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10、検問所  

 夜の森は、静寂に包まれている。


 静寂の中、月明かりが照らすのは、147号線。昨日のナナの家族の死体発見から約24時間後。相も変わらず、666大隊は静かな行軍を続けている。


 街道の先にぽつりと灯る焚き火の明かり。オウル第3小隊──クラウディア・ワイルドキャット、エレオノーラ・ドーントレス、レナ・デバステーターの3人は、倒木に身を隠しながらその様子を見下ろしていた。


「……間違いない。あれ、検問……っていうか、カツアゲ所だね」


 クラウディアが双眼鏡を覗きながら呟く。


「通行人から物資を巻き上げる反政府系ゲリラ。噂には聞いてたけど……本当にいるんだね。ああいう不届き者は。練度は……ふつーに低いね。銃の持ち方も素人。警戒ゼロ。こっち気づいてすらいない。装甲車が1台いるけど……エンジン停止中」


「人数は?」


「見える範囲で5人。奥に2人。あわせて7。装甲車の中と、奥の兵舎に何人かってところか……伏兵はいなさそう……合計20人もいないかな?……む?」


「どうしたの?」


 クラウディアが顔をしかめたのをエレオノーラは見逃さない。


「奥の2人は女を抱いてる…………というより乱暴中だね、ありゃ。合意の上には見えない」


「……嫌なもん見ちゃったな」


「身なり的に、貴族令嬢っぽいなぁ……。カークに逃れる途中で捕まったってところか」


「レナは?」


「……いつでも撃てる」


 エレオノーラが問いかけると、レナは無言で小さく返した。細身の少女は、すでに支援射撃体勢に入っている。息は静かに、正確に。心を無にした狙撃手のtype55狙撃銃が、焚き火のまわりの男たちを正確に捉えていた。


「よし、状況報告してくるわ」


 エレオノーラは背負った通信機を使って、手早く本隊に報告する。数分後、返ってきたのは隊長スカイ・キャリアベースの冷静な声だった。


『迂回せず正面突破する。バルチャー隊を展開し、見張りを狙撃。イーグル第2小隊が敵車両を起動前に撃破。残りも迅速に始末する』


「了解、殿下」


『……例の如く「口封じ」は徹底する。本隊合流までそこで待機せよ、オウル3』


 通信が切れると、クラウディアはふと息をつき、ふたりの方に振り向いた。


「……二人とも、いつもありがとね」


「ん? なに、いきなり」


 エレオノーラがきょとんとした顔で言う。


「……」


 レナは何も言わない。ただ、じっとクラウディアの目を見ている。


「いやさ。アレ見てたら、私らみたいな貴族組が、こんな状況でも貴族らしくいられるのって、あんたたち平民組が一緒に戦って、寄り添ってくれるからだなって、ふと思ってさ」


 クラウディアの声は、いつもより少しだけ静かで、温度があった。声には、視線の先で現在悲惨な目にあっている令嬢への、同情とも憐れみともいえない感情が乗っていた。


「私ら貴族ってさ、王都が落ちて、家も、地位も、許婚も、財産も、何もかも失って……残ったのってプライドだけだったのよ。それすら、笑い者にされてもおかしくないのに、あんたらはお嬢様って呼んでくれてさ……666から一歩出れば私らはただの難民少女。権威も血の尊さも何の役にも立たない、生意気なだけの女。アレ見てりゃ嫌でも自覚するよ」


 諦観を込めた視線で、犯されている貴族令嬢を見ながら、クラウディアは呟く。


「だって、事実でしょ? クラウディアは貴族だし、頭も切れるし、うちらにないものいっぱい持ってる。私はそれ、素直にすごいと思ってるよ?」


 エレオノーラは、愛用の33式自動歩槍を担いで、肩をすくめて笑った。


「ありがと。でも、その一言で、どれだけ救われるか、あんたには想像もつかないわよ」


「……」


 レナはまだ何も言わない。ただ、クラウディアの肩に手を置いた。それだけで十分だった。


 クラウディアは軽く目を伏せ、少しだけ鼻をすすった。


「だから、あんたらの為にも、私、貴族であり続ける。お嬢様って呼ばれた以上は、死ぬ時も、お嬢様らしく死ぬ。前に出て、盾になって、威張って、突っ走って、華麗に砕けてやるわよ。……あんたらが、生き残れるように」


「やめなって。死に急ぐような真似。隊長が聞いたら、怒るよ? 生き延びてこそってやつ。それに私らの異名を忘れたの? 不死身の第3小隊、ラッキーシスターズ」


「ふふ……そっか。そうだった。死んで花実は咲かない、か! それにうちの隊長、美少年ゲリラだけど根は真面目君だからね」


「あと女の子のパンツ大好きな変態でもある」


「違いない。目の前でわざとパンチラするとガン見してきて面白いんだ。視線でバレバレだっての」


 クラウディアは、スコープを覗くレナに軽く合図を送る。


「レナ、そのまま待機。でも、いつでも撃てる様にしといて」


「了解」


 レナは小さく頷く。いつもと同じように。


「じゃあ……夜のワルツ、始めようか。貴族と平民の、身分・参加資格不問の戦場舞踏会」


「了解、クラウディアお嬢様」


「ビュッフェスタイル。敵兵は食べ放題」


「……そうこなくちゃ」


 クラウディアの言葉に、残りの二人は笑んだ。本体到着まであと15分程だ。


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