初めての「合体(フュージョン)」
泥のような亡者の群れ――「魂喰らい」が、ボクの持つ『器』の輝きを求めて、飢えた咆哮と共に迫りくる。
「坊ちゃま、イメージを固定なさいませ。二人の魂を、一つの真理へと!」
バルトの鋭い声。
ボクは右手の二つの紋章を、意識の底で力技で重ね合わせた。
その瞬間、視界が白く染まり、脳内に直接「誰かの情報」が濁流となって流れ込んできた。
(……あ、ぐ……っ、何、これ……!?)
それは、ボク自身の体が作り替わっていく設計図のような感覚だった。
今まで「0」だったはずの場所に、ハンスの剛力とリリの疾風が強引に流し込まれていくのが、数字の羅列となって網膜に焼き付く。
【魂の同調:開始……成功】
ボクの細い腕が、霊体の装甲で太く逞しく書き換えられていく。
本来ならあり得ない**「筋力:85」「敏捷:110」**という、大人の一流騎士さえ凌駕する数値が全身を突き抜けた。
本来「無才」だったはずの回路に、二人の霊力が燃料として注ぎ込まれ、ボクの意識を加速させる。
【現在の武装:重装弩・ハンス&リリ零式】
右手に現れたのは、ハンスの大剣を銃身とし、リリの銀弓を弦とした異形の兵器。
ボクは引き金を引き――「放てッ!」
ドォォォォォンッ!
放たれたのは、大剣の「重圧」を纏った空気の弾丸。
それは亡者たちを一瞬で塵に帰し、背後の森を円形に薙ぎ払った。
「すごい……これが、ボクの……」
近づこうとする残党には、先端の銃剣を振るう。
ハンスの重い一撃に、リリの速さが加わったその一閃は、亡者たちの魂ごと空間を断ち切った。
最後の一匹が霧となって消えると、右手の重厚な感触が霧散した。
途端に、全身の血管が焼き切れるような倦怠感が襲い、ボクは泥の中に膝をつく。
「……はぁ、はぁ……。今、の……」
強制的な強化が解け、視界の隅で数字が急速に巻き戻っていく。
「筋力:12」「敏捷:8」。
冷酷なまでに「元通り」になった自分。それどころか、魔法も魔力もないはずのボクの体力が、底を突いたことを告げるように視界が点滅している。
そして何より――。
【契約霊体:摩耗を確認】
・ハンス:85%(-7%)
・リリ:90%(-8%)
頭の中に浮かぶその数値が、さっきの万能感への「請求書」のように突きつけられた。
ハンスさんの紋章が少し霞み、リリの紋章も、さっきまでの輝きを失って透けている。
「……減ってる。ハンスさんも、リリも……」
戦うたびに、ボクを認めてくれた彼らの命を削っている。
その残酷な事実が、勝利の喜びを塗りつぶしていった。
『……ふん、情けない顔すんなよ、小僧。俺たちは、お前のために削られることを選んだんだ』
『そ、そうよ! べ、別にあんたのために減ったわけじゃないんだからね! 次までに、もっと燃費のいい体になりなさいよね!』
脳内の声は、どこか遠い。
ボクは唇を噛み締め、立ち上がった。
「……もっと、強くならなきゃ。二人が消えなくても済むくらい、大きな『聖杯』に……」




