表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/52

【第1話 骸府】

「その力は、血で動いていた。」


文律――人の血を媒介に発動する力。

それは国家によって管理され、選ばれた者だけが扱うことを許されている。


だが、レドはずっと違和感を抱いていた。


なぜ、この力は存在するのか。

遥か昔、世界は一度終わったらしい。

――そう語る者がいる。


男「……死んだか。」

女「ええ。反応は止まってる。」


 血と、焼けた肉の臭いが谷に満ちていた。

 崖下には、一人の青年が倒れている。

 四肢は力なく投げ出され、呼吸はほとんど感じられない。

 だが――

 その目だけが、かすかに動いていた。


女「…“骸府”が来たわね。」

男「…回収の時間だ。ずらかるぞ。」


青年「(……あの文律……完成している……隙がない……)」


青年「(……これは……誰かが“書いた”ものだ……)」


 視界は霞んでいる。

 だが、思考だけは異様に澄んでいた。


青年「(……崩せない……なら、受けるしか……)」


風が、頬を撫でる。


青年「……骸府…?」


――それが、何かは分からない。


荒れた谷を、二人が進んでいた。

ガルドと、テス。


ガルド「…さっきの轟音、この辺りじゃないか?」

テス「ああ、例の賊かもな。戦闘は終わったようだが、まだいるかもしれない。」


テスは、矢筒から一本の矢を手に取る。

気付いた時には、それはそこにいた。

いつからそこにいたのか、分からない。音もなく。


ガルド「骸府…。さっきの戦いで、“文律師”がやられたようだな…?」

テス「…“死の案内人”。…だとすると、賊ではない。面倒事の臭いがする。」

ガルド「…。」

テス「ガルド。…関わらない方が身のためだぞ。」

ガルド「承知の上だ。…なに、ご尊顔を拝するだけだ。」


ガルドは、背中の不気味な黒い剣を手に取る。

その剣は、形を保っていなかった。

刀身が、波のように揺れている。

黒い外套を追い、崖下を覗く。

骸府が、青年の傍らに直立すると、ゆっくりと腰を落とした。


ガルド「……いるな。誰か倒れている。」


ガルドは、崖を滑り降りる。

骸府は、衣の下から黒い腕を出して青年の頬を触れる。

骸府の白い仮面の古言語が脈打つように静かに光った。


ガルド「邪魔するぜ。」


ガルドは、大胆に距離を詰めると剣を振り下ろす。

手応えは、なかった。

骸府は、一瞬だけ硬直した。

――そして、

ゆっくりと、青年から離れていった。


ガルド「…下がったか。……ん?」


ガルドは、血に濡れた頬の刻印に、目が止まる。

荒っぽく青年の顎を掴んで、左頬を上に向けた。


テス「…やはり、文律師か?」


テスが追いつく。


ガルド「…“文院”の刻印だ。」

テス「なに…?…ずいぶん若そうだな。この銀髪、フランバル人か?…酷い傷だ。」

ガルド「確かに、お前の言うとおりかもな。……だが、捨てるには惜しい。」


ガルドは、その青年の上体を起こす。口に溜まっていた血が滴り落ちた。


ガルド「……死んでねぇな。まだ、“残ってる”。」


ガルドは、その青年を背負い上げる。風が吹けば飛びそうな薄い体が、その背中に貼り付いていた。


テス「ガルド…関わらない方がいい。」

ガルド「…こいつは、知っているかもしれない。」

テス「…だが…。」

ガルド「…レータを殺した奴が、文院にいるんだ。…本当なら、今すぐにでも問い詰めたいところだ。」

テス「…知らないぞ。ロルダンさんに、なんと言われるか。」


傾いた日差しが彼らの背中を照らす。

荒涼とした谷は、やがて草木の茂る地へと変わっていく。

青年の手がわずかに動いた。


ガルド「おっと、死ぬなよ。…まだ、お前に聞きたいことがあるんだ。」

青年「……ぶん……りつ……」

ガルド「……は?」

青年「…あれは…知らない構文…だ……。」


その言葉に、

ガルドは、初めて言葉を失った。

――知らない構文?

そんなものが、存在するのか。

――あってはならないはずものが、そこにある。


青年「(……まだ……終わってない……)」



続く

ここまで読んでいただきありがとうございます。



以下のキービジュアルは、この物語の軸のレド(右)とガナック(左)です。

https://50424.mitemin.net/i1120637/

※画像は、ラフ絵をもとにAIで着色+ブラッシュアップしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