25.殺戮少女
「そのガキを殺しなさい!」
貴族男が叫び、手下が武器をこちらに向けてジリジリと近づいてくる。
距離を詰めてくる敵を見て、ウルザが唇を吊り上げて凶暴そうに犬歯を剥き出しにする。可愛らしい顔立ちをしているが、やはり戦闘態勢に入ると立派な戦士の顔になっていた。
「ウルザ、まだ動くな。俺の背中を守れ」
「うー……お預けですの? 待ちきれませんの」
今にも敵に向けて走り出しそうなウルザに釘を刺す。不満そうな顔をしながらも、鬼の少女はしっかりと頷いた。
「アイテム……『闇精霊の魔導書』」
マジックバッグから取り出したのは筒状になった巻物。『成金の部屋」で回収したアイテムの1つである。
紐を解いて素早く広げると、巻物の中から青白い光を放つ無数の文字がこぼれ落ちる。文字は吸い込まれるように俺の頭の中へと流れ込み、巻物に封じ込まれていた魔法が脳に刻み込まれていく。
これは新しい魔法を修得するためのアイテムである。文字通りに闇の魔法を覚えるためのものだ。
俺は目の前の敵に手をかざして、修得したばかりの魔法を解き放った。
「闇属性範囲魔法──ブラッドカーペット!」
「なっ……ガアアアアアアアア!?」
「ひいっ!?」
前方で道をふさいでいた3人の暴漢、その足元から真っ赤な槍が現れた。剣山のごとく突き出してきた数十本の槍によって男達は串刺しになり真っ赤な血を全身から噴き出して絶命した。
ゲームではスプラッターな映像は省略されていたが……現実に目の当たりにすると恐ろしくむごたらしい。自分でやっておいて気持ち悪くなってくる。
「我ながら恐ろしい魔法だ。親父の使った拷問魔法といい、どうして闇魔法はこんなものばっかりなのかね」
「なっ……なななななななあああ!? わ、私の護衛達が……!?」
目の前で部下が惨殺されて貴族男が尻もちをつく。地面から噴き出した槍はギリギリのところで貴族男までは届いていなかったが、あと1メートル前に出ていたら巻き込まれて命を落としていたことだろう。
「さて……あとは後ろの連中だな。ウルザ、もう殺ってもいいぞ」
「待ってましたの! 皆殺しにしてやりますの!」
ウルザが鬼棍棒を掲げて駆け出した。
走り出した勢いのまま、後ろに立っていた男達に殴りかかる。
「へ……?」
「えい、ですの!」
ウルザは真ん中にいる男の顔面へ金棒を振り下ろした。棘の生えた金棒が容赦なく男の頭蓋骨を破壊して、夕闇に包まれた町にグシャリと湿った音が響く。
「ひっ……ぎゃあああああああっ!?」
「ち、ちくしょう! この化け物が!」
残った2人の暴漢。その一方は怯えて立ちすくんでしまったが、もう一方がウルザに剣で斬りかかっていく。
小さな身体めがけて剣が振り下ろされるが、ウルザはそれを左手だけでつかみ取る。
「なっ……は、離しやがれ!」
男が剣を引き抜こうとするが、まるで万力のように固定されたそれはビクともしない。恐怖と驚きに顔を引きつらせる男へとウルザは金棒を横に薙ぐ。
「てい、ですの!」
「がっ……!?」
男の腰が横から殴りつけられる。ゴキゴキと骨が砕ける音がして、男はうつぶせに倒れ込んでしまう。
どうやら背骨が折れてしまったらしい。地面に倒れて身動きが取れなくなった暴漢の頭部を、ウルザは躊躇うことなく踏み砕いた。
「これであと1人ですの」
「ひいいいいいいいっ! た、助けて! 許してくれ!」
「ダメですのー。ご主人様の敵はぶっ殺ですのー」
最後の男は命乞いをするも、ウルザは取り付く島もなく断言する。
「ご主人様は殺せと命令しましたの。だから、許すわけにはいきませんの」
「そんっ……」
「やあ、ですの!」
男が言い切る前に、ウルザは金棒を振る。まるでメジャーリーグのホームラン王のように豪快なスイングによって、男の首から上が千切れて飛んでいく。
宙を舞う頭部は近くにあった屋敷の庭へと落ちた。明日にでも住人が発見すれば、さぞや驚き慄くことだろう。
「へえ……やっぱり強いじゃないか」
やはり彼女はお買い得だ。1200万――俺が10回以上も周回して稼いだ金の半分を費やしただけの価値がある。
序盤――まだスキルの熟練度が低い状態でこれほどの強さを発揮しているのだ。ダンジョンで修業を積んで育ち切れば、勇者であるレオンとメインヒロイン3人にも匹敵しうる力を持つことだろう。
「ご主人様ー、やりましたのー!」
「ああ、よくやったな。頭を撫でてやろう」
「えへへへへ……気持ち良いですのー」
白髪の頭を撫でてやると、ウルザは頬を薔薇色に染めてはにかんだ。3人の人間を無残に虐殺したとは思えない、あどけなくも可愛らしい笑顔である。
俺は頭を撫でる手はそのままに視線を前方へと戻した。
「これでお友達はいなくなってしまったけど……さあ、これからどうしようか?」
「ヒッ……!」
最後に残されたのは貴族風の男だけ。
手下がやられているうちにさっさと逃げればよかったものを、間抜けなことに呆然と尻もちをついていた。
「お、お待ちください! 私を殺したら問題が大事になりますよ!?」
貴族男は両手をこちらに向けて命乞いの言葉を絞り出す。
「私はクーロン王国の貴族です! 私を殺せば、外交問題になりますよ!?」
「お前が俺を襲っている時点で外交問題だろ。最初に言ったよな、俺はこの国の貴族だって」
「それは……」
「どうせ死体を始末して、証拠を隠蔽すればわからないと思ったんだろ? 俺も同じ事をさせてもらうさ。オークションで負けた時点で大人しく引き下がれば良かったものを、藪をつついて蛇を出したようだな」
おまけに、現れたのは特大の毒蛇である。
もはや目の前の男に生きる道はない。ここで確実に始末してやろう。
「ん……?」
──と、そこで俺はふと違和感に気がついた。
先ほどからナチュラルに目の前の貴族男を殺害することを前提で話している。いや……それ以前に、すでに魔法で3人の人間を殺害していた。
日本での生活を含めて初めて人を殺してしまったというのに、自分でも驚くほどに心が冷えている。
全くと言っていいほど罪の意識を感じなかった。
「……身も心もゼノン・バスカヴィルになってしまったということか? それとも、最初からこういう奴だからゼノンになったのか?
俺がふとした疑問に考え込んでいると、貴族男が顔を引きつらせながら必死に命乞いの言葉を搾り出す。
「た、たすけっ、助けてください……! 金なら、金ならいくらでも出します、いくらでも……!」
「……生憎と金には困っていない。ウルザ」
「はいですの!」
ゴーサインを出すと、ウルザがぶんぶんと鬼棍棒を振りながら貴族男に近づいていく。
少女の形をした生ける凶器に、貴族男はいよいよ恐慌に襲われたらしい。這う這うの体で逃げ出そうとする。
「ヒイイイイイイイイイイイイッ!?」
「あ、待つですの!」
ウルザが追いすがり、貴族男に金棒を叩きつけようとする。1秒後には貴族男の身体はミンチになることだろう。
「あ?」
「あら、ですの?」
しかし、そこで予想外の事態が生じた。どこからか飛んできた金属の刃が貴族男の首に突き刺さったのである。
貴族男はバッタリと地面に倒れ、すぐに動かなくなってしまった。
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