⑦ 魔力コントロール
翌日から私たちはひたすら連携して動く訓練をした。
私たちはキルシュの国境で、魔法が使えなくするための魔法具の腕輪をつけられることになる。
ただ、これはアルディスさんが仕掛けをしたものとすり替えてくれるそうで、特定の呪文を唱えれば外すことができるそうだ。
そして、当然ながらフィリーネの前に引き出される時、私たちは丸腰状態のはずだ。
丸腰で魔法も使えない私たちにフィリーネは油断するはずで、その隙をついてフィリーネの結界の魔法具を奪う、もしくは破壊する。
後のことを考えると、ここでフィリーネは殺さない方が望ましい。
最終的に責任を取る人物というのはいたほうがいいからだ。
もちろん、これは絶対条件ではなく、できればその方がいい、という程度に考えればいいと言われた。
いざとなったら自分の命を最優先に行動するように、と国王陛下から直々に厳命された。
もしフィリーネの結界が展開されてしまった場合は、まず二人で魔獣を始末し、それから結界を破ってフィリーネの身柄を押さえる。
その時、近くにアルディスさんや、味方をしてくれる騎士がいるかどうかはわからない。
私たちがそこでフィリーネとギースを討つのが最良の結果となるけど、そうならなかったらマックスのお兄さんが砦で準備している軍と、ジークが率いるアレグリンド軍が帝都に攻め入ることになる。
大まかにいえばこのような計画なのだそうだ。
もちろん状況次第で、臨機応変に対応しないといけないわけだけど。
王城内の奥まったところの人払いがされた訓練場で、私とマックスは土と汗だらけになっていた。
訓練につきあってくれるのは、エストラへの調査隊に参加していた騎士たちだった。
私は本番を想定し、胸をコルセットで平らにしてシークレットシューズを履いた状態だ。
そんな私に最初は青ざめた騎士たちに、
「頭がすごく軽くなりました。髪を気にしなくていいから、前より動きやすくなったくらいですよ」
と笑って見せると、とても複雑な顔をされてしまった。
「マックスの最大の課題は、魔力コントロールが大雑把なところだ。レオノーラ様ほどとは言わないが、もう少し効率よく魔力を使えるようにならないと。それから、レオノーラ様は魔力障壁に頼りすぎです。二人とも、魔力は最大限に温存するつもりで動くように」
ルーカスさんの指摘に、私とマックスは苦い顔で頷いた。
キルシュでなにが起こるかわからないのだから、ルーカスさんの言う通り魔力は使いすぎないようにしないといけない。
魔力切れを起こした時点で、多分終わりだ。
師匠とは魔法を使わない訓練をすることが多かったけど、これからは魔法を使っての訓練を集中的に行うことになっている。
暗くなるまで訓練をして、その後は私とマックスは離宮に戻った。
マックスも騎士の独身寮から離宮へと移動してきていて、つまり私たちは一日中ずっと一緒にいるのだ。
こんな状況ではあるけど、側にいられるのは嬉しい。
翌朝、先に目を覚ましたのは私だった。
仰向けで安らかな寝息をたてるマックスは、昼間はあれだけ訓練で体を動かした上に夜も随分と活発だったというのに、疲れた様子もなく肌艶がいい。
一晩寝れば体力も魔力も気力も全回復するというのだから、単純にすごいと思う。
マックスは寝室で私と二人になった時だけ仮面を外す。
精悍に整った顔を彩るきれいな赤い模様を見ることができるのは私だけだ。
そう思うたびに密かに優越感に浸っている。
マックスが私に深い愛情を向けてくれているのを日々感じる。
私も日を追うごとにもっともっとマックスのことが大好きになっていく。
親密さが格段に増し、多分そのおかげで日中の訓練での連携も以前より上手くいくようになった。
師匠が前に言っていたように、お互いの信頼関係が大事だというのを実感している。
私はじっとマックスの寝顔を見つめながら、王妃様がくれた閨指南書に書いてあった内容を思い出していた。
基本的にすることは前世と変わらないのだけど、いくつか目新し内容もあった。
その最たるものは、魔力についての記述だった。
魔力は体液にも含まれていて、含有量が最も高いのは精液なのだそうだ。
稀な例だけど、魔力量が豊富な男性の精を魔力量が少ない女性が受けた場合、その中に含まれる魔力を使って普段より多くの魔法が使えるようになることがあるらしい。
ただし、これにはいくつもの条件がある。
まず、女性側が魔力コントロールに長けていないといけない。
魔力量が少ないのに魔力コントロールに長けている、なんていう人はほとんどいないので、この時点でこれができる人は本当に少ないということがわかる。
また、男性と女性の魔力の相性が良くないといけない。
そうでないと、女性の中に魔力が馴染むことができず、女性が使えるようにならないのだそうだ。
相性が良いか悪いかがどうやってわかるかというのかは書いてなかった。
雑な判断だけど、これができたら相性が良い、できなかったら悪い、ということでいいのだろうか。
それから、当たり前だけど、魔法として使えるくらいの魔力を男性が女性に注がなくてはいけない。
つまり……それだけの回数、精を注がないといけないわけだ。
魔力量が少ない女性のことしか書いてなかったのは、魔力量が豊富な女性だったらわざわざ男性の魔力を使うようなことをしなくても、自分の魔力を使えばいいだけだからだ。
私は王族なだけあって、魔力量が豊富だ。マックスも同じくらいの魔力を持っている。
私は目を閉じて自分の体内を巡っている魔力の流れに集中した。
以前に薬を盛られて魔力を暴走させた時から、私は魔力の流れを以前よりもはっきりと感じられるようになった。
その流れの中に、自分本来のものでない魔力が僅かながら含まれているのを感じる。
といっても、せいぜい小さな火球を二つくらい作ったら使い切ってしまうくらいの魔力量でしかない。
私はマックスを起こさないように注意しながらそっと抱きつき、また目を閉じて集中した。
逞しい体は温かく、若い肌は滑らかで張りがあって、触れているだけで気持ちがいい。
こうして触れていると、マックスの中の魔力の流れを、確かに私も感じることができた。
多分、いける。
今日、早速試してみよう。
マックスが身じろぎして、私の体に腕が回された。
「おはよう、レオ」
寝起きのどこかぼんやりとした表情も、またセクシーでドキドキしてしまう。
「おはよう、マックス」
私は左頬の赤い模様にキスをした。




