第14話 対峙する狩人#2
轟音を立てながらもう一匹、今度は左側面から姿を現す、強靭な前脚で地面を掘り進めながらこちらに向かってくるのを確認した。
「もう一匹だ! 外すなよ!」
ボウガンからまたしても矢が放たれる、夜の為矢は視認できないが確かに小さな風切り音が横を掠める、それに追従する様に布が風にはためく様な擦れる音が過ぎ去り、標的は地面に勢い良く突っ伏す形となって、やがて静止した。
「あと三匹、何とかなるか」
駆けながら先程の二匹がしっかりと捕縛されている事を確かめていると。
「確かにお前さんの言う通り、最初から全力でこうした方が良かったな」
「何かあってからじゃ遅いですからね、それにこの調子ならすぐ終わりそうだ」
「その通り、さっさと終わして酒でも引っ掛けたいねぇ」
今まさに駆除の最中だというのに、既に終わった後の事まで話し始めるルイズ達、初めての駆除活動に慌てふためいているフィンの胸中とは全くと言っていいほど逆だ、幾多の蟲を捉えて来たからこその余裕と言うべきか。
残るは三匹、一気に叩こうと例の火薬を埋めてある地点へと向きを変え、全員がそれぞれの手に持った獲物を構える。
「さぁ仕上げといこうか!」
指定の場所そこは土が他の所より柔らかい、故に火薬を適度に埋めるには丁度良かった、火薬から出ている導火線が伸びておりその先には、先程ボウガンで捕獲を担当していた二人が点火の合図を待っている、後方から迫る砂煙は三本、残りのオオアゴオケラも喰い付いた様。
円を描くように配置された場所にルイズ達が足を踏み入れると手を上げる、点火の合図だ、持った小さな火種を着火させるとか細い光の線が弧を描きながら火薬へと近付く。
「火が付いたぞ! 全速力で駆け抜けろ!」
より一層足に力を込め大地を蹴り上げる、蟲との距離わずか数メートル、フィンは息を切らしながらも懸命に駆ける。
「フィン急げ! 巻き込まれるぞ!」
「わかってるよ!」
マフラーから出てスティンクはフィンの背を押す様に手を添える、この暗闇の中だ冷静な判断だろう、他のメンバーも一心不乱に前だけを見ている。
「頑張れフィン! こっちだ!」
岩の影に先に到達したルイズが声をこちらに向かって投げる、導火線は見る見るうちに短くなりやがて、灼熱と轟音、そして大地を僅かながらに揺らす、火柱が辺りを夕刻の様な色に染め上げ、次いで突風が背をぐいぐいと押していく、その突風もあってかフィンは運よく岩陰へと滑り込む事が出来た、体勢を低くしながら顔を覗かせると残った三匹が一斉に姿を現す、衝撃と火柱により混乱しているようだ。
「今だ! 一気に叩くぞ!」
この混乱に乗じ一匹を捕縛、その間に二匹はハンター達との攻防を繰り広げている、蟲にも関わらず、その鋭い牙は刃物と何ら遜色ない、斬撃を繰り出せどもその牙で勢いを殺される、牙と刃物が衝突しあい飛び散る火花はさながら剣闘士同士の対決だ。
だがその均衡は徐々に崩れこちら側の旗色が悪い、ただ眺めている事しか出来ないカラトは意を決し、腰に手を伸ばすと剣とナイフの中間程の長さの刃物、ブーツの裾を捲り手にしたのは三本の鉄の棒。
「フィンここで隠れてろ!」
「ま、待ってカラト!」
フィンの制止を振り切り加勢に向かう、三本の棒は繋合わさり一本の長物に、先端には先程の刃物を装着させる、それは紛う事無き槍だった、振り上げ遠心力を持って切りかかると胴体と腹部を的確に捉え裁断する、普通の生き物なら大抵はこれで絶命するが蟲の生命力たるや並大抵の物ではない。
裁断されても平気で一週間は生き永らえる事が可能だ、故に確実に絶つ為には頭部を潰すか、毒を盛るしかない、のた打ち回る胴体に近づくと槍の切っ先を頭部に押し当てる、そしてこの場では有り得ない行動を取る、目を閉じ何かを呟き始めたのだ、それを見ていたフィンは。
