王子発見!
そこのあなた、閲覧注意ですよ・・・
街角に何の祭りかと思うほどにポップでカラフルな文字が書かれた看板が立てられている。
『この募金でおなかをすかせた たくさんの子供たちが救われまーす』
看板にはトーストやおにぎりといった食べ物がこれまたかわいらしいイラストで描かれており見るからに手描き品質であることを物語っていた。
「募金お願いしまーす」
「恵まれない子供に愛の手をー」
その横に並んで立っているセーラー服の五人組は、それぞれのメッセージが書かれた募金箱をひとつずつ抱えていた。
この日は朝からの身の凍るような風が止まず、少女たちの赤い鼻と耳は情に訴えるには最適なアイテムとなっていた。
一人の男が財布を出しながら近付いていく。数分前までスカートからのぞく鳥肌の立った足をニヤついた顔で眺めていた男だ。
「おじょうちゃんたち偉いねぇ。君たちのかわいさに、おじさん募金しちゃうっ」
酔っぱらいのようなセリフと共に五人の箱に平等な額を入れる。
「わあっ、ありがとうございますっ!」
「ありがとうございます!」
「ご協力感謝します」
間近でセーラー服を堪能した男はニヤついた顔をさらに緩ませながら名残惜しそうに去っていった。
「募金ご協力お願いしまーす!」
「あなたの優しさで誰かの命を救うことができるんでーす!」
「どうか……!」
「ねぇ、君たち……」
少し低く透き通った声が少女たちの言葉を遮った。
そろって振り返ると看板の前に、かなり高そうなスーツで身を包んだ凛々しい青年が満点の微笑みを浮かべて立っている。
五人とも反射的に赤面で絶句してしまった。
青年がまた口を開く。
「ねぇ、一体いくらあればその命ってやつを救えるのかな?」
想定外の質問だったが瞬時に対応できる子というのはどこにでもいるものである。三つ編みの子が口を開いた。
「いくらでもいいんです。十円でも一円でも。募金はその人の気持ちですから」
その答えに青年は眉をしかめ眼鏡の位置を直した。
「それはまたおかしな話だね……まぁいい。今は持ち合わせがこれしかないからっと。まさかカードをもらっても困るだろうからね」
微笑みを浮かべたまま出した金額は……もちろん折り畳んでも募金箱に入るわけはなく中学生にとっては人生初とも言える札束の重みだった。受け取った少女はあまりのことに固まってしまい、ほかのメンバーもどうしてよいのかわからず挙動不審になっている。
「で、でもっ! ダメです! こんな大きなお金は受け取れな……」
先生に言われたことを思い出した生徒の震える唇は青年の人差し指により封じられてしまった。
「いいんだよ。誰かの命が救えるんだろ? そのために君たちはここに立っているんだろ? 違うのかい? わかったら今日はもう冷えるからそれを持って帰りなさい。それじゃ」
少女漫画から抜け出してきたような恥ずかしい青年は言い終わるなりさっさと歩いて人ごみに消えた。その後ろをたくましい二人組が足早に追いかけていく。
「うそでしょー……」
信じられない量の札束に少女たちは腰を抜かしてしまった。
一人の子が携帯を取り出す。
「せんせー、今すぐ迎えに……いやあの……そうじゃなくて、とにかく今すぐ……お願いだから……」
まだ人生経験の少ない五人の少女は寒さも忘れて、ただお互いの顔と札束を見比べることしかできなかった。
同時刻、風が吹きすさぶ鉄塔の上。白と黒の服をまとった三人組が遥か下に広がる景色を見つめていた。
よく冷えた骨組みに座っている一人は空に投げ出した足を楽しそうに揺らしている。首に巻かれた白いスカーフがこれでもかと言わんばかりになびき、肩で留められた膝までの真っ黒なマントは必然的にお尻の下に敷かれていた。
