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第18話 一悶着

 生徒会室を出た俺達は、一度教室に戻ることにした。


「昨日の今日ですぐに動いてくれた一之瀬先輩にはありがたいけど…………もう少し僕らと話し合ってくれてもいいよね」

「やはり忙しいんだろう。どんな仕事があるのかは分からないけど、やる事は多いはずだ」


 放課後、とはいってもまだまだ明るい時間帯である廊下を俺達は歩く。

 外からは、部活をやっている人達の元気な声が聞こえてきた。


「いいよなぁ。部活」

「…………そんなに部活が羨ましいの?」

「やったことないからね。憧れは強いよ」

「へえ…………」


 高校生らしいことをしてみたい。

 涼一には喫茶店で話したことだ。


「別に部活じゃなくて同好会でも良かったんじゃないの? やることは部活と一緒でしょ?」

「確かに同好会でも特に問題はないよ。涼一が言ったように本来の目的は除霊活動であり、創部はそれを円滑に進めるための理由に過ぎないからね」

「じゃあ何で断ったの? まさか本当に青春のため?」


 さて、ここはなんて答えるのが正解なんだろうか。

 涼一はきっと今、俺のことを試している。

 例えば、いくらでもそれっぽい理由を取り繕って、涼一の信頼を得ることは難しいことじゃないだろう。

 でも俺が目指してる青春の形はそうじゃない。

 誰かを騙して信頼を得るような、姑息なことをしてまで部活を作りたいとは思わない。


 だから俺は、涼一に対して嘘偽りなく、何度も口にしているであろう言葉を再び口にする。


「間違いなく青春のためさ!」

「元気に言い切った!? …………まぁそれはもういいよ。ところで代案ってどういうのなの? 僕も聞かされてないんだけど」


 俺の言うことが嘘でないと分かったのか、涼一はため息を一つついて話を変えてきた。


「それについてなんだが、現時点では涼一にも説明できないんだ」

「なんで? そんなに人に話せないやつなの?」


 俺はうーんと唸る。


 言わなくてもいずれはバレることだし、特にこれといった問題もないんだが…………。


「俺の案が通ると決まっているわけでもないからね、ぬか喜びはさせたくないのさ」

「でも内容ぐらい教えてくれてもいいんじゃない?」

「内容を聞いて不快に思う人がいる以上、あまり話したくはないんだ」

「ええ…………そんなにヤバいの?」


 不快は言い過ぎた気もするが……ちょっとしたコネを利用するから、学生としてはズルいやり方なんだよな。


 涼一はそれ以降、この話題に突っ込むことはしなくなった。

 あまり踏み込みすぎるのも良くないと思ったのかもしれない。

 そうこうしていると、自分達の教室に戻ってきており、教室に入ると、まだ数名残っているクラスメイトがいた。

 夏野陽介とよく一緒にいる黒岩、成瀬、宇多川、服部の4人だ。


「お、折井〜! なんだよやっぱりまだいるじゃねぇか」

「カバンがあったからそうじゃないかと思ったぜ」


 俺の姿に気付いた黒岩が、でかい体を机の上に乗せながら手を挙げた。


「どうしたんだ? 俺に何か用事でもあったのか?」

「ああ、これから遊びに行こうと思ってたんだけどよ、折井の席にカバンがあったから、もしかしたらまだいるんじゃないかと思ってな。どうせなら誘おうと思ったわけよ」


 女遊びが激しいと言われている成瀬が言った。

 四人共、前に一度街を案内してくれた人達だ。

 柔道をやっている黒岩以外は、どうやら部活には入っていないらしい。

 バスケ部に所属している陽介も、今日は部活があるのだろう、その場に姿はなかった。

 陽介を主軸にしてつるんでいるものだと思っていたが、彼らだけでも仲が良いようだ。


 うん、仲が良いのは良いことだ。


「どうしようか…………」


 正直なところ、この後はそのまま代案に移行する予定だった。

 時は金なりとも言うように、全ての行動は早く行ったほうが得である、というのは俺の持論だ。

 実際にまだ転校してから一週間経っていないのだが、かなりハイスピードで物事が進んでいる気がする。


 ん? そういえば涼一はどうするのだろう?

 見ると、涼一は最速のスピードで我関せずと自分のカバンをとって帰ろうとしていた。


「涼一。君はどうするんだ?」


 俺が聞くと、彼はビクッと体を震わせながら「僕は別に…………」と小さな声で言った。

 涼一が一緒に遊びに行くなら考えようと思っていたが、少々曖昧な答えが返ってきた。

 帰ろうとしていたところを見るに、涼一も何か用事があるのか?


「あーいいって折井。矢野は誘ってないから」


 …………今言ったのは黒岩か?

 この状況で誘ってないなんて、そんな馬鹿な。

 俺と涼一が一緒に教室に入ってきたのを見ていただろう?


 いや、確かに涼一と彼らが話しているところをこの一週間、見ていないな。

 そうすると単純にあまり仲が良くないだけで、俺の考えすぎなのかもしれないな。


「そーだよ。俺達が誘ってんのは折井。矢野みてーな陰キャはお呼びじゃねーよ」

「馬っ鹿、ストレートに言い過ぎだろ?」

「おっとこりゃ失礼。わりーな矢野。ちょっと本音が漏れちまった」

「ギャハハハハハハハ!」


 …………なんだこれは?

 仲が悪いなんて話じゃないぞ。

 何故彼らはこんなにも胸糞悪いことを平気で言えるんだ?

 同じクラスメイトじゃないか。


 涼一を見ると、彼は顔を俯かせながら足早に教室を出て行こうとしていた。


「涼一!」

「なんだよ帰っちゃったよ。今から誘おうと思ってたのに」

「嘘つけ」

「バレた? ギャハハハハハハハ!」


 …………なんて気分が悪いんだ。

 彼らが誰かを貶める様なことを言うような人達だとは思わなかった。

 もしかして、俺が来る前から涼一はイジメられていたのか?

 そんなことにも気付かないなんて、俺の目も落ちたものだな!


「そんで折井はどうするよ?」


 再び成瀬が聞いてくる。

 俺の答えは既に決まっていた。


「すまないが、今日のところは遠慮しておく。それと、誰かの悪口などは言わない方がいいと思うぜ。結局は自分も言われることになるからな」

「なんだよ折井。涼一の肩を持つのかよ」

「すぐに愚痴を言う奴はモテないって話だよ、成瀬」

「ええっマジかよ! 折井が言うと説得力があるから困る!」

「それじゃあ俺も失礼」


 俺は急いで涼一の後を追いかけた。


 本当は彼らをもっと叱責したいところだが、ここは高校で俺達は同じクラスだ。

 当然明日もここで会うことになる。

 それなのに早々に険悪な雰囲気を作ってしまうと、今後の活動に支障が出かねない。

 それにどうせなら、涼一と彼らの関係も良好になるように計らったほうが、全員のためになるはずだからね。


 とりあえず今は涼一のフォローが先決だ。


 廊下にはもう涼一の姿はなかった。

 すぐに階段で降りたのだろう。

 創部の代案に移行しようか迷っていたが、こうなった以上、明日にしたほうがよさそうだ。

 優先順位を間違えるな。

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