「カラト危ない! 早く逃げて!」
しかしフィンの言葉に耳を傾けることなく、ただ呟く。
「今ここに、柱樹より生まれ落ちたる御霊をユグドラシルへとお返し致します――どうか迎え入れ永遠の安らぎをこの者の魂に」
大きく頭上に槍を掲げ。
「そして、この者の魂を奪った私を――どうか赦し給え」
闇の中雷光にも似た一閃の光が頭部を貫く、飛び散った体液はカラトの顔にかかりオオアゴオケラは遂に息絶える、思わず目を逸らしスティンクを抱きしめるその手は僅かにだが震えていた。
台風一過の様な静けさが辺りを包む、ルイズ達も残った蟲の駆除を終えお互いの無事を喜び合った。
「お前さん――どこでその獲物の扱いを習った?」
「旅をするにしても、可愛い弟を守りながらですからね――少しはこういうのも扱えないと」
「そうかまぁ無事だったならそれでいいか、よしさっきの蟲を確認に行くぞ」
「大丈夫かフィン」
「うん、平気――平気だよ」
岩陰で小さく蹲っているフィンに手を差し伸べる、それを取り立ち上がると走り回っていた道を戻って行く、改めて道を眺めると凄まじい光景だった、抉れ大きな穴があちこちに開き、オオアゴオケラの部位と思しき脚の爪が散乱している、しかし妙な事があった。
全て討伐したはずなのに何か近くを飛び回っている様な音をスティンクが聞き取ったのだ、耳を立ていつの間にかマフラーに隠れていたスティンクは顔を出しそっと耳打ちする。
「ねぇフィン、本当に全部やっつけたの?」
「その筈だけど、どうかしたの?」
「何かねさっきからずっと羽の音が上で鳴ってるの」
「上?」
頭上を見上げるがそこには星が広がっているだけ、気のせいではないのかと諭す様に話すと、それを遮る様に。
「頭大変だ! 一匹見当たらねぇ!」
「何だと? ちゃんと調べたんだろうな!」
「間違いねぇって! 俺達が仕留めた獲物の場所を間違えた事があったか?」
忽然と姿を消した一匹、その捕獲した場所に行くと確かに矢が地面に向かって突き刺さり、だが網の中が物毛の殻になっていた、そしてそのすぐ脇にあるあの巨大な前脚。
「こいつは何だ? 自分の腕を切って逃げたってのか?」
「いや違う――網が無理矢理引っ張られた跡がある、所々千切れてますよ」
辺りに松明を向け目を凝らすが穴を掘って逃げた形跡もない、不気味な事象に皆口を閉ざし張り詰めた空気が漂う、瞬間何かが音を立てる、その方向へと皆が視線を向けると無残な姿へと変わり果てたオオアゴオケラの骸が横たわっていた。
「な、なんだよこれ!」
「どうなってんだよ! こいつ空でも飛んだってのか!」
「落ち着け! 全員武器を構えろ何かがいるぞ!」
その中で真っ先に異変を感じ取ったのはスティンクだった、急に震えだし。
「フィン! 早く逃げて!」
「うああああああ!」
「何だ! どうした!」
叫び声が響く、全員が顔を合わせるといつの間にか一人減っていた、混乱するメンバーを他所にルイズが声を上げる。
「ゴーラ! ゴーラどこに行った!」
「嘘だろ、なんでこいつが」
空を見上げるカラト、釣られるように全員が見上げるその先、オオアゴオケラの更に倍はある巨体、四枚の巨大な羽を有し、松明に照らされた複眼には自分の顔がいくつも映っている、腹部の先端には長い針がありそれには反しがびっしりと並んでいる、警戒色の様に色鮮やかな深紅に染まる蜂の容姿にも似た蟲。
「ゼラスピア、なんでこいつがここにいるんだよ!」
大顎をガチガチと鳴らし、こちらに向かって急降下してくる、確実な殺意を向けながら。
◇◇◇
「もう終わったのか? 随分と静かだが」
「いやでも終わったなら終わったで報せに来るって言ってただろう」
