アールヴヘイム防衛戦#1
それぞれの持ち場に就いて四日が経った、変わらぬ日常だが一つ違うとすればその日常の光景には不釣り合いな全身に鎧を纏った兵士達が街中を闊歩している事だ。
金属音を撒き散らし騒音以外の何物でもない状況下の中で、フィンは柱樹の根元で道具を広げ治療具を手入れしていた、万が一の事態にも備え薬も調合する。
「傷付いた部分に塗る薬に、抗生物質あと栄養剤に、それから――」
黙々と段取り下準備を済ませる、何度も柱樹の周りを歩き回り損傷した部分へはどう行くか最短ルートを頭に叩き込む、徐に根に足を掛け幹を触り感触を楽しんでいるようだ、サラサラととても触り心地が良い「本当にいい樹」口元を綻ばせながら呟くと。
「今日も確認? 真面目なのね」
「あ、おはようございますカナンさん」
少し下にこちらを見ているカナンの姿があったその後ろにはこの国の兵士が三名、この国の王女だ衛兵が付くのは当然である、身長は低いもののその纏う気迫や白金の鎧は近寄りがたいものがあった、余所余所しい態度を取るフィンを見て。
「あぁ別について来なくていいって言ったんだけどね、帰って来るとこれだから本当面倒なんだけど」
「それはなりません、貴女様はこの国の王女なのですから」
大きく溜息を吐き出し迷惑そうな表情を浮かべる。
街を囲む様に建設された高い壁、幅も三メートルは在ろうかという厚さ、並大抵の衝撃ではどうする事も出来ないだろう、更に等間隔で設置された大砲や投石機、バリスタがより強固な守りに磨きを掛ける、一台一台の横に置かれた木箱には砲弾や火薬、武器までが置かれていた、極めつけは五人一組で常に見回っている事だ少しの異常でもこれならすぐに察知できるだろう。
「すごい警備ですね、武器もあんなにいっぱいある」
「こういった準備は前からあったんだけどね、フェンリルの件以来余計に強化されたから」
砲身に棒を入れ中を拭き上げたり設置されている道具や資材を確認している集団を見つけるとカナンは声を掛けた。
「ご苦労様、調子はどう?」
「これは王女様! えぇいつでも大丈夫ですよ!」
顔は煤で黒く染まっている若いアールヴ族の男性が笑顔で返事をする、そんな男性を見ながらカナンもまた笑いながら。
「ふふ顔黒くなってるわよ――、ところであなた見ない顔ね、最近入隊したの?」
「はい! 国の一大事ですからね、自ら志願しました! ジッとなんてしてられませんよ!」
男性は腕を振りながら力を持て余しているというアピールをしてみせる、頼もしい限りだカナンはその男性にハンカチを手渡し「これで顔、拭きなさいね」白色に小さな花柄をあしらった可愛らしいハンカチだ、男性は首を激しく横に振りながら。
「そ、そんな恐れ多いです!」「いいから、ほら」
受け取った男性は嬉しそうに顔を拭き「必ず洗ってお返しします!」そう言って腰に下げた革袋に大切にしまった。
「カナンさん皆から慕われてるんですね」
「べ、別にそんなんじゃないわよ――」
クスクス笑いながら顔を赤くし否定しているカナンを笑った、気恥ずかしそうに下を向くその横顔は嬉しそうに見えた。
外壁を回り始めて半分くらい来ただろうか、見回りをしている者や整備をしている者分け隔てなくカナンは声を掛けた、その度兵士達の士気が高まっていくのを感じ取れる、まさに火種は炎へと変わろうとしていた、だがその火種を吹き消すかの様な強い風が吹く。
「うわ! 急に風が」
髪留めの紐をカラトに渡した為長い髪が煽られる、視界は自分の髪で遮られ良く見えない、手で暴れる髪を抑え込み遠く線路の先を見据えた時、それは見えた。
「あれ、煙ですか? もしかして――」
口を動かすよりも先に警鐘がアールヴの街全体に響く。
「狼煙だ! 狼煙が上がったぞ! 総員戦闘準備!」
先程の平穏な空気は一変し緊迫する樹街、見回りしかいなかった外壁に次々と上がって来る兵士、武器を手に大砲の最終確認が行われそれぞれの部隊が持ち場の確認をしている。
「リンベルあたし達も戻るわよ!」「はい!」
急ぎ階段を駆け下り柱樹へ向かう、戻る道中も兵士達はぞれぞれの持ち場に就くべく走り回っている、樹街正面にある巨大な門はゆっくりと口を閉じ大木の様な梁が通された。




