第一章1 「目覚め」
ーー暗い。
目を開けると辺りは真っ暗だった。
ーーここ、どこ?
「うーん…んん? うわ、変な声…」
若そうな女の声だ。
多分、自分の声だけど気持ち悪い。
「んーと、何をしていたんだっけ?」
昨日は…
一昨日は…
1週間前は…??
って、私って誰だっけ?
「……」
どこにいるのか。自分が誰なのか、何も分からない、覚えてない。
自分の体に触れてみるが、体はある。
地面はやわらかいベッドの上ではなく、硬くて冷たい石のようだ。
手を伸ばして周囲を探索すると、すぐに何かに触れた。
ーーん、なにこれ?
冷たくて、ツルツルした丸い棒。間には拳一つ分の空間を空けて、一定間隔に並んでいる。
「誰か居ませんかー?」
声を上げ、耳をすませてみる。
しばらくして、遠くからコツ、コツと固い地面を叩くような音が近づいてきた。
それと同時に周囲が明るくなってくる。
「はぁ…こんな面倒な仕事辞めたい」
姿を現したのは全身に鎧をつけた男だった。片手には、松明が握られている。
男はやる気のなさそうな目でこちらを見ていた。
「何か用か」
「ここってどこなんですか?」
「……地下牢だ」
ーー地下牢?
周囲が男の持つ松明の炎で照らされた。
「うぇ…」
家具一つない殺風景な部屋。
薄汚れた地面からは鼻を刺激する酷い臭い。
先ほど触れていたのは鉄格子だったようだ。手には鉄の臭いが染み付いていた。
ーー臭い…
どうやら、私は鉄格子で囲まれた一室に閉じ込められているらしい。
男が呆れたようにため息をつき、背を向けた。
「ちょっとまって! 私、何でこんなところに入れられてるの?」
「…明日わかることだ。もう行くぞ」
男は煩わしそうに頭を掻き、そのまま歩き去っていく。
松明の光が無くなり、あたりは再び暗闇に包まれた。
「明日わかること…?」
あの人、もう一回呼んだら来てくれるかな?
ちゃんと聞けば、ここに入れられてる理由答えてくれるかもしれないし……
「ーー!」
もう一度呼ぼうかどうか考えていると、背後から何かが擦れるような音が聞こえてきた。
「だれ!?」
暗闇の中、檻の中に情けない声が響く。
誰もいないものだと思っていたから、慌てて飛びのき、鉄格子に体をぶつけた。
「目覚めて早々、どうしたのかしら?」
透き通った声が檻の中を響かせる。
声からして女だ。
いるんだったら、さっき返事してくれたってよかったのに、、
「いや、特になんでもないよ! あはは…」
本当なら聞きたいこと沢山あったんだけど、慌てたせいで適当に返事をしてしまった。
ーー幽霊かと思った…
胸に当てた手からは、今でも心臓が激しく脈打つのを感じる。
「……そうなの?」
「うん…」
微妙な空気。
そんな空気を変えるかのように、しばらくして、女の方から会話を始めた。
「…ところで、あなたは何でここにいるのかしら?」
「私…が知りたいぐらいですよ、ここがどこなのかすら分かってないですし」
「そんな隠さなくても…誰にも言わないわよ」
優しい声、諭すような口調だ。
隠してないんだけど…。
「本当ですよ、私、記憶喪失みたいなんです」
「きおくそうしつ?っていうのは何なのかしら? ごめんなさい、あまり詳しくなくて…」
女は困惑したような声を上げた。
記憶喪失を知らないと言われたので、軽く説明することにした。
「うーん、何かのきっかけで記憶を失ってしまう病気…のこと? 多分…」
「初めて聞いたわ。魔法では治せない呪いの類、なのかしら」
女は真剣な口調で言った。
ーー??
「魔法? 呪い?」
額に手を当て、思い出を探る。
なぜかこの2つから違和感を感じる。
うーん、なんかこう…なんかって感じ!
「あら、魔法を見たことがないのかしら? 呪いは私も見たことがないのだけれど、魔法なら見せられるわ」
『イルフィネイト』
女が何かを呟く。
それが原因か、暗闇の中、私の目には白いモヤが見えた。小さなモヤだ。それは天に向かって浮かぶと、次第に膨らみ、破裂した。
散らばったモヤをよく見ると、大きさの異なる星形の光が集まってできているようだった。
「わぁ……!綺麗…」
気づけば、光に照らされるかのように壁の隅にボロボロな服を着た金髪の少女が座っているのが見えた。
「あら、可愛い」
こちらを見て、微笑む金髪の少女。
「ね、ねぇ…!」
金髪少女との距離を少しずつ詰めた。
さっきのが魔法なのかな?
キラキラしてて可愛いなぁ〜
ーー私も使ってみたい!
「さっきのどうやったの? すごく綺麗だった!」