樹街の一角にある集会所、石造りの強固な建物に避難を促された住民達は外の静けさを不気味に思っていた、先程までの爆発音や地の底から響いてくるような地鳴りは収まり、今は静寂と遠方に見えるハンター達の松明の灯りしかない、だが。
「くそ! 飛んでるんじゃどうしようもねぇぞ!」
「何とかしてあの飛行能力を奪うしかない!」
円を描く様な陣形を組み周りを見渡し、すぐさま対応できるようにしているが空からの強襲、ましてやこの闇に紛れての攻撃、その場にいる全員がただ機会を待つしかなかった。
風切り音が右から左へと素早く流れ、視線を向ける頃には上空を通過していく。
「野郎、楽しんでやがるな」
ルイズが口を開く、獲物を捕食するだけでは飽き足らず、弄る様に痛めつけてから止めを刺すようだ、時折姿を現し、腹部先端の針は使わず胴から伸びている長い足で払うように陣形を崩すとまた闇に紛れていく、その攻防は徐々に体力を奪われていくのが分かった。
腕が重くなり息も途切れ途切れになる者も出て来ている、更に何時何処から現れるかも分からない状況、肉体的にも精神的にも限界が近付きつつあった。
「何か打開策でもあれば」
羽音だけがいつまでも鳴り止まない、耳に焼き付き常に周囲を旋回しているかのような錯覚さえ起きてしまいそうだ、その時カラトが口を開く。
「俺の荷物に照明弾が入ってます、姿を確認したらボウガンで翅を打ち抜くというのはどうですか?」
「照明弾は名案だが翅を落とす程の威力はないぞ」
「火薬があるでしょ? 矢の先端に括り付けて即席の爆薬仕込みの矢を根元に当てさえすれば」
攻撃的に進化したゼラスピアは天敵等殆どいない、故に速さと攻撃力を併せ持ち圧倒的な力で狩りを行えるように進化してきたのだ、だがその反面甲殻が柔らかく、爆薬を仕込んだ矢を翅に当てれば機動力を大幅に削げるだろう、もし外れたとしても他の部位に当てるだけでダメージを与える事も可能だ、しかしここで一つの問題が上がる、それは。
「良い考えだが火薬を仕込んだ矢は重い、量にもよるがかなりの接近戦になるぞ」
「どのみち他に選択肢何て無いでしょう? 今できる事をやるだけですよ」
鼻で笑うと。
「気に入った、それで行こう――野郎共聞いてたな! 陣形を崩さないように馬車に移動だ!」
慎重にゆっくりと、急に動き出し相手を興奮させないように―馬車まではそれなりの距離があった、あれ程動き回ったのだ当然と言えば当然だ、しかしその距離もこの状況下では途轍もなく遠くに感じる、微かに見える荷馬車の輪郭、だがそればかりを見ている訳にはいかない、敵は今も頭の上を飛んでいるのだ。
「ダッツォ矢に火薬を括り付けとけ、一本でも多くだ」
「はい!」
仲間達に護衛されながら中心で、微かな松明の灯りを頼りに火薬を作る、薄手の布に粉を入れ中心部に導火線を置くと口を堅く縛り、握りながら筒状の形に仕上げていく、それを矢の先端から少し後ろ側へとまた縛り上げる。
「重心が取れないからブレるかもしれません」
「気にするな、どのみち接近戦しか残されてないんだ、その調子で頼む」
荷馬車に到達したカラトはすぐさま乗り込み鞄から銃を取り出し、照明弾を装填していく、ボウガンの準備も終わりいよいよ反撃に出る。
「こっちは準備出来ました、いつでも撃てます」
「こっちも三本用意出来ました、残った火薬じゃこれしか出来ませんでしたけど」
「上々だ、さぁ反撃といこうじゃないか」
カラトが握っている銃が空に向けられる、矢を装着したボウガンを構え導火線の近くには点火用の小さな火種が即席で付けられた、右手を上げ合図を待つ、確実に一本でも当てたいため神経を集中しある程度の場所を絞り込む。
