生した屋根が特徴的な町長宅、木製のテーブルと椅子に座り町長の話に耳を傾けていた。
「えぇ最近特に酷くて、街では良くない前触れとかで騒ぎになっている程です」
長閑な田舎町というより村に近いこの樹街では最近ある夢が頻繁に見られる。
内容も決まっており、見たことも無い街で最後にはその街の住民達に捕まりそうになる所を間一髪逃げ切り目を覚ますのだとか。
中には捕まった人もいて、眠るとあの街に連れ戻され二度と目覚める事は無いと思い、碌に眠れない住民もいるという、医者も原因は分からずお手上げ状態でどうしたら良いか悩んでいた所にフィン達がやって来たのだ。
眉を顰め考え込む、すると思い当たる節があるのか顔を上げ。
「お医者さんでも分からない――もしかして夢魔の葉かな」
「夢魔の葉とは?」
「はい、ちょっと特殊なんですけど――その夢の中に変わった物が出て来ませんか?歪な形の大きな葉のような物とか」
「そういえば夢の街の中央に不気味な植物の葉があるとか言っていた住民がいましたね」
夢魔の葉――現実世界には決して生えない夢の世界や精神世界でのみ育つ葉である。
症例も様々で今回の様に街の住民が一斉に同じ夢を見たりする場合もあれば、柱樹自体の育成不良を起こし最悪の場合枯れてしまう、人間で言うストレスからなる柱樹の見る悪夢のような物、植物も生き物なのだそれが集まり形を成した物が夢魔の葉であると言われている。
治療法は一つ直接夢に介入し夢魔の葉に薬を注ぐ事、しかしこれは危険も伴う夢に取り込まれる可能性もあるからだ、現に僅かではあるが夢に囚われ数週間目覚めなかった人物もいると報告が上がっている。
「しかし夢に入るって言っても薬はどうする気だ?夢の中に持っていくにも」
「私とスティンクだけじゃ無理だけど、今は大勢いるからなんとかなるよ」
一人が治療の為夢に入る、もう一人は薬を届けかつ夢に囚われない様に呼び続ける事、そして両者を起こす役目、互いに起こし合えば僅かだが睡眠も取れる、現にこの街でもそうやって被害の拡大を防いでいるのだ。
だがここでも注意が必要だ、夢の中では現実の記憶が無い、誰でも経験した事があるだろうが夢を見ている時は現実の出来事を忘れているものである。
心を強く持ち流されない事、それが一番の難関であろう、眠っている時は誰しもがそれを忘れてしまうのだから。
「役目を忘れてそうな時は教えてね、それと薬よろしく」
「あぁ、でも同じ夢なんて見れるのか?もし違う舞台だったら」
「そこは大丈夫だと思うよ、みんな同じ場所にいたって言ってるし」
「フェオは夢を見る事は出来ないのでここでお姉ちゃんを見守ります」
「おいらも手伝うからがんばろうね!」
「よし、それじゃ治療開始だね――いってきます」
宿屋の一室にて眠るフィン、まだ疲れが抜け切っていないのかすぐに寝息を立てた。
それからは数時間おきにカラトとスティンクが交代で眠り、きっかり一時間置きにフェオが起こしていく、その間フィンは一度たりとも起きる事は無かった――。
◇◇◇
無事夢魔の葉を取り除く事に成功した一行は住民達から感謝されっぱなしだった、ようやく安心して眠れると。
手渡される食糧をいそいそと鞄に詰め込むフェオ、大量の食べ物にスティンクも嬉しそうだ。
頭上から降り注ぐ暖かな日差し、街から離れ振り向くと柱樹が天高く聳えている、ここが自分のいる現実。
そっとコートのポケットに手を入れると底に小石のような感触があった、摘まみ上げ手を開くとガラス片がそこにある、恐らくあの時の破片だろうとフィンは考えた。
「もしかしたら今こうしているのが夢で、夢の世界が現実なのかな」
「まだ混乱してるのか?今いるこの世界が俺達にとっての現実だろ」
掌にある小瓶の欠片、あれは本当に夢だったのか――夢現のような出来事、身に覚えのない街並みのはずなのに、あたかもそこの住民として生活していた自分。
夢とは別の世界で生きるもう一人の自分の現実――なのかもしれない。




