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だるまさんが転んだ――誰が残れるのか  作者: マーたん


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2/7

第2話


⸻


前書き


――だるまさんが転んだ


この物語には、

助けてくれる人は出てきません。


誰かが手を差し伸べることも、

正しい行動が示されることも、

ありません。


あるのは、

聞こえてしまった声と、

止まるしかなくなった人間だけです。


「だるまさんが転んだ」


その言葉を、

もし読んでいる途中で思い出したなら。

それは偶然ではありません。


⸻


前回のあらすじ


仕事帰り、住宅街の小さな公園で起きた原因不明の爆発。

火も煙も残らず、人だけが消えたその瞬間、現場にはひとつの声が響いていた。

――「だるまさんが転んだ」。


事故でも災害でも説明できない出来事は、全国で同時に起こり始める。

共通しているのは、爆発の直前にその言葉を聞いた者がいること、

そして、生き残った者は皆「止まっていた」こと。


それは、始まりにすぎなかった。


⸻


第2話


止まった人間


コンビニは、いつも通り明るかった。


白い蛍光灯。

電子音。

棚に並ぶ、変わり映えのしない商品。


世界が壊れ始めているなんて、そんな気配はどこにもない。


俺は弁当を手に取り、レジに並んだ。

前には三人。背中を丸めた老人と、スマートフォンを操作する会社員、そして――カウンターの前で立ち尽くしている若い男。


誰も、動いていない。


会計が詰まっているのだと思った。

だが、店員も声をかけない。手を伸ばしたまま、止まっている。


そのときだった。


「だるまさんが――」


声は、途中で途切れた。

スピーカーから流れたのか、誰かの口からこぼれたのかはわからない。

だが、その場にいた全員が、同時に理解した。


――止まれ。


俺は息を止めた。

視界の端で、会社員の親指が、ほんのわずかに動くのが見えた。


次の瞬間、音が消えた。


爆発ではなかった。

衝撃も、風圧もない。


ただ、空間が一瞬、抜け落ちた。


会社員が立っていた場所だけが、きれいに空白になっていた。

床も棚も壊れていない。

人だけが、最初からいなかったように消えている。


誰かが声を上げかけて、やめた。

悲鳴も、呼吸も、危険に思えたからだ。


数秒後、店内に音が戻る。

冷蔵庫の低い唸り。

外を走る車の音。


店員が、何事もなかったように言った。


「……次のお客様」


老人が、ゆっくりと一歩前に出た。

その動きが許されるのかどうか、誰にもわからなかった。


許された。


俺は弁当を置けなかった。

手を伸ばすという行為そのものが、命取りに思えた。


結局、何も買わずに店を出た。


外は夕方で、人通りが少ない。

いや、少ないのではない。

みんな、歩いていないのだ。


止まりながら、少しずつ位置を変えている。

走る人間はいなかった。


スマートフォンを見ると、速報がいくつも重なっていた。


《全国で原因不明の消失現象》

《専門家「動作との関連は確認中」》

《冷静な行動を》


冷静、とは何だ。


止まることか。

考えないことか。


信号が青に変わっても、誰も渡らなかった。

横断歩道の真ん中で止まることが、正解なのか不正解なのか、誰にも判断できなかったからだ。


俺は、足を上げかけて、やめた。


頭の奥で、あの声がする。


だるまさんが転んだ。


それはもう、遊びの声じゃない。

命令でも、警告でもない。


ただの――

確認だった。


⸻


後書き


――誰が助けて


読み終えたあと、

胸の奥に残った言葉があるなら、

それはきっと、これです。


誰が助けて。


けれど、この物語の中で、

その問いに答えが返ってきたことは

一度もありません。


助けを呼ぶことも、

振り向くことも、

ここでは「動き」だからです。


「だるまさんが転んだ」


もし今、

あなたの周りが少し静かに感じるなら。

それは世界が変わったのではなく、

あなたが、

止まっているだけなのかもしれません。

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