するとルイズの首が左側を向き頷く、全員が一斉に左を向き、右手が下がると同時に引き金を引いた、空に伸びていく一筋の赤い線、やがてそれは眩い光を生み出し、辺りを昼の様に照らした、突然の事に視界を奪われその場で滞空している標的を確認すると走り出し距離を一気に詰め寄る。
「今だ! あいつを撃ち落とせ! どこでもいい確実に当てろ!」
導線に火が移る、距離を考え短くされたそれは躊躇う事を許さない長さだ、狙いが視界に入れば即座に矢を放つ、だが奇しくも一本目は僅か右に反れゼラスピアの斜め後ろで爆炎を上げる、だが二本目、三本目共に翅と腹部を見事に捉える事に成功した、焼け落ちて来る一枚の翅、突き出た針は衝撃で折れ垂直に地面へと突き刺さる、一枚の翅を失い体勢を崩すゼラスピアは地面へと落ちて来る。
「来たぞ! こうなれば俺達にも勝機はある! 踏ん張れよお前等!」
「おぉ!」
だが思惑通りにはいかなかった、残った翅を再び震わせ何とか地面との接触を回避しようとしたのだ、更に。
「あの野郎まだ飛べるのか!」
「頭まずいぜ! あいつが飛んでった先は居住区だ!」
全速力で追い掛けるが無情にも両者の距離は開いて行く一方だった。
「まさかこんな事になるなんて!」
「四の五の言うな! 今は走り続けろ!」
「民家までもう少しだ、被害が出ちまう!」
「街の人達は気付いてないのかよ!」
◇◇◇
集会所の窓から外を眺めている子供が不意にガラスを叩く、それを見ていた母親が近寄り。
「危ないからこっちにおいで」
「お母さん、ブンブンいるよ」
「ブンブン? どれどれ、あら?」
視界に捉えたには揺れ動き近付いてくる松明の灯り、母親が窓を開けると。
「今すぐそこから逃げろぉ!」
懸命に叫ぶルイズ、だがまだ距離がある為届かない、母親が中にいた人達に。
「ねぇ見て、ハンターさん達が戻って来たわよ!」
「本当か! 駆除に成功したのか!」
喜び集会所から人々が出て来るが、それとは裏腹にルイズ達は更に焦る。
「早くそこから逃げるんだよ! 上にまだいるんだぞ!」
「何か言ってない? 叫んでる様に聞こえるんだけど―」
「お母さんブンブンだよ」
「だからブンブンって何」
子供が上を指さす、視線を向けた先にそれはいた、その鈍く光る眼からは怒りを感じ取れる、恐怖に顔が引き攣り途端叫び声を上げるとその場にいた人間がゼラスピアの存在に気付き逃げ惑う。
「ちくしょう! 急げお前等このままだと!」
住居に突っ込み次々と家屋を破壊していく、立ち上る煙は街を覆い、そこから聞こえて来るのは逃げ惑う人々の悲痛な叫び。
「狙うなら俺達を狙えってんだよ!」
倒壊し家屋だった物の中心にいる先程の子供、混乱に乗じて母親とはぐれてしまったのだ、辺りの惨状を目の当たりにし涙ぐみながら。
「お母さんどこ? お母さん」
後方から瓦礫が崩れる音がし、振り向くがそこには母親と似ても似つかない異形の者がいた、顎をガチガチと鳴らしその視線は眼前にいる子供に向けられている、その場にへたり込み最早逃げる力さえも残っていない。
居住区に辿り着いた一行は迷う事無く中心部へと入ると二手に別れ探索を開始し、それと同時に避難を促す、だがフィンの腕を掴み助けを乞う人物がいた。
「お願いします! あの子を探して、きっとまだ何処かにいるはずなの! お願いよ!」
「落ち着いてください! 大丈夫お子さんは僕が見つけます早く非難を!」
一緒に逃げて来た男性に肩を支えられ街から離れて行く背を見送るとカラトに。
「まだ子供が残されてるみたい、僕は向こうを探すからカラトは皆と一緒に!」
「待てフィン、ゼラスピアもどこにいるか分かんねぇんだぞ!」
「でもこのまま見過ごすなんて出来ないよ!」
制止を振り解き一人変わり果てた街の中へと駆け込む。
◇◇◇
倒壊した建物や投げ出され横たわる箪笥などの家具、それらが語るは恐怖の記憶、大きな穴が開いた壁、散乱する衣服や食器。