「ひょー、またひとり見つけたよーん。楽勝じゃーん。今度は誰が行く? 優男って感じだからシーナが行きたいんじゃん? 言わなくてもわかると思うけど俺様は却下ー」
そのすぐ横に立っていたシーナは、すかさず反論する。
「私だって嫌よ。あんなの好みじゃないもん。男なら何でもいいってわけじゃな・い・のっ!」
シーナは容赦なく吹き付ける風のせいで滅茶苦茶になっているゆるいウェーブの髪をおさえながら口を尖らせた。
その後ろで頬笑みながら二人のやり取りを聞いていた一人が顔を赤らめながら口を開いた。
「ちょっとちょっと二人とも、レインさんアレもんのすごく好み……どストライク。っていうか何か運命的な物感じるよ! 彼にはレインさんが行くから! それじゃ!」
言うが早いか長身を翻して一直線に地上へ突っ込んで行った。残された二人が見送る中、三人の中で一番長い髪とコートをはためかせ見る間に街の影に溶け込んでいく。
座ったままのジャックが鼻で笑った。
「なんだよー。やっぱりレインが行くんじゃーん。ほんっと好きなんだな。あ・あ・い・う・の」
ジャックはレインが見えなくなったのを確認してから口を開いたが本人の耳に届いていることは承知の上だった。
その横で、つま先を浮かせてバランスをとりながら立っていたシーナがゆっくりと腰を下ろし膝を抱える。
「レインだって十二分に美形だっていうのにねー。私あのギャップには何千年経っても慣れない気がするわー」
「あぁ、ほんっと言えてる」
ジャックはそう答えてから、次の獲物を探すため目を右に左に忙しく動かした。
まだ日が高い時間だが空は重く暗い雲が太陽を完全に隠してしまっている。人が登るにはあまりに高すぎるこの場所では刺さるような風は地上より強い。おまけにその風の中にちらほらと白いものが混じり出した。
「ちょっとやーだーコートが濡れちゃうー。地面もドロドロで靴が汚れちゃうし、私もう帰ろっかな。私、帰ってシュークリーム食べるから後は全部ジャックが行って。じゃーあねー……」
飛び降りようと身を乗り出したシーナのコートが即座に鷲掴みにされた。
「その冗談笑えないって感じじゃね? 今日のノルマどれだけ残ってるかわかってて言ってるわーけー?」
眉間にしわを寄せているジャックの引きつった笑顔。
「えへっ。ほんの二十五人、だよっ!」
シーナは最近漫画で覚えたリアクションを早速試すべく舌を出しながら両手の人差し指をほっぺたに当てて首を傾けた。
「なーにが、えへっ、だ。ふざけんじゃねーっての。今どきそんなんやってるやついねーぞ。お茶目に言ったって騙されねーからな! 俺様一人でそんなに……」
「あれー? 男は今ので何でも言うこと聞くはずなのに……って、だーいじょうぶ。レインがさっきの片付けたらすぐに戻ってくるでしょー?」
それを聞いて明らかにシーナをバカにした顔でため息をつく。
「あのなー、すぐ戻ってくるわけないだろ。レインが、どストライクって言ったんだぜー? っていうか下手すりゃ今日はこのまま戻ってこないって。だから単純に計算しても俺様とシーナで十二人以上ってことになんだよっ!」
「ジャックのケーチー。わかったわよ。さっさと終わらせて帰りましょ。ほら、そうと決まったらさっさと探して」
ジャックがシーナを睨みつけた。
「俺の目にばっか頼ってねーでシーナも探す努力しろっつーの!」
「はいはーい」
シーナは軽いジャンプでジャックの背中側の鉄骨に飛び移った。風上を向くことになっておでこが全開になってしまっている。いつもなら気にするところだがよっぽど早く帰りたいのか黙って瞳を見開いた。
相変わらず座ったままのジャックも“三人の中で一番、目がいい”ということを返上することがないようにギラギラと目を動かした。




