4、生贄部隊
「……」
「……」
「……」
「……」
四人とも、言葉が出なかった。
あの戦い以降、第666大隊はさらに激烈な戦場へと送り込まれていった。
その結果、当初は千人ほどいた兵力は、今やわずか百人。つまり、たったの十分の一にまで減ってしまったのだ。
理由は明白だった。
あまりにも大きな戦果を上げてしまったから。
もともとこの大隊は、すべて女学生だけで編成された異例の学徒兵部隊だった。
当初は誰もが嘲笑した。
「銃を握った女子供に何ができる?」と。
しかし、現実は違った。
二千人もの敵を殺してしまった。
沈黙を破ったのは、アリスだった。
「思うに、この部隊って元々はプロパガンダ用だったんじゃないかな。確かにフーイ村の戦いもあったけど、あれだって殿軍を務めていたファルコン隊が怖気づかなければ、ちゃんと安全に撤退できる戦いだったんだよ」
フーイ村での撤退戦。
貧民街出身の多いファルコン隊の隊員たちは、スカイの幼馴染であるレベッカ・シューティングスターを除いて一斉に脱走。結果、敵の追撃部隊と血みどろの戦闘に巻き込まれてしまった。
「スカイだって確か、元は貧民街育ちだったよね。それが陛下の隠し子と発覚して、あれよあれよという間に『貧民街出身の王子、帰還! 戦乙女たちを指揮!』って祭り上げられて、この部隊の指揮官に収まっちゃって……」
「つまり、666大隊は本来は見た目重視の飾り部隊だったってわけ? それが何の因果か、やる気の無い政府軍の正規部隊をしのぐエースになっちゃったって事?」
エレナが静かに言った。だがアリスは首を振る。
「ただ……そうだとしても変なことが多いんだよね、この部隊。いつも最前線に投入されてるし、あのブラッディ・ダラでの活躍だって、いくらなんでも過酷すぎるだろ。まるで本当に『生贄』みたいだ」
ま、今更だけど……そう呟き、アリスはため息をつき、横になった。
「まったく……変な奴らばっかりよくも百人も残ったもんだよ。皆、さっさと逃げちゃえばよかったのに」
不満げに吐き捨てるアリスに、エレナが静かに反論した。
「私は、裏切って逃げた奴らは許せないな」
王都脱出時にはまだ三百人ほどいた大隊員たちのうち、今や三分の二が脱走している。エレナにとって、それはまさに「スカイへの裏切り」だった。
「違うよ、エレナ。みんなが一斉に逃げちゃえば、スカイは私が独り占めできたって言いたいの!」
アリスの瞳からハイライトが消え、どこか諦めたような響きでそう呟いた。三人は苦笑する。
「何よ、いきなりヤンデレモードに入らないでよ……」
「逃げて良いって言われたって、何人かは絶対残るって! 隊長、人気者だし」
「私達、あの人に着いていったから、生き残った様なもんだしね」
「……けっ、身内に、エリザベスに、レベッカに……ライバルが多いなぁ」