第19話 フォロー
アオタを置いて思わず飛び出してきてしまった…………。
最近の僕は、アオタと一緒に行動するようになったことで、周りの人達にも認められていると勘違いしていたみたいだ。
長船さん達とコミュニケーションがとれていたのは、自分の力なんじゃないかと過信して。
なんてことはない。
たぶんアオタがいたから話しかけてきてくれたんだ。
さっきも、なんとなく僕が誘われていないから抜け出そうとしたけど、まさかあそこまで嫌われているとは思わなかった。
いや、嫌われているというよりも、僕が調子に乗っていると思われてそうだ。
夏野君にも同じようなことをこの前言われたし…………。
…………………。
僕は何も変われていない。
アオタにも、土佐にも。
僕からきっかけを作ったわけじゃなくて、みんながきっかけをくれたんだ。
未だに僕は受け身のまま、何も変わってなんかいない。
僕は…………。
「涼一!」
「……………アオタ?」
僕が下駄箱で靴に履き替えようとしていると、アオタが僕の後を追ってきたのか、階段を下りて僕の元へとやってきた。
「アオタ…………黒岩君達と遊びに行くんじゃ…………?」
「涼一、これから喫茶店でお茶しないか?」
「え? 僕は全然いいけど……黒岩君達の方は……」
「俺のナンパにOKしてくれてありがとう!」
ナンパて!
そういうのは女の子にしてあげなよ!
…………って、僕のことを元気付けてくれてるのかな。
これも、アオタなりの優しさなんだろうね、きっと。
僕はアオタについて行き、この前に集まった喫茶店「天条珈琲」に入った。
中にはお客さんがまぁまぁいたが、運良くテーブル席が一つ空いていたので僕らは席に着いた。
恐らくこの時間帯だからこそ空いていたんだと思う。
お客さんの中にはチラホラと鷹山高校の生徒がいたが、恐らく目的は、可愛らしいウェイトレス姿で接客をしている「天条珈琲」の看板娘、天条美咲さんが目当ての人ばかりだろう。
「美咲ちゃーん! こっちにも注文お願いします!」
「こっちもおねがーい!」
「はーい! お待ちくださーい!」
次々と入る注文に嫌な顔せず、最高の笑顔を振りまきながら対応していく天条さん。
鷹山高校の生徒はが本当に注文したいのは、珈琲なのか彼女の笑顔なのか…………。
さすがに鷹山高校のアイドルと言われているだけあり、仕事をこなしているだけのはずのその姿は、まるで舞台で歌い踊っているようだ。
僕とは接点が一生ないような人物だ。
「凄いな。駅から近いってことで今回もここにしたけど、彼女はかなり人気があるんだね。確か同じ学校の天条さんだったかな?」
「うん。同学年で、学校のアイドルなんて呼ばれてるらしいよ。まだ入学してから1ヶ月しか経ってないんだけどね」
「へぇ。凄い有名人なんだな」
「まぁアオタも人のこと言えないけどね…………」
アオタに関して言えば、まだ転入してから一週間と経ってないのに学校のほとんどの人が知っているという状態だ。
何か問題を起こしたわけでもないのに、人から人への伝言ゲームで広まっていったらしい。
完全に異常です。
僕なんてこの前まで存在してたかどうかも疑われてたらしいからね、土佐に聞いたけど。
「涼一は頼む物、決まったかい?」
「あ、うん大丈夫」
「よし。すいませーん」
「伺いまーす!」
天条さんがパタパタと走りながら僕らのテーブル席にやってきた。
「注文お伺いしまーす…………って、あれ? 折井碧太君だよね?」
天条さんがアオタの顔を見るや否や、キョトンと聞いてきた。
「ええ。俺のことをご存知で?」
「もちろん! 私のクラスでも折井君のことはよく聞くもん! 私のお店に来てくれるなんて嬉しいなぁ。」
「知って貰えてて嬉しいよ。俺も天条さんの噂はかねがね聞いてるから、おあいこだね。よろしく」
「わぁ! ありがとう! これからよろしくね!」
さすがアオタさん。
学校のアイドルの耳にもはいってるなんて!
しかもさすがのコミュ力!
僕だったらアワアワしてること待った無しだよ!
「それとこっちの人……矢野涼一くんだよね! 矢野君もよろしくね!」
「!!!!!」
あわわわわわわわわわわ!
なんで!?
なんで僕の名前も知ってるの!?
「あの、えと、なんで…………僕の名前」
「え? ああ、矢野君も最近結構話聞くよ! 折井君と一緒にいるカッコいい人だって!」
カッコいい!
学校のアイドルが、僕に、カッコいいって!
間違いなくお世辞なんだろうけど、気分が舞い上がりすぎて大気圏突破しそう!
「あ、あああ、ありが……」
「それじゃあゆっくりしていってね!」
僕が一人でテンパっていると、天条さんは満面の笑みを見せ、サッと戻っていってしまった。
「なんだ、涼一も有名じゃないか」
アオタがニヤリと笑った。
僕の頭は、何が何だか分かっていなかった。
ついさっきまで陰キャと呼ばれた僕のことを、学園ヒエラルキーのトップに君臨しているであろう天条美咲さんが知っていたという事実。
まるで天にも登るような気分だ!
別にアオタのバーターだろうが何でもいいや!
と、僕が今年の運を使い切ったかもしれないと思っていると、周りから、親を殺された仇を見ているような視線に気付いた。
見ると、店内にいた男性客のほとんどが僕の方を憎々しげに見て、フォークを宙に突き立てていた。
それはケーキを刺すものです。
決して僕を刺すものじゃありません。
あっ! ちょっと舌打ちとかやめてよ怖いから!
「元気、出たみたいだな」
そりゃまぁ出たけどさ……また恨みを買ったような気もするんだけど…………。
「ああ、ちなみに彼女……いや、やっぱやめとこう。今言うことでもないしね」
「? なにさ、最後まで言ってよ気になるじゃん」
「いずれ分かることだからいいよ」
なんだろう。
気になる。
アオタが何かを秘密にするのも、今に始まったことじゃないから別にいいんだけどさ。
「それでだ涼一、すまなかった」
唐突に謝られた僕はポカンと口を開けてアホ顔を晒した。
なんのことについて謝られているのかさっぱり分からなかった。
「なんで謝るの?」
「さっきの教室でのことだよ。俺がもう少し早く成瀬達が涼一を誘う気がないと気付いて返事していれば、涼一に嫌な思いをさせずにすんだのに」
それはさすがに……アオタのせいではないでしょ。
あそこまで言われて、何も言い返せない僕の方にも問題がある。
「そもそも僕が良好な人間関係を築けていなかったことが問題なんだから、アオタのせいじゃないよ」
「それは心霊現象のせいで築けなかったんだろ? 涼一のせいじゃない」
「心霊現象抜きにしても、僕は元々人付き合いが苦手なんだ。少なからずこうなってたよ」
毎回アオタの言葉に助けられていた僕も、さすがにここは引けなかった。
僕自身の問題を誰かのせいにしてしまえば、今後も僕は嫌なことを誰かのせいにしてしまいそうだからだ。
「そっか……。俺が思ってるよりも涼一は強いな。悪い、余計なお世話をしてしまって」
「ううん。アオタが僕のためにフォローしてくれてるのは分かってるから」
アオタは本当に面倒見がいい。
良すぎるくらいだ。
だからこそ僕もアオタの助けになりたい。
彼が同好会ではなく部活を作りたいと言うのなら、必ず実現させよう。
それが僕の恩返しだ。
その後、僕らは今後の活動について珈琲を飲みながら語り合った。




