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1、短所と長所は紙一重

 ここはP世界線。W世界線よりも少し人々の心が優しくて、賢かった結果、別の歴史を辿って、地獄の様な内戦が「起きなかった」世界。


 放課後。このアポカリプス学園が一番賑やかになる時間。

 

 部活や帰宅する生徒達の声が至る所で響いている。


 学園の喧騒とは裏腹に静かな生徒会室には、机を挟んでレベッカとアリスだけが座っていた。まだ、スカイとエリザベスは来ていない。


 アリス・アリゲーターは、いつもの柔らかい笑みを浮かべつつも、名前通りの獲物を待ち伏せる鰐の様な冷ややか目をしながら、開口一番に口を開いた。


「……レベッカ。昨日はスカイにフラれたみたいだね。可哀想に」


「……なんで、それを知ってるの?」


 レベッカの目が少し恐怖をはらんだものになる。アリスは軽く肩をすくめて言った。


「前にも言ったじゃん。スカイのことは、24時間監視してるって」


「……あれ、ジョークじゃなくて本当だったの?」


「こちとらラノベヒロイン界隈でも珍しい『話の分かる工学系ヤンデレ』だよ? 隠しカメラや盗聴器仕込むなんて朝飯前さ」


 ケラケラと笑いながらアリスはいう。


「話の分かるヤンデレなら、もう少し穏健にしてて欲しいんだけど」


「スカイの持ってるエロ本やエロビデオだって把握してる。あの子、下着フェチだね。しかも極度の匂いフェチも併発してる。次、夜這いかける時は、シャワーを浴びずに行った方が良いよ」


 レベッカは、何とも言えない表情でアリスを見た。


「アドバイスありがとう。……フラれたわけじゃない。まだ時期じゃないって、再確認しただけ」


「ふーん。それで、満足してるんだ?」


 アリスの声は、どこか優しくも、冷ややかな響きを持っていた。


「ま、レベッカがそれで良いなら、それで良いと思うけどね……」


 と、そこでふと、彼女はわざとらしく目を細めて続けた。


「……ただ、あの場にあたしがいたら、構わずスカイをベッドに押し倒してたと思うよ?」


 レベッカの顔がピクリと動く。


「アンタに、スカイを御せるとは思えないけど?」


「御す必要なんて、ないよ」


 アリスは穏やかに笑う。瞳の奥に、何か危うい光が宿っていた。


「スカイのあのAIの様な合理性、あの獣の様な暴力性、あの邪神の様な理不尽さ……本当にゾクゾクするんだよね」


 陶酔した様な、うっとりとした顔でそう言うアリスは、歓喜と妙な色っぽさがあった。


「昨日、エリザベスも言ってたけど、スカイって、独裁者みたいなとこあるからさ。あのカリスマに惚れたんだよ。私は。まるでヒトラーに従うSS隊員の様な気分とでも言うかな……」


 ――こいつ、ヤバいな…………


 思わずレベッカは心の中で呟いた。口には出さなかったが、顔に全部出ていた。


 アリスはそれすらも面白そうに笑って見つめる。


「……それに、私ね、推しの短所や欠点にも萌えられる性癖でさ。レベッカが幼馴染の座に胡座かいて、ぼやぼやしてるなら――盗っちゃうかもよ?」


 レベッカは、じっとアリスの瞳を見返す。そこにあったのは、挑発ではない。純粋な忠告――あるいは誓いのような何かだった。


「……やっぱり、アンタは私の永遠のライバルだわ」


「直々に好敵手認定とは光栄だね、幼馴染様」


 ふたりの間に、一瞬だけ沈黙が落ちた。


 だが、その静けさはただの隙ではなく、刃と刃が静かに交わるような、緊張の均衡だった。


 やがて、ドアが開く音が響いた。スカイとエリザベスが生徒会室に入ってきた。


「あ、遅れてごめん。シャーロット先輩からダル絡みされてて。あの人、ガチレズとか自称してる癖にしょっちゅう僕にちょっかいかけてくるんだもん。困っちゃうよ。……さ、会議、始めようか」


 スカイの何気ない声に、ふたりは同時に微笑んで――


 どちらが先に、彼の方を振り向いたかは、誰にも分からなかった。

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