第四話(12)
「と、まあ冗談はさておき」
おどけた調子で肩をすくめたベッカは、反応が可愛いからついからかっちゃうんですね、とぺろりと舌を出して笑う。
ああそういやウィルの姉なんだっけ……普段はそうでもないけど、こういう絶妙にウザい表情はよく似てるな。神経を逆撫してくるというか。
「ノアくんは教官のお弟子さんでしたよね。こんな子どうやって隠してたんです? 異常な強度の魔封じはもとより、彼の身体組成ときたらまるで――」
「あー……なんだ、この場でその話はよさないか」
「こんな場だから誰も気にしちゃいませんよ」
「いや、ちがうんだ。ノアは」
「未分化の純粋な天人、ですよね!?」
食い気味に答えるベッカの声を聞いて、一瞬、自分の耳を疑った。
「は……?」
天人? 俺が?
しかもさっき魔封じとか言ってなかったか?
愕然とする俺を一瞥し、シュナが頭痛を堪えるような顔で眉間を抑えた。
おいなんだその表情。あんたなんか知ってんのかよ!?
いままでそんなこと一言も――いや待て、そういやこの鬼教官、初対面から訳知り顔で魔剣振り下ろしてきたような……。
師弟の様子をみて、ベッカは目を瞬かせた。
「あれ? 本人は知らされてなかった? まいっか」
よくねえよ、と突っ込む隙を与えず、ベッカは高速でまくしたてる。
「先祖返りと仮定するにしても驚きの純度で目を疑いましたよ。人間とエルフの混血児とも違う、精霊や竜とも似つかない、人間の形質が四分の一、エルフの形質が四分の一、残り半分は解析不能の未知の形質……悠久の時の中で失われたはずのものを未だ保持している奇跡! 私もう気づいた瞬間に感動しちゃって。こんな検体に出会えるなんて研究者冥利に尽きます。モデルとしても最高なのに一粒で二度美味しいどころの話じゃないですよ。興奮しすぎて見事に嫌われましたけど存分に観察できたので後悔はないですね」
やべえ、何言ってんのか全然わかんねーけど、とにかくやべえことだけは伝わってきた。
ベッカの瞳は好奇心丸出しで爛々と輝いており、その異様な圧力に身震いする。内容はすげえ気になるんだけど近寄りたくない。
シュナは深々とため息をつき、俺の隣で呆気にとられているレナに視線を投げた。
「レナ=フェイルズ、遮音を頼めるか」
「あ、はい……すでに周辺は抑えています、が、その」
「よくやった。私はその手の術式は不得手でな」
困惑しながらもやることはやっていたらしい。さすがレナ。できる幼馴染みは違う。
優秀な生徒に頷きを返したシュナは、続いてベッカの肩を叩く。
「レベッカ=バートン、わかっているな」
「はいはい視覚は私にお任せあれ。得意分野ですからね。――ちなみにフェイルズさん、噂通り見事な腕前だけど、彼の封印もあなたが?」




