獣人の忠誠と「影の軍団」
暗殺者たちが灰となって消えた後、残された獣人の民たちは、広場に跪き、震えていた。
彼らは、アヴァンが振るった「死」の力を間近で見たのだ。
「……アヴァン様。我ら一族を、道具としてではなく救ってくださったこと、魂に刻みました」
盾にされていた子供の父親であろう、傷だらけの狼獣人の男が、アヴァンの足元に額を擦り付けた。
「どうか、我らをお側に置いてください。戦う力は奪われましたが……あなたの影となり、牙となることを誓います」
アヴァンが返事をする前に、右手の紋章からリリが実体化した。
実体化したリリは、そのセクシーな狩装束のまま、鋭い眼光で同族の獣人たちを見下ろす。
『……ふん、牙となるですって? 笑わせないで。あんな隠密に捕まるような鈍臭い鼻で、アヴァンの役に立てると思ってるの?』
リリの厳しい言葉に、獣人たちは首を垂れる。
『でも……まぁ、この村に足りないのは「生きた者の目」よ。……アヴァン、いいでしょ? こいつら、ボクが徹底的に鍛え直してあげる。公爵家の連中が二度とこの村を嗅ぎまわれないようにね』
「リリ……。うん、お願い。みんな、この村を一緒に守ってくれるなら、ボクは歓迎するよ」
アヴァンが微笑んで手を差し出すと、獣人たちの絶望していた瞳に、初めて「忠誠」の灯火が宿った。
数日後、廃村の様子は一変していた。
ハンスが土木工事の指揮を執り、リリが獣人の若者たちを森へ連れ出しては、必殺の狩猟術を叩き込む。
そんな中、アヴァンはふとした疑問をバルトに投げかけた。
「ねぇ、バルト。さっき『もうすぐ兄様たちが来る』って言ってたけど……どうしてそんなことがわかるの? ここは隔離された廃村なのに」
バルトは音もなく眼鏡の位置を直し、窓の外を指差した。
「坊ちゃま、あそこをご覧なさい。一見、ただの枯れ木に止まった鳥のように見えますが……」
そこには、昨晩の戦いでアヴァンが使役し、今は自由を許したはずの「下級霊体」たちがいた。
「この地はアグニール公爵家の領地。彼ら霊体は風に乗り、隣接する騎士団の駐屯地まで自由に行き来できます。かつて公爵家に長年仕え、彼らの通信手段や思考パターンを熟知している私であれば、霊体が運んでくる『兵士たちの噂話』や『不自然な鳥の動き』を繋ぎ合わせるだけで、次兄閣下の思惑を読み解くのは造作もないことにございます」
「霊体を使った情報網……。ハンスさんやリリだけじゃなくて、名もない彼らもボクの目になってくれてるんだね」
「左様。次兄カイル閣下は、あなたの生存と隠密部隊の壊滅を、隣国の工作員の仕業――あるいは、あなたが禁忌の『魔導』を呼び寄せた不浄の事態と断定したようです。プライドの高い彼らにとって、無能のアヴァン様が自力で暗殺者を返り討ちにするなど、想像の範疇にないのでしょう」
「……ボクを見下していることが、逆にボクたちを守る盾になるんだ」
バルトは満足げに頷き、次兄カイルが率いる正規軍の襲来を告げた。
「名目は『反逆者の討伐』。数日後には、公爵家が誇る重装歩兵団が、この村を包囲するでしょう」
『……重装歩兵か。俺のいた頃よりも、鎧の質は上がってるだろうな』
脳内でハンスが、闘志に満ちた唸り声を上げる。
「迎え撃とう、みんなで。……今度は、ボクが彼らを『ゴミ捨て場』から追い出す番だ」