「酷い、ここまでなんて」
初めての害蟲駆除に同行したフィン、改めて感じる自然の摂理との対峙に、人間はなんて無力なのだと痛感する、すると微かに聞こえた母親を探している声、目を凝らし見渡した先に恐らく先程の母親の子供と思しき男の子がいた、だがその先にはあの蟲の姿も見える、意を決し走り出し間に割って入るとナイフを手に構えると男の子を見ながら。
「大丈夫だよ、お姉ちゃんが守ってあげるからね」
張り詰めた糸が音を立てているような、そんな雰囲気が漂う、それが切れた時先に動いたのはゼラスピアだった、脚を払うように突き出しフィンをいともたやすく弾く、手から滑り落ちるナイフ、悶絶し苦痛の表情を浮かべるフィンを嘲笑うかのように子供を執拗に狙う、何度も小突き転ぶ様を楽しんでいる様に見え、フィンは怒りが込み上げて来る。
「やめて、やめてよ! お母さん助けて!」
泣きながら母親に助けを求める子供、それを見て楽しんでいる害蟲、歯を食い縛りゆっくりと立ち上がると、その目はゼラスピアを睨み付け。
「その子から離れなさい、まだ続けるっていうなら本当に怒るよ」
覚束ない足で、それでもただ一点のみを睨み付けるフィン、それがどうしたとでも言うような素振りを見せ脚を伸ばした瞬間。
「お姉ちゃん!」
「もう許さない! スティンクー!」
マフラーから飛び出したスティンクは光に包まれ、そこから巨大な尾がゼラスピアを捉え数メートル後方へと吹き飛ばす、瓦礫に埋もれ身動きが取れなくなった所へ、更に成体へと覚醒したスティンクの巨大な前脚が押さえ付ける様に振り落とされる。
「何だあれ! あのデカいドラゴンは!」
「まさかフィン!」
脚の下で必死に抵抗するが、ゼラスピアよりも遥かに大きいスティンクの前では手も足も出ないようだ、すると口を開き白い煙のような物を吐き出し始める、それを受けたゼラスピアは徐々に体が消えていく、以前ユグドラシルで見せたあの光を口から出しているようだ、やがて完全に消え去るとスティンクもまた小さな体に戻った。
「疲れちゃった」
「お疲れ様スティンク、ありがとね」
またマフラーの中に戻ると寝息を立てる。
「おーい坊や、無事だったか!」
ルイズ達がこちらに駆け寄って来る、いつの間にか空は明るくなり始めていた。
◇◇◇
「お前さん達樹医師だったのか、通りで槍捌きが素人じゃないとは思っていたが」
街を後にし駅で会話をしているカラトとルイズ、その後ろでは列車から降ろされている物資や生活に必要な物を確認する協会の人間とダッツォ、今回は不測の事態が起きた為に保険金が下りた、だがもし加入していないハンターだったらと考えるとフィンはどこかやるせない気持ちになっていた、しかし怪我人は出たが死者は出なかったのが不幸中の幸いだ、ゴーラと呼ばれていた男も腕を折る程度の怪我で済んだという。
「樹医師なんざ碌な奴がいねぇと思っていたが――お前さん達に会って考えが少しだけ変わったよ」
「少しだけですか、まぁ少しでもいいか」
照れ笑いしながらカラトは手を伸ばすとルイズもまた口の端で笑い、固い握手を交わす。
「ありがとうございました、いい勉強になりました」
「おうよ、樹医師辞めたらいつでも俺んところに来な、二人なら大歓迎だ」
小さくなっていく馬車を駅から見送る二人、初めての駆除活動でフィンは駆除課に対しての認識を改めた、病気だけではない、こんなにも危険な仕事なのかと。
「さぁ次の街へ行こう、仕事は待ってちゃくれないからな」
「そうだね、困ってる人がいるかもしれないし――カラト」
「うん?」
「うーん、やっぱ何でもないや」
「何だよそれ、気になるなぁ」
「へへ、何でもないよ」
鉄の扉は閉まり二人を運ぶ、次の樹街を目指して。




