EXシナリオ P世界線×W世界線×H世界線 2、ズレ
廃墟のダラ通り。
鼠色の空の下、二人のスカイは軒先に並んで腰掛けていた。
不思議な気分だ。
見た目は瓜二つ。けれど、彼らは明らかに別の人生を歩んだ、別のスカイだった。
向こうのスカイ――セラフィーナの言葉を借りるなら、『W世界線』のスカイは、ふと目を伏せて呟いた。
「……何か少し、ショックだな」
その声に、Pの世界のスカイは自然と問いかけた。
「……嫉妬した? 平和な世界に」
「別に」
と、Wの世界のスカイは肩をすくめた。
「こちとら貧民街生まれの貧民街育ち。ぬるま湯の生活は、たぶん性に合わない。……ただ、この俺が、こんな人畜無害そうな美少年になるのかと思うと、さすがにね」
Pのスカイは少し笑ってみせた。
「ふふ。外見だけさ。こう見えても、学園の平和のために拳を振るうこともあるんだよ?」
それに対して、Wのスカイもわずかに口元を緩めた。
「なんだ。可愛い外見の割に、やるじゃないか」
……皮肉を混ぜつつも、そこにあるのは、認める目だった。
「僕もショックだったよ」
Pのスカイは静かに続けた。
「まさか自分が別の世界線では『王子様』になってるなんて。……こっちでは、ただの三姉弟の末っ子。シングルマザーの母に育てられて、姉たちと一緒に、貧しいなりに静かに生きてきた。……父親は、僕が物心つく前に死んじゃってる。もちろん、王様の隠し子なんてことも無いよ」
Wのスカイが眉をひそめた。
「……世界線が違うと、出生からしてズレが起きるんだな。そこは、意外だった」
小さな間を挟んで、彼は少しだけ表情を緩めた。
「…………姉ちゃんの名前は?」
「クラリーチェ・キャリアベースと、ニーナ・キャリアベース」
その名前を聞いた瞬間、Wのスカイの瞳が揺れた。
「……クソッタレばかりの王家の中では、666の王族の子達と同様、珍しくまともな姉たちだ。そっちだと、同母きょうだいになってるのか」
彼女らはそちらの世界では、希望の象徴のような存在なのだろう。
「凄い人なの? そっちの姉さん達」
「ああ。クラリーチェ姉上は機甲師団の、ニーナ姉上はヘリコプター旅団を率いる有能な軍人だ。俺達の部隊も何度も世話になった」
「姉さんたちがお姫様で軍人かぁ……世界線同士でも、色々ズレがあるみたいだね……しかし、僕が王子さま」
言いながら、Pのスカイはピンとこなくて少し空を見上げる。空は曇天。
Wのスカイは、ゆっくりと立ち上がって言った。
「……ま、王子さまなんて碌なもんじゃないよ。皆、殿下殿下って、縋ってきやがる……俺はただの戦争が強い、美少年でしかないってのに」
その言い方には、苛立ちも呆れと疲労。だが、ほんの少しのプライドも混じっていた。
Pのスカイは静かに問いかけた。
「……でも、見捨てられないんでしょ? そういう子たちを」
Wのスカイがピタリと動きを止めた。
しばらく沈黙の後、肩を落としながら、こちらを振り向く。
「……流石俺。よく分かってるじゃないか」




