風の巣#2
街へと降りる道、そこも先程の道と変わらず岩が剥き出しの状態だった、だが人の往来が外側より多いせいか多少はマシだ、近づく程に分かる街の全貌、昼だというのに上空に広がった枝葉により濃い影が落とされ宛ら夕刻のような薄暗さ、どこか湿気臭く肌に纏わり付く感覚、湿度も高いようで家屋は皆地面より少し高めに礎を作っていた。
「この街はどういった所が保護対象なんです?」
フィンが案内役の人物に尋ねる、するとその男性は長に話を聞いた方が早いと返し足早に根を縫うように先を行く、見失わぬよう後を追いながら街並みを観察しているカラト。
住民達の生活環境は自分達と然程変わらない様子だ、別段変わった所も見当たらない。
「この地域特有の習慣―、って訳でもなさそうだな」
どこにでもある普通の家、フィン達と変わらない服装、言語も同じで訛りが少々ある位だ。
やがて一行は長の家に到着する、ここもまた普段通りの良く見掛ける作りの家だ、扉をノックし返事を待つ。
「うぅん、普通の樹街にしか見えないなぁ、柱樹には驚いたけど」
「この柱樹が他の街と違う部分があったりしてな」
そんな会話をしていると静かに扉が開いた、中から顔を出したのは目が今にも閉じそうな優しい顔付の老人だった、案内役の男性が事情を説明すると中へと通されるがここで案内役とは一旦別れる事になった、今晩の宿の手配してくれるのだという、礼を述べフィン達は家の中へと進み、テーブルに着くよう促された。
「あの初めまして、リンベルと言います―診察も兼ねてこの樹街に訪れたのですが」
どこかよそよそしい態度のフィンに長の男性は。
「ようこそ樹医師さん、山越えは大変だったでしょう? まずはゆっくり体を休めて下さい」
「はいありがとうごうざいます」
二人の前にそっともてなしのお茶が注がれる、湯気が立ち爽やかな香りが清々しい、一口啜りソーサーに戻すとカラトが代弁する様に話し掛ける。
「ところでこの樹街はどういった経緯で特別保護地域に?」
まるで幼子のような瞳で長を見詰めるフィン、長は笑いながら話してくれた。
「この樹街はある生き物の産卵地なんですよ、ここの柱樹はとても大きいでしょう? 幅もあって葉も生い茂っている―外敵から身を守るには打ってつけなんですよ」
どうやら話を聞く限りこの街の保護対象はとある生き物の様だ、フィンは益々興味を持つ。
「どんな生き物なんですか? 大きいですか小さいですか? 見た目はどんな感じの―」
「ははは、お嬢さんは随分と動物が好きなようですね、今なら中腹辺りにいる筈ですから見て来てはどうですか?」
立ち上がりいそいそと準備をすると一目散に外に飛び出すフィン「お、おい!」カラトの制止も虚しく窓の外のフィンは柱樹に向かって駆けて行く、立ち上がり頭を下げ後を追うようにカラトもまた長の家を後にした。
柱樹の根元に立ち登れそうな箇所がないか首を伸ばし探している、激しくうねり曲がりくねったそれはピッケルを使うまでもないようだ。
「どこから登れるかな、あそこかな―でもその先が急だし」
やっとの思いで追い付いたカラトは肩で息をしている、こうなったフィンは疲れという物を知らないらしい、呼吸を整えながら。
「フィン先走り過ぎだ、ちょっとは大人しく―」
いつの間にか横にいたフィンの姿が無い、視線を樹の方に向けると既に登り始めていた。
「人の話を聞けって!」
どんな生き物だろう―そんな興奮を胸に抱き黙々と柱樹の中腹を目指す。




