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23.鬼の忠誠

「とても着心地の良い装備ですの。人間の国にはこんなに良い武器や防具があるですのね」


 ウルザが嬉しそうに声を弾ませながらピョンピョンと跳ねた。

 白い髪を振り乱してジャンプしているウルザの身体は、青地を基調としたシャツとスカート、レザーの軽鎧に包まれている。

 防御力よりも動きやすさを重視した装備はウルザにとても良く似合っており、微笑みを誘われるような愛らしさにあふれていた。

 そして――何よりも目を引くのは両手に握り締められた金棒である。

 黒鉄の太い棒には無数のトゲが生えており、これで殴り飛ばされれば頭蓋骨が粉々になってしまうであろう暴力性を放っていた。


「槌装備『鬼棍棒』――なるほど、似合っているじゃないか」


 俺は満足げに頷きながら、パチリと指を鳴らす。

 鬼棍棒はオーガやホブゴブリンなどの鬼系のモンスターからドロップする装備アイテムである。非常に攻撃力が高く、おまけに必要なスキル熟練度が低いため、シナリオ序盤でも装備することができるのだ。

『ダンブレ』のゲームでは【槌術】のスキルを持つキャラクターが少ないため、死蔵されていた逸品である。

 頭に乗っている2本の角も相まって、まるでウルザのためにあつらえたような武器である。


「嬉しいですの! ご主人様からのプレゼント、大切に使いますの!」


「そうか、気に入ってくれたのならば何よりだ」


「これがあればどんな敵とでも戦えますの。ご主人様のために心を込めてぶっ殺しますの!」


「だから怖いことを言うなって……鬼人族はみんな戦闘狂なのか?」


 ウルザは金棒をぬいぐるみのように両手で抱きしめている。トゲが刺さってかなり痛そうに見えるのだが……白髪の鬼っ娘はそんなことも気にせずギュウギュウと金棒にハグをしていた。


「えへへへへ……ご主人様、大好きですのー」


「……なあ、お前はどうして俺にそんなに懐いてるんだ?」


「え?」


「俺達は会ったばかりのはずだが。装備を与えただけで、そんなに好かれるようなことをした覚えはないぞ?」


 競売にかけられていたウルザの顔は悲哀と絶望に支配されており、今にも泣きそうに目を潤ませていた。

 しかし、俺に競り落とされてからというもの、ウルザは買ってもらえたのが嬉しくて仕方がないとばかりにはしゃいでいる。

 いったい、この短時間でどうしてここまで好感度が上がっているのだろうか。


「ウルザは面食いですの!」


「あ?」


「ご主人様がとってもカッコいいから、素敵な殿方のものになれて嬉しいですの!」


「カッコいいって……俺のことを言ってるのか?」


 ウルザの答えに怪訝に問い返す。

 確かにゼノン・バスカヴィルという男は顔だけ見れば、スラリと切れ味のあるイケメンに見えなくもない。

 だが、鋭すぎる目つきや鷹のような鼻はいかにも悪人面であり、近寄りがたい印象を与えるものである。

 実際、クラスの女子からはあからさまに敬遠されていた。友好的に微笑みかけただけなのに悲鳴を上げられたこともある。


「はいですの! 視線だけで相手を殺せそうな瞳。邪悪に尖った鼻。血肉を貪るがごとく鋭い牙が生えた口……全部全部、ウルザの理想の男性ですの! まるで伝説に登場する鬼神(アスラ)のようで、とっても素敵ですの!」


「……スゲエな。絶賛されているのに全く褒められている気がしない。喜んでいいんだよな?」


 はたして、ウルザの感性が特殊なのか。それとも、この悪人顔は鬼人族には美男子に見えるのか。

 女子から褒め称えられているというのにビックリするほど嬉しくない。

 例えるならば、日本では全然モテなかったのに、アフリカの奥地にある原住民の村ではモテモテになったような。とんでもなく複雑な気分である。


「会場で目が合ったときから、とても素敵な殿方だと一目惚れしましたの。そんなご主人様がウルザを買ってくれるなんて、これは運命としか思えませんの!」


「……………………そうか、よかったな」


 俺は考えることを放棄して首を振る。

 かなり釈然としない思いはあったのだが、ここで水を差す意味もない。

 どんな理由であったにせよ、これから仲間にする女性に好かれているのならいいではないか。怖がられ、嫌われるよりもはるかにマシだ。


「……別にいいんだ。嫌われるよりも好かれる方がいいはず。うん……切り替えていこう。着替えが終わったのならここを出るぞ。ついて来い」


「はいですの!」


 部屋から出て行く俺の後ろを、軽快に身体を弾ませたウルザがついてくる。

 オークション会場となっていた建物から出る途中、オークションの主であるレスポルドと出くわした。恰幅の良い奴隷商人は、俺の後ろを忠犬のようについてくるウルザを見て感心したようにアゴを撫でる。


「おやおや、短い時間に随分と懐いて……どうやら、若様は大旦那様と同じく、夜も強いようですなあ」


「……もう好きなように言ってろよ。勘違いを正すのも面倒臭くなってきた」


 俺は恰幅のいい奴隷商人を半眼で睨みつけて、さっさと建物から出ようとした。すると、背中にレスボルドが声を投げかけてくる。


「是非とも、またオークションにお越しくださいませ。良い奴隷を取り揃えてお待ちしております」


「…………」


 俺は振り返ることなく、ぞんざいに手を振って会場を後にしたのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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