8、作者はスカイ君の事は大好きですよ? 愛が歪んでいるだけで
スカイの影から生えている謎の美少女。彼女はどや顔をたたえたまま、とうとうと語り始める。
* * *
私、ネクロディアは、元々、豊穣の女神として崇められていた。神様として意識が芽生えたのは1万年くらい前。
なんで神様になったかって?
…………私はあんまり過去の事を語りたがらない系の神様でね。とりあえず、ある少女の怨念が具現化した存在、とだけ言っておこう。怨霊、もしくは祟り神ってやつ?
今まで生贄と引き換えに、様々な恵みを人々に与えてきた。ああ、生贄っていうのは君達くらいの年齢の少女達さ。このくらいの年の頃の娘の、恐怖と絶望のトッピングされた魂は中々美味なんだ。
……わぁ、怖がってる。安心しな。私は恵みと引き換えの、『正式な供物』しか食べない主義でね。ギブアンドテイクが私のポリシーだからね。恵みを求めないなら贄は受け取らない。
それに、見境無く食べたら『在庫』が無くなるだろ? 漁場保護ってやつ。美味いからって狩り尽くしたリョコウバトみたいな真似をするのは愚かだからね。
前は無償で願いを叶えてやってた時期もあったけど。助けた連中が露骨に調子に乗って、私の事蔑ろにし始めたから止めたんだ。人間ってのは甘やかすとすぐ調子に乗り始める。嫌になっちゃうね。
ま、そうこうしてるうちに1000年前。今のブラックバニア国教が成立すると、私は用済みとばかりに「生贄を求める邪悪な土着神」扱いされてポイ捨てされた。まあ邪悪なのは事実だけど。
僅かに残った教団は迫害されて消滅。
私自身は小さな蛙の像に封印された。まったく、欲に溺れた宗教家と、信仰の無い神様程、惨めなものは無いねぇ。
で、狭苦しい像に封じられて1000年経った。その邪神像を壊して、私を解放したのが君達だ。
1000年経つうちにやりたい事も色々出来たからねぇ。とりあえず、君達の中で一番可愛い子を依代にして、肉体を得ようと思った。触手でくるんで精神を食らいつくして、抜け殻と化した肉体を乗っ取らせてもらおうってね。
そしたらなんだい? 一番可愛い子だと思ったのが姉ちゃんじゃなくて、兄ちゃんだった! こんなの詐欺だよ詐欺!
しかも、スカイ君……。君、何か私との相性が妙に良い……いや、この場合は悪いか。私の精神破壊攻撃が一切効かない!
それどころか、君の魂は私の神格を逆に融合しようとしてくる始末!
このままじゃ、W世界線の方みたいに完全に融合させられて強制的に人生を共にする伴侶にさせられちゃう!
こりゃまずいと思って、私は咄嗟に自身の魂の緊急避難先の肉体を生成した。
ところが急ごしらえだったもんだから、上半身しか作れなかった。それどころか、この肉体は君の影法師が存在する場所で、それを通してでしか実体化出来ない欠陥品になってしまった。急ごしらえ品なんてロクなもんじゃないね。やっぱり。これじゃあ『妖怪 美少女てけてけ』だよ!
……私の魂は君と半融合状態で共存する事になるよ。影法師のある所では半分実体化して、それ以外は君の心の一角に居候させてもらう形になるな。まあ、実体化しなくても良いんだけど。ただ、こういう小説、画面に出てくる女の子は多い方が良いだろ?
W世界線の方じゃ完全に融合して、私の美少女形態は出ないからね! P世界線限定品! 読者にもサービスしないとね。
……というわけで、これからよろしくね、『もう1人の私』。私の事は某カードゲームアニメリスペクトで『相棒』って呼んでもいいよ♡
***
悪びれもせず、自称ネクロディアはとうとうと語った。
そう語り終えたとき、場には沈黙だけが残っていた。
誰一人、声を上げなかった。
かろうじて、スカイは声を上げる。
「あのさ……色々言いたいことはあるんだけどさ。一つ良いかな?」
「なんだい? スカイ君」
「お前……邪悪過ぎないか……? 」
怒りを通り越して、呆れた顔でスカイはこの茶髪の美少女を見た。踏んづけてやろうかとも思ったが、それは流石にこらえた。
「長々身の上話してさ……話をまとめると、僕の体を乗っ取ろうとした挙句、失敗したのでとり憑きました☆ ごめんね♡ だろ? あまりにも理不尽過ぎない……?」
「私、邪神だから☆」
「なんなの、作者は僕の事嫌いなの……?」
突然、邪悪な神様と融合させられたことに、彼は頭を抱えるしかなかった。




