⑳ 合流
夏の一大イベントであるファーリーン湖遠征が終わり、そこからはとにかく遊びまわった。
アルツェークにある町や村を観て回ったり、少し離れたところにある高原まで遠乗りしたり、また魔獣を狩ったり。
ここでも私とキアーラとマックスは固定メンバーで、そこにカイル兄様と年嵩で既に家庭がある騎士が交代で加わるようになった。
『レオナさんをおんぶし隊』の人たちはカイル兄様によって遠ざけられたようで、私は内心ほっとしていた。
毎日楽しく過ごし、あと数日で王都に発たなければならないというある日。
私は早朝に慌ただしく起こされ、全身を磨き上げられてアルツェーク地方の伝統衣装を着せられて髪を結い上げられて、とにかく『レオ様を可愛くし隊』のなすがままにされた。
そして、やっと完成品となって玄関ホールに連れていかれた私は、驚きに目を見開いた。
「ジーク!それにエリオットと、フェリクスまで!」
そこにいたのは、いつものお忍びスタイルでプラチナブロンドの髪を茶色に染めたジークと、旅装姿のエリオットとフェリクスだった。
「レオ、元気そうだね。安心したよ。やっぱり僕のレオはなにを着ても似合うね。とても可愛いよ」
約二か月ぶりに会うジークは、町娘風にシニョンに結われた私の頭をいつものように優しく撫でてくれた。
あの双頭の魔獣の件で、ジークが直々にお忍びで調査に来たということだった。
魔石や素材と共に、私たちがわかる限りの情報を全て記した記録を王都に送ったのだけど、それの確認と調査結果の報告のためという名目らしい。
「ここから話すことは極秘情報だ。口外することを禁ずる」
子爵家の面々と私たちだけを残して人払いをした応接室で、ジークが王太子の顔で口を開いた。
「王都の魔法研究所で魔石と素材を解析した結果、あれは人工的に改造された魔獣であったことがわかった」
他の人たちと同じように驚愕の表情をつくりながら、ああやっぱり、と前世の知識がある私は思った。
魔獣をくっつけてキメラをつくる、みたいな漫画とかがよくあったので、あの魔獣を見た瞬間にそれではないかと思ったのだ。
「アレグリンドでは今回が初めてだったが、近隣の国々でここ最近同じような魔獣が出現することが確認されている。異なる魔獣の体を継ぎ合わせたような姿で、複数の属性を持つのが特徴だ。どれも強力な魔獣で、各地で大きな被害が出ている。今回のように犠牲者が一人も出なかったというのは奇跡的な幸運だ。
誰が何の目的でこんなことをしているのか、どんな方法でこんな魔獣を造り出しているのかはまだ不明だ。いつ、どこに、どのような魔獣が出るかというのも今のところ全く予想がつかない。後日、研究者を含む調査隊が王都から派遣されてくるので、シストレイン子爵にファーリーン湖への案内等の協力を要請する。これについては、近日中に王都から正式な書面が届くことになっている」
おじ様が無言で礼をとり承諾を示した。
ジークがふっと表情を緩めた。
「さて、シストレイン子爵。レオとマックスがお世話になったね。二人ともとても有意義な時間を過ごせたようだ。礼を言うよ」
「恐れ入ります」
「これから数日、僕たちも世話になる。ここから僕はレオナの兄、ジーク・リザルドだ。そのつもりで扱ってほしい。というわけで、よろしく頼む」
ジークは私の兄で、エリオットとフェリクスはその友人という設定なのだそうだ。
こうしてアルツェークで過ごす最後の数日をお忍びメンバー全員で過ごすことになった。
「ジーク。あの、父上は……?」
「ああ、叔父上は変わらず過ごしておられると聞いているよ。体調も安定しているそうだ。レオが送った手紙と魔石でとても喜ばれたそうだよ」
父には、騎士団について遠方の魔獣狩りに行く、と説明してあるのだ。
私は騎士に混ざって勇ましく戦っていると読めるように事実をぼかして書いて、私が実際に狩った魔獣の魔石を添えて手紙を出した。
シストレイン子爵家の騎士に混ざっているのも、魔獣を狩っているのも嘘ではないので、許される範囲内だと思う。
案の定、父はそれを信じて喜んでいるということなので、これでよかったのだと思うことにした。
それから、ファーリーン湖遠征の記録を王都に送った際、キアーラはジーク宛ての手紙を二通送った。
私がアルツェークでどのように過ごしているか、なにができるようになったか、どのように可愛くなったか、など普段の私の生活についての報告がキアーラ視点で記されているものが一通。
もう一通は、ファーリーン湖遠征についてだ。
道中で私がどうしていたか、どのように活躍したか、などが事細かに主観的に記されている。
特に、双頭の魔獣との戦闘編については、それだけで便箋三十枚にも及ぶ大長編となっていた。
私も読ませてもらったけど、キアーラの目に私はこう見えているのかと思うと気恥ずかしくなった。
とにかく美化されていて、まるで女神様かなにかみたいな修飾語が溢れた描写になっているのだ。
この中には当然ながらマックスも登場するのだけど、そちらはあっさり普通に見たままで書いてある。
おかげでマックスの方が派手に活躍し最終的に止めを刺したというのに、私が八割マックスが二割くらいの内容になっていた。
あの手紙を読んで、ジークはどう思ったのだろうか。あまり考えたくない。
翌日の午前中は、またお掃除魔法でルルグ狩りをした。ルルグの群れを一網打尽にして見せると、ジークたちは目を見開いて驚いた。
午後からは魔法障壁を張りながら火の鳩を飛ばして見せた。
キアーラの手紙で知らされていた内容だったはずだけど、文字で読むのと実際に見るのは違ったらしくジークたちはさらに目を見開いて驚いていた。
さらに、晩餐の食材にと私が自分で狩ったザブルを解体したときは、ジークたちは驚愕で固まっていた。
ジークたち三人も今まであまり王都の外には出たことがないらしく、いろんなものが新鮮だったようだ。
そして、なぜかフェリクスは複雑な顔で私を見ていた。
その理由が晩餐の後にわかった。
アルツェークの郷土料理に舌鼓を打ち、さらにこの地域特産の蒸留酒をおじ様に勧められてしばらくしてから。
「れおぉぉぉ~」
突然フェリクスが壊れたのだ。




