~幕間~ イルメリア旅行記 【4/4コミカライズ開始】
これは、ローリの生国イルメリアへの挨拶?旅行のお話です。
「ローリ、気をつけていってくるんじゃぞ」
「ローリ様、何事も無理をしてはいけませんよ」
「はい、おじいさま、メリンダさん。行ってきますね」
私は心配そうな顔で見送ってくれる二人に笑顔で挨拶をしてタビーに乗った。
「おぬしら、ローリを頼んだぞ」
「フヒヒン!」
「じいさま、任せとけって」
「そうそう」
向かえ来てくれたいつもの二人の騎士様も、いいながら馬にまたがる。
「参る!」
いつもの掛け声で、私たち三人はおじいさまの家を出発した。
ノルド様とヴォイドさん曰くの、「結婚の挨拶」でイルメリアに行くのだ。
実家の家族に会いたいとは思わないけれど、またノルド様たちと旅に出られるのは楽しみで私はウキウキとしていた。
街中をゆっくりとすすみ、街門を出る。
「あれ……?」
いいながら、私は辺りを見回した。遠乗りなどに行くときには、ノルド様はいつもここで待っていてくれるのだけれど今日は誰もいなくて。
「主は以前遠乗りに行ったあの丘陵で待機されています」
「そうそう、今日は人数が多いですからね」
「あ、なるほど。あの丘陵ですね」
そう答える私の声は、だんだんと小さくなってしまう。
あの丘陵のことを思い出すと、今だって恥ずかしくてすぐに穴に埋まってしまいたくなる……。
あの時も同行してくれた二人が、あれを見ていたはずの二人が、妙にニヤニヤして見えるのは気のせいだろうか。
──ダメ、ダメ。こういう時こそ淑女の微笑み、平常心!
故国の家庭教師の先生の教えを心の中で唱えてみる。お妃教育を活用しなければ!
気取られないように、私は小さく深呼吸をした。
やがて、目指す丘陵が見えてくる。街道沿いの一角に私は目を奪われた。
「うわあ……」
以前、おじいさまの家で見かけたマクラウド商会の商隊もかくや、という一団だった。以前、湖から街まで一緒に旅をした近衛の皆さんは騎馬で、加えて5台の荷馬車。そしてひと際目を引くのは、大きな豪華な二台の箱馬車だった。
タビーの足をゆるめて、ゆっくりと一団に近づいていく。
「ローリ!」
ノルド様が駆け寄ってきた。その後ろには、やれやれといった顔のヴォイドさんといつもの無表情なシュヴァルツさんだ。
「ノルド様、お待たせしてすみません」
私はタビーから降りて、手綱を取った。
「馬はこちらでお預かりしましょう」
水を用意してありますよ、と。すかさず他の騎士が現れて、タビーを連れて行ってしまう。
「あ、すみません」
空っぽになった私の手を、自然にノルド様がとった。
「ローリ、迎えにいけずすまなかった」
「いえ、全然。こちらこそお待たせしてしまってすみませんでした」
「いや、ちょうどよい時間であった。こちらは行軍訓練も兼ねていたからな。お前が早く来ても退屈させてしまうところだった。もう準備を整えられたから、すぐに出発できるぞ」
まずは馬車に案内しよう、とノルド様が手を引いてくれる。
「すごい馬車ですね」
4頭立ての大きな箱馬車は、紋などは入っていないけれど、重厚で見るからに頑丈そうだ。
──エディさんは、商隊で使う馬車は軽さと機動性、積載性が重要といっていたけれど。
目の前の馬車は、明らかに全て反対だった。
「お前を乗せて旅に出るのだ、頑丈で安全で快適でなければな」
ノルド様が馬車の扉を開いて車内を見せてくれる。
「部屋?」
覗き込んだ車内は、まるでお城の客室のようだった。座り心地の良さそうな椅子に、並べられたクッション。小さいけれど美しい設えのテーブル。厚手の絨毯が敷き詰められて、窓辺にはレースのカーテンが揺れている。
「夜は寝台になるようになっている。もうお前を地べたになぞ寝かせないからな」
あの行軍の時はすまなかった、とノルド様がいう。
「行軍が決まってから、殿下が職人を急かしに急かしましてねえ。車体を作るのも大変でしたけど、内装もなかなかの特急作業でしたよ」
お陰様でマクラウドも臨時収入になりました、と。いつも貴族らしいすまし顔のヴォイドさんがニコニコ顔でいう。
──これは、無理をさせやがってという怒りの表明なのだろうな……。
触らぬ神にたたりなし、私は無言のままニコニコ笑顔を返した。でも、少し引きつっていたかもしれない。
それから。やっぱり、ノルド様とヴォイドさんの認識は『行軍』なんだなあ、と。この旅にちょっとだけ不安を覚えた私だった。
「では、出発するか」
ノルド様がもう一台の馬車のほうに手を引いてくれる。
「あちらは?」
「あちらは殿下用の馬車です」
もう殿下を地べたになぞ寝かせませんよ、というヴォイドさんの声が聞こえた気がした。




