第四話(11)
シュナはじっと俺の衣装を観察して、その仕組みを読み解いていく。
「これはおそらく真逆のアプローチ――着用者の魔力を事前に取り出せない代わりに、無意識の方を表層 に引き出して外側を覆う他人の魔力に干渉させる形で同種の効果を生み出しているのだろう。よくもまあこんな手法を実現したものだ。しかるべき場で発表すれば一騒ぎ起こりかねん」
ああそういえば、と、思い出したようにシュナは付け足した。
「お前たちのダンスは概ね好評だった。どんな騒ぎになるかと思っていたが、お前にあんな教養があったとは知らなかったよ」
「え、ああ、……それは」
しどろもどろに答える俺の脇腹に、レナの肘が飛んでくる。
言うなって? そりゃ、言ったところで信じられはしないだろうけどさ。
「なにかあったのか?」
シュナの目が細められ、一段と鋭い輝きを放つ。彼女が何を気にしているかはすぐにわかった。
「いや、その件とは関係ない、と思う」
はっきりとは言い切れないけど、たぶん。
開場前に会ったコウの様子におかしいところはなかったし、進級試験のときのような嫌な感覚はしなかった。カイルの様子は――途中からそれどころじゃなくて見てなかったな。
もっと詳しく聞かせろ、とばかりにシュナが一歩踏み込んできた、そのとき。
「ちょっと、教官! 私の卒論ネタこんなところでバラさないでくださいよ!」
トレードマークの三つ編みをほどいて、ゆるくウェーブしたブラウンのくせ毛をアップスタイルにまとめてはいるが、俺が奴を見間違えるはずがない。
「げっ……」
逃げようとした俺の腕をすかさずレナが掴む。さすが、俺の性格をよく知っている。
おそるおそる首を回した先で、レナが天使の微笑を浮かべていた。お世話になった先輩から逃げるとは何事か、と言いたいのだろう。こいつは不愉快な時ほど綺麗に笑うのだ。俺もよく知っている。
ヒールを鳴らして駆け寄ってくる女生徒を見て、シュナは意外そうに声をかける。
「レベッカ=バートン。さすがのきみも今日ばかりは研究室から出てきたか」
「シュナ教官まで……皆さん口々におっしゃいますが……」
「ああいや、気を悪くしたならすまない」
苦笑まじりに謝罪するシュナに、ベッカは憤懣やるかたない、という様子で抗議した。
「だって最高に面白い検体のお披露目ですよ!? 引きこもっていられるわけないじゃないですか」
なぜだろう。副音声が聞こえる。
――しかも本音と建前、逆だろそれ!?