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だるまさんが転んだ――誰が残れるのか  作者: マーたん


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1/6

第1話



前書き


この物語に、

明確なルールはありません。


原因も、正解も、救いも、

ここには書かれていません。


ただ、日本のどこかで、

誰かが聞いてしまった

――それだけの話です。


「だるまさんが転んだ」


子どもの頃、

意味もなく立ち止まったあの感覚を、

もし今でも覚えているなら。


この先を読むとき、

少しだけ、足元に気をつけてください。

だるまさんが転んだ――誰が残れるのか



「だるまさんが転んだ」


その声を聞いた瞬間、俺たちは一斉に息を殺した。


誰も動いていない。

少なくとも、そう“信じていた”。


振り向いた鬼の顔は、最初からこちらを見ていたような気がした。


次の瞬間、右隣にいたはずの女がいなくなっていた。


驚きの声を上げた者から、順番に消えていく。


俺は悟った。

この遊びでは、「恐怖すら動きに数えられる」






第1話


だるまさんが転んだ


 最初は、ただの事故だと思った。


 仕事帰り、駅から家までの近道にある小さな公園を横切ったときだ。ブランコの軋む音と、子どもたちの声が聞こえた。鬼ごっこか、かくれんぼか、その程度のありふれた夕方だった。


 その中に、ひとつだけ、妙に輪郭のはっきりした声が混じった。


「だるまさんが転んだ」


 反射的に足が止まった。

 理由はない。ただ、そうするものだと体が覚えていた。


 次の瞬間、空気が裏返った。


 音が来た。破裂音でも爆音でもない。内側から押し広げられるような、短く、乾いた衝撃。視界が白くなり、思わず目を閉じた。


 だが、熱はなかった。

 風も、火も、飛び散る何かもない。


 目を開けると、公園はそこにあった。滑り台も、ブランコも、砂場も、何ひとつ壊れていない。ただ――人だけがいなかった。


 さっきまで遊んでいたはずの子どもたちも、見守っていたであろう大人も、声も、気配も、きれいに消えていた。


 まるで、最初から存在しなかったみたいに。


 俺は一歩、前に出ようとして、やめた。


 理由はわからない。

 足が重いわけでも、恐怖で固まったわけでもない。ただ、「今は動くべきじゃない」と、どこかで誰かに言われた気がした。


 数秒後、スマートフォンが震えた。緊急速報ではない。ニュースアプリの通知だった。


《○○市の公園で原因不明の爆発 けが人不明》


 爆発。

 その言葉だけが、場違いに浮いて見えた。


 家に帰ってテレビをつけると、同じ映像が流れていた。上空から撮られた公園。焦げ跡も瓦礫もない、きれいな円形の地面。アナウンサーは「詳細は確認中です」を繰り返している。


 インタビューに答える通行人の声が、耳に残った。


「……子どもたちが遊んでて。

 急に、あの……遊びの声がして」


 記者が聞き返す。


「遊び、とは?」


 一瞬の沈黙。

 通行人は困ったように笑ってから、こう言った。


「だるまさんが転んだ、です」


 その夜、眠れなかった。


 目を閉じると、あの声が聞こえる気がしたからだ。

 音量も、方向も定まらない。ただ、世界のどこかで、今も誰かが言っている気がする。


 だるまさんが転んだ。


 翌朝、ニュースは全国に広がっていた。

 同じような「爆発」が、同じように、いくつも起きている。


 共通点は、まだ誰も口にしていない。

 けれど、俺はもう知っていた。


 あれは事故じゃない。

 災害でも、テロでもない。


 あれは――

 始まっただけだ。



後書き


ここまで読んで、

「なぜそうなったのか」を

知りたくなったかもしれません。


けれど、

この物語は答えを出しません。


止まったから助かったのか。

動いたから消えたのか。

そもそも、

誰かが見ていたのか。


それは、

あなたが決めることではありません。


この遊びは、

理解した瞬間に終わります。


だからもし、

ページを閉じたあと、

少しだけ周囲が静かに感じたなら。


それは、

物語のせいではなく――

あなたが、

ちゃんと止まれているだけです。

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