第一話 おじいちゃん、異世界に飛ばされる
私は、主人公の大島俊文です。
今年で七十二歳。
大島書店を営んでいます。
……あっ、また来やがった。
――大島書店の前。
三人の高校生が並んで歩き、大島書店の前で足を止めた。
一人がぽつり。
「なあ、漫画買わね」
別の一人が答えた。
「そうだな」
三人は書店の中に入った。
新刊の棚へ向かう。
「新刊出てんの?」
「ああ、出てる」
別の一人が頷く。
「じゃ、買うか」
一人が漫画を手に取り、三人はレジへ向かった。
私は、少し背筋を伸ばした。
「いらっしゃいませ」
一人がレジ台の上に漫画を置く。
――乱暴な置き方だ。
「おじいちゃん、これ」
「はい、かしこまりました」
漫画の裏表紙にあるバーコードを読み取り、レジの画面を見た。
「えー。千三百三十二円になります」
千円札が二枚置かれた。
私は急いで二千円を受け取り、レジに打ち込んだ。
釣り銭を取り出そうとした、そのとき。
「あっ、小銭あるけど……」
また、これ。
別の一人が横から。
「もう、いいじゃん。おじいちゃん、どうも」
私は釣り銭を渡した。
三人が離れていく。
「ありがとうございました」
三人は出口へ向かいながら、小声で話し始めた。
「あの、おじいちゃん、対応遅くね」
「仕方ねーじゃん、おじいちゃんなんだし」
「……けど、小銭出す前に、札取るし」
「歳取ったら、ああなるんだよ、お前も」
私は心の中で怒り狂った。
おじいちゃんって何回、言うんだ、あのガキども!!
あの三人が店に来るたび、私を『おじいちゃん』と呼んだ回数。
累計三百二回!!
『あの、おじいちゃん、対応遅くね』に対して、『仕方ねーじゃん、おじいちゃんなんだし』
その『おじいちゃん』に『おじいちゃん』で返す変な会話術を使うな!
会話の中に無理に『おじいちゃん』を入れたいだけじゃないのか。
しかも、最後の言葉。
『歳取ったら、ああなるんだよ、お前も』
私がどうなったと言うんだ?
答えろ!!!
お前らの話のほうが、矛盾してないか?
いつも対応が遅いと言いやがる。
だから急いでやったら――。
小銭を出す前に札を取ったことまで、
文句を言う!
――私を侮辱しに来たとしか思えん!!!
夕方、店を閉め、古い友人の家へ向かった。
一人でゆっくりと歩いていた。
空を見た。
雲はゆっくりと流れている。
ところが、風は右からも左からも吹きつけてくる。
――何だ、この風は。
私は友人の家へ行くのをやめ、引き返した。
だが、その途中で――
突然、視界が真っ暗になった。
次の瞬間、周囲の音が消えた。
足元が浮く。
「おい、何だ、これは!」
竜巻なのか、いや、違う。
こんな現象は見たことがない。
ただ、恐ろしい……。
私の意識は、そこで途切れた。
目を開けた時、
静かだった。
異様なほどに。
風もなく、
虫の声も聞こえない。
目の前には、見知らぬ木々が立ち並んでいた。
ただ、木の匂いがした。
手のひらには、湿った土の感触があった。
「ここは、どこですか?」




