―幕間―その手に握るは
青い空は何処までも続きやがて山脈に突き当たる、周りには線路と駅が哀愁を漂わせ訪れた者に一時の静寂を提供している。
その駅の外には二人の男女、フィンとカラトだ、何故列車を降りてここにいるのか、それは―。
「ラタトスク何の用事だろうな」
「ねぇフィン、おいら駅の中で待ってていい?」
「いいけど、大人しくしてるんだよ?」
スティンクはドングリを乗せると駅へと羽ばたいていく、それを見送るとまた空の先を見据える、何も無い荒野は眺めていると徐々に眠りへと誘うがそれを拒否するように首を左右に振り、また遠方を見据える。
程なくして小さな影が水色一色の空に現れた、それは紛れもないラタトスクだ、高度を下げながらこちらに向かってくる、長い毛を風に靡かせ首に吊るした鞄はいつもより小さく見えた、皮膜をバタつかせ降り立つと右手を上げ挨拶を交わす。
「お疲れ様大変だったね、今日はどうしたの?」
短い足を動かし近づくと鞄に手を入れ何かを取り出す、手帳の様なそれは樹医師免許にも見える、差し出しされたそれを受け取り眺めるとやはりそれは樹医師免許だった、だが従来の物とは違う、何も無かった裏表紙に線が三本、絡み合う様に装飾されていた。
「これは―なんだろう?」
「どれどれ? これ何の印だ、ラタトスク何か知ってるか?」
「キュ?」
首を傾げ分からないといった仕草を見せる、するとカラトが。
「キュって、お前話せるだ―」
口を慌てて抑え込むラタトスク、思わず体制を崩し尻餅を付く、手を払いラタトスクを睨むと何とも困った表情で小さくカラトに耳打ちする。
「余計な事言うんじゃねぇよ! 俺のイメージが崩れるだろうが!」
「なんなんだよ一体!」
「ラタトスクったら、カラトに会えてそんなに嬉しいのね」
クスクス笑うフィンにラタトスクも懸命にこの場を乗り切ろうとカラトのしがみつく、だがカラトは懸命に離そうとしていた。
「でもこれ何だろうね、免許新しくなったのかな?」
じゃれ合っている振りをしていたカラトは片手で抑え込みながら、免許を受け取り眺めると口を開く。
「そういや先輩達は皆この印入ってたな」
すると今度は鞄から一枚の手紙を取り出す、手紙というよりはメモの方が近い、二つ折りにされたそれを広げるとそこにはベレッタの字で。
―特別保護地域立ち入りを許可するに際し新しい免許を配布する、体に気を付けて頑張ってくれ―
「じゃあこれは―、保護地域に行けるようになったって事?」
フィンは目を輝かせ嬉しそうに話す、保護地域は特別な許可なくして進入できないからだ、だがこの新しい免許を使えば許可申請を待つ事無く入れる、同時にフィンが一人前と認められた証でもあるのだ、あまりの嬉しさに飛び跳ねカラトに抱き着く。
「やったやった! これで僕も一人前だよ!」
「き、気持ちは分かるが―視線が痛いんだよ」
ハッとし離れ頬を赤らめながら。
「ご、ごめん―その嬉しくて、つい」
恥ずかしそうにするフィン、だがカラトの言う視線は駅にいる人々の眼差しでは無く、後ろにいるラタトスクの視線を指す、目を血走らせ歯軋りしている様は明らかに激昂しているようだ。
「ほ、他には何かないのか? ラタトスク」
笑顔で声を掛けるが視線はカラトから外さないまま鞄にまた手を入れる、冷や汗が噴き出しっぱなしのカラトは生きた心地がしない、まさかこの毛動物に殺られるのではないかと、だが急に態度が変わった、何度も鞄とフィンを見直しやがてカラトに視線が向けられる、それを察しフィンの目を盗み荷物を見ると。
「これは、そうかこれも一緒に届けに来たのか」
辞書程の大きさの木箱、その中には鈍く輝く銃と弾丸が収められていた、以前話のあった武器を携行する事、非常事態故その対応には文句はない、だが―。
「フィンには、持たせられないよな」
「カラト、お前さんが持ってくれ―リンベルちゃんにはこれを握って欲しくないんだ」
「―分かった」
中身だけを取り出し腰のベルトに刺し込むと隠す様にコートを直す、お互いに見合わせ頷くと。
「フィン、ラタトスク戻るってさ―じゃあな、後は任せろ」
「もう行っちゃうの? 気を付けて帰るんだよ、またね」
頭を撫でると何処か悲し気な目に気付いた、だがフィンは口を開かない、無理に詮索しないようにと考えたのだ。
やがて空に消えたラタトスク、同時に駅に進入してくる列車、二人は乗り込むべく歩を列車に向ける、楽しそうにスティンク達に新しい免許を見せているフィンを眺めながら腰に手を回し。
「軽いんだな、人の命を奪う物だってのに―こんなにも軽いんだな」
蟲相手の銃とは違った重み、だがそれは驚く程軽いものだった、こんな物でいとも簡単に命を奪う、カラトはこの銃をフィンに握らせまいと目を盗み鞄の奥底に仕舞い込む。
「カラト早く! 列車出ちゃうよ!」
「おいらお腹空いたよ、早く!」
「分かった分かった、今行くから」
席に着くと食事を取るべく鞄から色々荷物を出しているフィン、それを眺め。
「フィン、君はその優しさを手放さず握っていてくれ」
「え? 何か言った? カラトも食べたいの?」
「いや―俺は大丈夫、スティンク達に食べさせてやってくれ」
美味しそうに頬張る二人を眺めながら笑顔を浮かべる、こんな優しい時間がいつまでも続いて欲しいとカラトは切に願う、汚れるのは自分の手だけでいい―そう自分自身に誓いを立てる、全ての罪を背負う覚悟を持って―。




