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第1話「ステータスがおかしい」

薄暗い石畳の上で、俺はしばらく動けなかった。

さっきまで教室にいたはずだ。

ざわざわした空気と、誰かの苛立った声と——

言いかけて、やめた自分の言葉。

そこまで思い出して、思考が止まる。

目の前には知らない路地。中世っぽい建物。

遠くから聞こえる喧騒。

どう見ても、日本じゃない。

「……マジで?」

立ち上がった瞬間、視界の端に光が滲んだ。

半透明のウィンドウが、空中に浮かぶ。


【ステータス】

筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:E

コミュニケーション能力:SSS


「……は?」

見間違いじゃない。

コミュニケーション能力。SSS。

俺が?

人と話すのが怖くて、何を言えばいいか分からなくて、結局何も言えなくなるような人間が。

「バグってるだろ、これ」

呟いた瞬間。

「おい、そこのお前!」

振り向く。鎧の男が、こちらに向かってきていた。

顔が強張っている。焦っている。

「赤い髪のガキを見なかったか、さっきこの辺を——」

言葉が頭に入ってくる。

同時に——何かが走った。

男の声と、表情と、視線の動きが、微妙に噛み合っていない。

焦っている。でもそれだけじゃない。もっと別の——

ああ。

なぜか、分かった。

「足、引きずってましたよね」

気づいたときには、口が動いていた。

「その子、まだ遠くに行ってないと思います」

男の目が見開かれる。

「なんでそれを——」

言いかけて、息を飲んだ。

「……そうだ。あいつ、怪我してた」

「ありがとう!助かった!」

男は走り去った。

その背中を見送りながら、俺は動けなかった。

「……当たった」

誰にも聞こえない声で、呟く。

人に何かを言って——ちゃんと届いた感覚。

初めてだった。

怖かったはずなのに、逃げたくならなかった。

間違えたとも思わなかった。

もう一度、ウィンドウを見る。

コミュニケーション能力:SSS。

「……意味わかんねえ」

そう言いながら。

ほんの少しだけ、胸の奥が軽くなった気がした。

——そのとき、視界の端に、赤い髪が見えた。

振り向いたときには、もういなかった。

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