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ユグドラシルの樹医師  作者: 海原 瑛紀
第2章 護るべき世界
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アールヴヘイム防衛戦#2

 狼煙が上がる一時間前、第一次防衛線――。


 樹街郊外にて待機中の部隊その中にライルの姿が見える、脇には相棒のディンゴ。


 腰を降ろすのに丁度いい高さの岩に座りひたすらに山々を眺めている、時折獲物を手に取っては油を染み込ませた布で刀身を拭き上げ二、三度振るとコートの内側にある鞘に静かに納刀した。


「静かだな、ダーインが目覚めたなど嘘の様な程静かだ」

「全くだ、本当嘘であってほしいよ」


 視線を横に向ければ資材の脇で談笑している者や座り込みカードをしている者、実に様々だこれから戦闘など起こる様な雰囲気すらない。


「よっしゃ! これで三勝! 街戻ったらお前の奢りな」

「くそツイてねぇぜ、――なぁそこの樹医師さん、あんたもどうだい?」

「いや遠慮しておくよ、こんな所で運を使い果たしたくないしな」


 手を振り場所を変える為その場を後にした。


 配備状況を確認する為街中を歩き回る、街から少し離れている線路には一台の装甲列車、車両の脇から伸びているワイヤーが地面に突き刺さり車体を固定させている、その中でも特に目を引くのが先頭にある一本の巨大な砲台。


「これが主砲、こいつならもしかしたらあの外殻を貫けるか」

「過信は身を滅ぼすぞライルよ」

「おいおいあんたら、こいつを舐めてもらっちゃ困るな」


 車体の上で手入れをしていた兵士がこちらに声を掛ける、手に持った道具を砲身の先に向け。


「こいつは従来の砲弾だけじゃない、対象に深く打ち込まれた後時間差で爆発する特殊な砲弾を撃てるんだ」


 自慢げに話す男それを聞いていたライルは頷く、深く突き刺さりそこから爆発するというのならあの固い甲殻を持つダーインにもダメージを与えられるかもしれない。


「他にもどういった装備が――」


 言いかけた時だった、資材が積まれている箱が小さくカタカタと音を鳴らす、ライルと男そしてディンゴが木箱を見詰める、顔を見合わせ恐らく気のせいだろうと言った時だった、もう一度震える今度は先程よりも大きく。


「じ、地震か?」「いや違う、こいつは――」


 コートの内ポケットから単眼鏡を取り出し後方にある山脈を覗く、視界をあらゆる方向へ向けると山の影から砂埃が空に舞っていた、振動は定期的に起きそれは徐々に揺れ幅も大きくなっていく、アンカーで固定していた装甲列車も揺れる程だ。


 慌てふためく兵士達だがこの前線を任せられている部隊長が一喝する。


「落ち着け! まずは状況確認だ! 斥候を出せ近辺を調べろ!」


 馬に跨った兵士が二人一組で次々と街を飛び出す、残った者達は急ぎ指定された持ち場に就く、それぞれの地点には盾や槍も置かれており全員がそれらを受け取り隊列を組んだ。


「全員そのまま待機だ、それと装甲列車に火を入れておけ」


 突き出た砲身は限界稼働域まで動かされ不備がないか点検を行っている、列車内部では主砲副砲それぞれに砲弾が込められる、狭い内部での作業は困難かもしれないがこういった訓練を受けて来ている為、一人としてつまづくことが無い。


 しかしその間ですらも揺れは収まる事が無かった、それどころか。


「おいおい、どんどん酷くなってるぞ」


 立て掛けられた槍や斧といった物が次々と雪崩の様に倒れて行く、それを見ていた兵士達の目は不安一色に染まる、だがそんな事はお構いなしに今度はその不安を煽る様に地鳴りが起こった、遠くから聞こえる地面が抉れるような音。


 一人単眼鏡を覗いていたライルはこちらに戻って来る斥候の姿を確認した、馬を全力で走らせ焦っている様子に「来やがったな」相棒と共に走り出す。


 すれ違い様斥候兵はライルを止めようと声を掛けるが聞く耳を持たず駆け抜けていく、諦めたように正面を向き直し真っ直ぐ部隊長が待つ列車へと走らせた。


 馬から転げ落ちるような勢いで飛び降り報告する。


「ダーインを確認! こちらに向かって来ます!」

「いよいよか――、総員戦闘準備! 狼煙を上げろ!」


 

 一人先行して丘の上に陣取ると山々の間に目を凝らす、砂埃が巻き上がる斜面、抵抗も無く転がる巨大な岩、そして。


「あれがダーイン、超大型害蟲の一匹」


 山の影から赤く光る四つの眼、口元は山を削る様な猛々しい牙を無数に生やし獲物を狙っているかのように不気味に動いている、ついに姿を現したダーインのその全貌が見えて来た、体高は千メートル以上あるだろうか、六本の柱樹のように太い頑強な脚、小さな樹街ならすっぽりと覆えそうな程巨大だ。


 それは山脈の一部が動いているかのようだった、脚を動かす度地面は揺れ振り下ろされた足元は抉れる、山の麓には誰かが使っていたであろう小屋が見えたが米粒にしか見えない、外殻も蟲のそれではなく山そのものを背負い、大気は震え心臓が潰されそうな圧迫感、もはや生物という域を超えたまさに「災厄」そのものだった。


「準備はいいか相棒」「無論だ、少しでも痛手を与えておかねばな」



 砲身は一つの例外なくダーインに向けられていた、あと一歩で射程圏という所まで進みついに。


「全砲門撃ち方用意! 撃てぇ!」


 上げられた右手が下に振り抜かれ、同時に設置された砲台、装甲列車の砲身から爆音と共に火柱が立つ、超大型害蟲ダーインと戦いが幕を開けた。


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